あん肝

ふんわり

ねっとり

こってり

でも、さっぱり


そんな不思議な食べ物


あん肝


舌に乗せれば、しんしんと降る雪が、手袋をした手のひらの上で溶解するように、ゆっくり、ゆっくり、ほどけていく


冬の夜、キリリと痛むほど冷えた足先の、そのまた先に忍ばせた湯たんぽの、優しい暖かさに似た、柔らかくて、まあるい旨味が、口いっぱいに広がる


すると後から、開け放った窓から入り込む秋風のように涼しい、柑橘の香が鼻腔を抜けて、思わず、「ほう……」とため息をついた


そこに熱燗を一口

暖かさが、喉を通って、胃の中へ

そして、そこを中心に、温もりがパッと花開いて、指先、足先まで駆けていく

まるで打ち上げ花火である


そして、ほんのりと桜色を帯びたあん肝を見て、私はいつか見た山桜の花吹雪を思い出していた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る