夜中にバターをかじる私は

肉級

バタートースト

 たっぷり、いや、でっぷりとバターを塗られ、白い春の祭りでもらった皿に、どっかりと我が物顔で座り込む四つ切りのパンを目の前にすると、2分前の自分をしこたま殴りつけたい衝動に駆られるが、今日もバターが美味いので、このくらいにしてやろうと思う。

 しかし、バターを塗っただけのパンがなぜこうも美味いのであろうか。

 5年付き合った彼氏にひどい振られ方をして、さんざん泣き腫らし、やけくそに飛び込んだコンビニで買ったジャムパンを胸焼けするほど食べた次の日だって、ペロリといけてしまうのだから、もう、こいつが彼氏でいいのではないかと思う。まぁ、実際には振られるような相手はいないのだが。

 いつかどこかで見たTV番組で、とある芸人が、「パンはバターを食べるための言い訳だ。」と言っていた。全くその通りだ。私は、この絶対の真理に気づかないふりをして、さも、バターはパンを食べるためのちょっとしたアクセントだとのたまう、愚かな人間たちに、声を大にして言いたい。


 私はバターを食べているのだと!


 そして、今日も猛烈な勢いで、野生的に、それはもう飢えた獣のようにバターブレッドを貪り食った私は、唇を脂でテカテカに光らせたまま、ゆっくりと、まるで2月の寒中水泳の入水時のように、慎重に慎重をかさね、左足の親指の腹から体重計に乗るわけだが、そこに映し出される、当然の帰結というか、宇宙の真理というか、とにかく恐ろしい数字を目の当たりにし、声にならぬ悲鳴をあげるのだ。


 "人は食べたら太る"


 この神が定めし絶対法則になんとか抜け道がないものかと、物理学者よろしく、日々己の体で実験し、そして、儚くも散る、ただの哀れで食い意地のはった一人の人間の、抱腹絶倒、七転八倒のグルメ日記、始めます。


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