48 サキエルさんと相談

  力を示す、ですか。新たに戦いを望むのもあれなので、なにか技術開発であったり、生産力であったりと言う平和的な部分で力を示したいものです。


「あの、俺帰ってもいいか?」

「魔王さん、アドバイスありがとうございます」


 このまま返すのも申し訳ないので、手土産にこの前作ったカレーを持たせます。美味しいですよ。


「む、カレーか。頂こう。だがマーガレットさん、出来れば次は普通に呼んでもらえるといいのだが……」

「普通? わかりました、普通に呼びますね」


 魔王さんは私の答えに満足したのか、軽く頷いて魔王国へと戻っていきました。


「マーガレット様、一応聞くんですが、次はどうやって魔王様を呼ぶつもりです?」

「召喚時に、一声掛けようかなとおもいます」

「……なるほど」


 なるほどと言ってはいますが、全然納得していない表情ですねルールー。


 やっぱり召喚はダメですかね……。


「マーガレット様、この件はゆっくり考えましょう」

「そうですね……大きなことですし、みんなでゆっくり考えましょうか」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ということなんですよ。どう思います?」

「なんでそんなことを僕に聞くんだ……」


 あのあと、村のみんなに聞いて回りましたが、悪魔たちはそもそも国や独立といった考え方を持ちませんし、他のみんなは私に任せますと言ってあまりアドバイスをくれませんでした。


 ということで、水を抜いていた天使さんの所へ来ました。名前はサキエルさんです。


 ルールーとシルフィに縛り上げられたあと、しばらくの間村で意気消沈していたのですが、雪がとけて春になって来るにつれて仕事をし始めたようです。


 ただ、いまだに堕天を拒んでいるようで、人と関わるのを極端に避けています。関わりがなければ願いも受けないですから。


「これは何を植えてるんですか?」

「話聞いてる? はぁ……これはサツ魔イモだよ」


 サツ魔イモ? あぁ、甘くて美味しいおいもですね。今年から植えると言っていたのを覚えています。


「サツ魔イモはある程度育つと勝手に歩き始めると聞いたから、土を魔法で固めなきゃ行けない」


 サキエルさんは、しっかりと農作業に挑戦してるみたいですね。天使ですし、魔法もしっかりと使って効率的に行っているみたいです。


「それで、どう思います? 独立に関して」

「はぁ……大した意見は出ないと思うよ」

「それでも聞かせて欲しいんですよ。みんな、私に色々なことを任せますが、私はみんなの意見を聞いて決めたいんです」


 人が多くなってくると、全員の話を聞くのを難しいですが、それでも私は色々な意見を聞きたいです。


 せっかくの平和を、私一人の裁量で動かす訳には行きませんから。


「……君単体の力じゃなくて、村としての力を見せればいいんでしょ。村の特産品を作るとか、あとはダンジョンを攻略するとか」


 カブさんの蜜は特産品になりえますが、それは村の力と言うよりもカブさんの力です。農業とか、加工品で勝負しなきゃ行けませんね。


 ダンジョンというのはありかもしれませんね。よく、ダンジョンを攻略することが、冒険者パーティとしての名をあげる一番の方法だと聞きます。


 これもすこし個々の力に頼ることになりますが……攻略を村全体で手伝ったり、攻略後のダンジョンを支配下に置くことで力を示せるかもしれませんね。


「ダンジョン、いいかもしれませんね。ありがとうございますサキエルさん、参考になりました」

「……そう。よかったよ」


 サキエルさんがとてもいいアドバイスをくれました。他の人にも今の意見を踏まえてもう一度聞いてみましょう。


 ……そういえば、アドバイスを聞かせて欲しいというのも人の願いでは無いのでしょうか?


 まさか、私を人として認識していないとかじゃないですよね? 


「そんなわけない……ですよね?」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 サキエルさんの意見を踏まえて、方向性は定まりました。


 ダンジョンに行く方向性ですね。


 方向も定まったので、もう一度村人たちに色々と話を聞いてみましょう。お供はフェンです。久しぶりに背中に乗せてもらいます。


 春の心地よい日差しを浴びたフェンの背中はとても気持ちいです。もふもふー……すやぁ。


「起きろ主よ」

「はっ。あまりにも気持ちよくて寝かけてました」


 現に、私と一緒にフェンの背中に乗っているファオランは爆睡しています。シランはシラユキがお世話をしているそうです。


 男の子はお父さんが良くて、女の子はお母さんがいいのでしょうか。今度シラユキにも乗せてもらいたいですが……嫌がられるんですよ。


「もふもふですー」

「良かったな。だが、本来の目的を忘れてないか?」


 そうでした。村のみんなに聞き込みをするんでした。


 農作業の邪魔をするのもあれなので、お休みの人がよくいる所へ向かいましょう。


 マーガレット城の方へ向かうと、何やら美味しそうな匂いが漂ってきます。


 人だかり……いや悪魔だかりもありますね。


 マーガレット城ではお休みの悪魔たちによる創作料理の発表会が毎日のように行われています。


 そして、その料理を目当てにお休みの人達が集まっているという訳ですね。


 創作料理はたまに凄まじく美味しいものが生まれますが、大半は微妙な出来が多いです。


 それでも、悪魔たちは食材を無駄にしないためにもちゃんと食べるんですけどね。えらいです。


 ただ、黒焦げになったものを食べるのは健康上よくないと思うので、そこはやめて欲しいんです……。


 私がフェンに乗って姿を見せると、みんながわざわざ手を止めて挨拶を返してくれます。


「俺たちの料理、食いに来たんスカ、姉御!」

「今日の出来はピカイチですぜ、姉御」

「姉御も食べてくだせぇ!」


 姉御呼びに関しては何度か直そうとしたんですが無理でした。


 悪魔たちが差し出してきたのは……なんでしょうかこれは。なんかうねうね動いてるんですけど。ほんとに食べても大丈夫なものですか?


 絶対食べちゃダメな気配がします。


 けど……善意でくれたものを断る訳にも行きません。勇気を振り絞っていきましょう。死んだら供養はお願いします、フェン。


「それじゃあいただきます」


 ぱくっ。……口の中で、触手のようなものが蠢いていています。たしかに、味付けは辛さが程よく効いていて美味しいです。


 ですがこの生き物を食べてる感覚……微妙です。


「どうっすか? 姉御」

「……味付けはいいと思います。ですが食感はどうにかした方がいいと思いますよ」


 創作料理に対しては正直な感想を伝えるのがマナーです。


 というか、私が変に褒めたりすると村全体にその料理が振る舞われる可能性があるので、慎重に言わなければなりません。


「悪魔には人気なんですが……わかりやした! 次は食感にも拘りやす!」

「お願いします。あ、そういえば、悪魔さんたちはダンジョンって知ってますか?」


 本来の目的をまた見失うところでした。


「もちろん。魔界ではよく見かけやすから。ダンジョンがどうかしたんですかい?」

「実は……」


 創作料理の会にいる悪魔や村人たちに事情を説明します。


「なるほど、独立のためにダンジョンを攻略すると。いいと思いますぜ姉御。魔界でもダンジョンを攻略したやつは力を示せますから」

「やっぱりそうなんですね。人間の間でもそんな感じですよね?」


 一応、この場にいる人間にも確認してみましょう。


「そうですね。よく冒険者パーティが地位と名誉、黄金、財宝を求めてダンジョンに向かうと言いますし」

「ですよね」


 他の人にも意見は聞きますが、一応ダンジョンを見つけて攻略するので大丈夫そうですね。


 問題は、ダンジョンを見つける必要があるということと、誰がダンジョンを攻略するのかというところです。


 とりあえず、創作料理の会に礼を言って、次の場所へ向かいましょう。 


 次に向かうのはカブさんのところです。なんだかんだでカブさんの住処にはあまり足を運んでいませんから。


 それに、今日のカブさんの蜜の当番はヤニムとマトン君だったはずです。


 話を聞きに行きましょう。フェン、お願いします。


 もふもふに寝そべって、フェンの背中にからだをだらんと預けます。


 フェンはやれやれといった反応をしますが、あまり揺れないように歩いてくれます。いい子ですね。もふもふー。


「ダンジョン、見つかりますかね」

「あまりこの世界には出来ないと聞いたぞ? 魔力が薄い場所には余り出来ない」


 あれ? 魔力が薄い場所にはできない……ということは私が常に魔力全開で生活すれば、ここにダンジョンが出来るのでは? 


 いや、むしろここの村がダンジョンになってしまう可能性も……。


「……主よ。何を考えているのか知らんが、やめておいた方がいいぞ。ダンジョンは危険なものだ」

「む、鋭いですねフェン」

「ダンジョンを生み出そうとする者は多いが、利用できたものはとても少ない」

 

 なるほど。安易に手を出すものではないですね。


 そんなことを話していると、カブさん達のところに到着しました。


 カブさんの住処は……あ、ここが地下への入口ですね。とても甘くていい匂いがします。あと、中からヤニムとマトン君の笑い声が聞こえてきます。


 カブさんの巣の中は、予想以上に清潔感が漂っています。埃もなければ洞窟のジメジメした感じもありません。


 なんなら、魔法で灯りがともされています。かなりいい生活環境です。


「だはは、カブさんも仲間だったか」

「ビービートルは個体が少ないから中々相手を見つけるのはね……」


 みんなの姿が見えてきました。なんの話しをしているのかわかりませんが、随分盛りあがっています。


「ヤニム、マトン君、カブさん、こんにちは」

「うぉ?! あ、マーガレット様、こんにちは」


 驚かせてしまいましたか。


「随分と仲が良いんですね」

「この前、スヤリスに襲われた時に助けられたから、それ以来よく喋るんですよ」

「なるほど。スヤリスと言えば、今日は追いかけ回されてないんですか?」


 ヤニムが悲鳴をあげながらスヤリスから逃げる姿は、最早名物と化してます。


 悪意があっての事なら問題ですが、スヤリスは純粋な好意からやってることなので、当人におまかせしてます。


「今日は逃げきれましたからね!」


 ドヤ顔のヤニムには申し訳ないですが、多分スヤリスには居場所がバレてますね。隠してはいますが、近くに魔力の気配があります。


「それで、何の用ですか?」

「みんなに、ダンジョンのことを聞こうと思ったんですよ」

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