31 sideマトン

 僕はマトン。魔界四天王の一柱、ラムの息子だ。


 父さんの息子として、魔界の貴族として、四天王の息子として、相応しい存在となるために幼い頃から勉強してきた。


 最近では、父さんから仕事を貰えるようになって嬉しい。ちょっと過労死しそうな量だけど。


 ある日、父さんがビービートルの蜜を使った甘味を持ってきた。


 それ、四天王とか魔王様ですらあまり食べられないやつだよね? どこから持ってきたんだ父さん……ノア? どこそれ?


 お前も行ってみればわかると。でも仕事が……あ、父さんが手伝ってくれると。


 父さん、僕よりもはるかに多くの仕事をこなしてるはずなんだけど、なんでそんな余裕があるんだろうか。


 父さんが手伝ってくれたおかげで、仕事は一瞬で片付き、ついにノアの村という所へ行く日になった。


 魔王様も一緒?! 緊張するなぁ……僕のこと覚えてるんだろうか。何度か顔を合わせてるんだけど……覚えてる?! ありがとうございます!


 ノアの村について、最初にびっくりしたのは悪魔の多さだった。ここ、魔界じゃないよね? 悪魔多すぎるし強いのが多くない?


 悪魔公や魔槍姫バレンタインもいるし。どんな戦力なんだ……。


 ……うわ、なにこの女の人の魔力。やばすぎない? 魔王様よりも多い気がするんだけど。


 マーガレットという名前らしい。よし、それじゃあ気合を入れて挨拶しよう。僕は四天王ラムの息子、マトン。魔界貴族として恥ずかしくないような挨拶を!


「痛い痛い痛い、父さんいたい!」


 違ったみたいだ。お前は私たちを殺す気かと父さんに叱られてしまった。たしかに、マーガレットさんを敵に回すということは、この村を全て敵に回すことになってしまう。高圧的に出るのは良くなかった。


 なんか、すごい魔槍姫に見られているような。気のせいかな?


 祭りが始まってしまえば、ここがとてもいい村だということが分かる。出てくる料理のレベルがどれも凄まじいけど。


 案内してくれた人いわく、悪魔たちの趣味の結果らしい。悪魔の趣味が料理って……いや、たまに大釜とかで惨たらしい料理をしているやつはいるけど、こんなに美味しいものを作るなんてかなり変わってる。


 にしても、色んな種族がいるのに、種族の差を一切感じないほどにみんな仲がいいな。あそこなんて人間と悪魔が肩を組んで酔っ払ってる。


 魔界名物の爆会が祭りのメインみたいだけど……これは僕の知ってる爆会じゃないな。


 悪魔の放った魔法は威力が凄まじいし、子供たちのチームはとても緻密な魔法式から構築された見事な魔法だった。


 金髪の人間のチームはすばらしい発想であのとんでもない硬度の像に傷をつけた。悔しがってたけど、すごい結果だと思う。


 そして、最後は魔王様なんだけど……大丈夫かな? 魔王様を信頼してない訳じゃないけど、あの像はとんでもない硬度をもってる。傷をつけるだけなら金髪の人間がやっちゃったし……魔王様が名誉を保つにはあの像を完膚なきまでに破壊するしかない。


「父さん、大丈夫かな魔王様」

「……我らが主を信じるとしよう」


 父さんも不安らしい。大丈夫かな?




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


sideマーガレット


「さぁー! 最後のチームになりました。満を持しての登場です。魔王様ァァァァァァ!」


 ミレーの紹介とともに、威厳と迫力を出しながら魔王さんが登場します。観客の盛り上がりも凄いですね。


 金髪が像に傷をつけましたから、魔王さんは1人であの像を破壊しなければ魔王としての威厳が保てないはずです。大丈夫でしょうか?


 まぁ、魔王さんすごい魔力ですから、きっと大丈夫でしょう!


「魔王、震えていないか?」

「まさか、魔王ですよ? フェンの見間違いですよー」

「そうだといいのだが……」


 もう、フェンは心配性ですね。魔王ですよ? 魔界最強なんですから、あの像がいくら硬いとしても、壊せるはずです。


「……見ていろ! これが魔王の魔法だ! うおおおおおおおおおおおお!」


 おおお、魔王さんの身体がどんどん巨大になって行きます。なんだか獣のような状態ですね。


「あ、あれは魔王様の奥の手! 覚醒では?! 私あの姿になった魔王様は過去1度しか見た事ないんですけど?!」


 ラムさんが盛り上がってますね。早口で内容はよく分かりませんでしたが、楽しんでくれてるようで何よりです。


『ガルル……ゆくぞ! 《王者の咆哮》!』


 獣のような姿になった魔王さんが凄まじい威力の咆哮を放ちました。音に乗った魔力は魔王さんがつくった魔力の壁に反響して、像のあらゆる方向からダメージを与えていきます。


 最初は像も耐えていましたが、反響する度に増幅されていく咆哮の威力に耐えきれず、ついには粉々に崩れました。


「な、なんということだァァァァァァ! 魔王様がとんでもない一撃を見せてくれたぞぉぉぉ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」」


 観客も大盛り上がりです。私も飛び跳ねて喜んでいます! ほら、フェンもアーさんももっと盛り上がりましょうよ! 


 お酒もどんどん飲みましょう! 

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