25 カブさんとラムさん

 雪合戦の結果は、大人達の勝ちでした。ただ、子供達はとても素晴らしい成長を見せてくれたので、結局は1週間の間大人が甘味を譲り続けるということになりました。


 私も、ちゃんとあげましたよ。


 ヤニムは、あの子供達の猛攻からひたすら生き残り続けたということで、逃げの才能を開花させたみたいです。この前は本気のバレンタインからも逃げ切ってました。すごいです、ヤニム。


 あと、今この場所には問題が起きているのです。それは私の目の前で雪に埋もれているカブトムシさんです。


「ふむふむ、元々帝国にいたけど、森が開拓されて住処がなくなったと」

「いやいや、なぜそのカブトムシと会話が通じてるんだ?」


 触覚と足を使ったジェスチャーが見事だからです。あと、大雑把ですが思念が魔力に乗ってるというのもあります。


「ここに住みたいんですか? まぁいいですけど、え、カブトムシさん蜜つくれるんですか?!」


 カブトムシってそんな習性ありましたっけ?


「マーガレット様、たしかそのカブトムシはビービートルて呼ばれている魔物で、最高級の蜜を生み出すのです。個体数も少なく、ビービートル自体が相当な強さなので王都ですら滅多に蜜を見ることはできません」


 解説ありがとうございます、学者さん。ルールーの連れてきた人たちの中の一人ですね。


「カブトムシさん、その蜜ってもしかして」


 くれたりします? ふむふむ、家賃として差し出すと。あ、巣を作る許可も欲しい? 巣っていうと……木を掘るとか? いや、無理ですよね。だってカブトムシさん私よりもはるかに大きいですし。


「少し離れた場所の地下に作ると。わかりました、大丈夫ですよ。カブトムシさんも私たちの一員です」


 あっさりと決めましたが、蜜に釣られた部分が無いとはいえません。


「カブトムシさん、名前はあるんですか?」


 ないそうです。じゃあ、そうですね……。


「カブさんで」

 

 みんなの視線が突き刺さってる気がします。カブさんもなんか微妙なジェスチャーですね。ダメですか? カブさん。可愛いじゃないですか。


 カブさんは、お世話になりますと言わんばかりに集めた蜜をくれます。


 試しに一口。


 ……これは、ビービートルの蜜に人生を注ぐ人がいるというのも頷けます。これ、やばいです。砂糖にもなるそうですし、甘味の問題は解決するのでは?





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「……どうも、こんにちは」

「こんにちは」


 カブさんに引き続き、お客様が来ています。とてもいい服を着た、羊角の魔人さんですね。

 家畜を探しに行ってたはずの悪魔たちが魔界から連れてきました。


「私は、魔界で四天王をしてるラムというものです」


 とんでもない大物でした。魔界の四天王ってこの世の全ての生命の敵といわれるレベルじゃなかったでしたっけ?


「ご丁寧にどうも、私はマーガレットです」

「はい、存じています。この地を収める規格外の人間。魔界にもその情報は届いています」

「ただのんびり暮らしてるだけなんですが……それで、ラムさんはなぜここに?」

「視察と、勧誘を兼ねてです。ですが、後者に関してはあなたを見た瞬間諦めました」


 えっと、どういうことです?


「あなた、私よりも強いんですよ。なので勧誘して断られて、話が拗れた時に問題が起きそうなのでやめました」


 なるほど。たしかに魔力だけでいえば私よりもラムさんの方が弱いです。技術的なことを考えれば一概には言えないんでしょうけど。


「視察というのは?」

「そのままの意味です。あ、このお菓子美味しいですね」


 カブさんのくれた蜜を使ってますから。絶品です。


「魔界としては、ここに手を出すつもりはありません。できればこのお菓子のような嗜好品を買い取らせていただきたい所ですが……」


 買取、まさかこれは交易のチャンスなのでは? ルールーとシルフィを呼びましょう。


 私は、あまり交渉術に優れている訳ではありませんから、あとは2人に任せます。では。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「では、今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 無事にラムさんとの交渉は終わりました。主に交渉したのはルールーとシルフィですが。


 ちなみに、2人には後でめちゃくちゃ怒られました。四天王との会話をそんなに簡単に任せないで欲しいとのことです。


「これで現金や嗜好品が手に入りますね」

「はい、そこに関してはワタクシも良かったと思います。ですが、こちらから出せるものはカブさんの蜜関連の物しかないので、もう少しこちらから出せるものを増やさないと行けません」


 何か、考えないと行けませんね。


「あと、この地の名前を考えましょう。前々から気になっていましたが、名無しはよくありません」


 名前は私が決めなきゃ行けないそうです。私、あんまり名前つけるの得意じゃないんですけど……いつも微妙な顔されますし。


 トアル湖の近くだから、トアル村? 安直すぎますね……私の名前からとるのは言語道断ですし、どうしましょう。


 色んな種族が、楽しくのんびりと暮らしている。


 なんとなく、そのイメージだと名前が浮かんできました。


「ここの名前はノアにしましょう」


 今日より、ここの名前はノアです。よろしくお願いします。

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