23 雪合戦(1)
すっかり雪が積もりました。子供は元気に遊んでいますし、大人も仕事を続けている人が多いです。ですが、雪が積もると出来なくなる事もあるわけで、農作業専門の人達がとても暇そうです。
備蓄の管理とか、来年のための準備とか、やることはあるのですけど仕事熱心なのでもうあらかた終わってるようです。
「ということで暇な皆さん。私から提案があります」
「提案、ですか?」
はい、提案です。あなたはたしかルールーの連れてきた元騎士、ヤニムですね。
「提案というのは、皆さんの後ろを見てくれればわかります」
「後ろ?」
そういって集めた大人たちは後ろをみます。
大人たちのうしろにいたのは、雪玉を両手に構えた子供達。
「わかりましたか? 子供達は、我々大人に宣戦布告を仕掛けてきました」
「宣戦布告って……」
「大袈裟ではないか? という疑問はわかります。ですが、子供達たちはこの雪合戦の景品として、一週間の間甘味の優先権を要求してきました」
大人たちの空気がぴりっとします。未だにまともな交易をしていないので、甘いものはかなり貴重です。大人も子供も分け隔てなく抽選で食べれるようになっていますが、その優先権が子供達の要求です。
ゆらぁっと大人たちがしゃがんでその足元の雪を固め始めます。
そして声を揃えて一言。
「「かかってこいよ!」」
大人の本気の見せ所、ですね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
side ヤニム
俺はヤニム。王都にいた時は騎士をしていた。ある日、熱心に仕事をしている聖女様を見た時から、俺はあの人に夢中になっている。
はっきり言って、一目惚れだった。
そして聖女会という団体を見つけて、俺はそこで行動している。意外かもしれないが、聖女会のメンバーのなかでマーガレット様に恋心を抱いているメンバーはほとんど居ない。みんな、尊敬や感謝の念から聖女会に入ってる。
俺は……一目惚れしたのは間違いない。ただ、あの人とそういう関係になりたいかと言われるとそんなことはない気がする。
うーん、自分の気持ちが分からない。
「ヤニム、そろそろ始まりますよ」
「え、あ、はい!」
そうだった、今は子供達との雪合戦の準備中だった。ちなみにマーガレット様は大将、その補佐としてアーさんとフェンさんがいる。
俺は、人間の大人達の指揮を任された。元騎士だからな。
にしても、雪合戦……これは本当に遊びなんだろうか?
陣地を攻め落とした方が勝ち。魔法などの使用もOKだけど攻撃は雪玉のみ。
子供達の陣地……魔法で作った複数の防壁に、パッと見ただけではどう攻め込んだらいいのか分からない要塞のような雪の建物がある。
ちなみにこちらの建物はマーガレット様が魔法で作った。要塞とかじゃなくて櫓みたいになってる。
マーガレット様いわく、見えてるのが一番守りやすいらしい。あの人は規格外だから、陣地は大丈夫なはず。
「よし、相手は子供だ! 人間部隊全員で一点突破! エルフと悪魔の部隊が防衛をやってくれる、俺たちの甘味を守るぞ!」
「「「応!」」」
やる気は充分。よし行くぞ!
火魔法で防壁を無視して真っ直ぐに子供たちの陣地を目指す。
とても順調……順調だけど、あまりに抵抗が無さすぎる。防壁も、迷路のように作られているのかと思えばハリボテのようなもの。
あのバレンタインが大将を務めているのに、こんなにあっさり行くはずがない。
「みんな、これは罠ーー」
そう言おうとしたところで、足元にあるはずの地面が消える。
「落とし穴だと?! くそっ」
「さすがはヤニム、気づいたか」
「バレンタイン……!」
俺はなんとか落とし穴から逃げれたけど、今ので部隊の半分がやられた。しかも、周りには雪玉を持った子供達とバレンタインが大勢いる。
「大人しく降伏を認めれば、酷い目には合わないぞ?」
くっ、攻撃部隊の戦意はすでに無いようなもの。普段の訓練から考えると、子供達の投げる雪玉はかなりの威力がある。それを一斉に投げれれば……想像したくないな。
だが、俺はマーガレット様にこの部隊を任された。ひくわけにはいかない。
「かかってこい子供達、大人の本気を舐めるなよ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヤニム部隊、壊滅ですね」
「ヤニム本人はまだ戦ってるようだぞ? 元騎士だというだけある、多勢を相手にしているのにも関わらず、見事な逃げっぷりだ」
それがヤニムの才能なのかもしれません。なんにせよ、攻撃部隊に任命した人間部隊が壊滅したのは厳しいです。
「どうする? マーガレット。我も甘味が無くなるの嫌だぞ」
「私も断固拒否します。ということで任せましたアーさん」
私は軍事のことなどわかりません。そのかわり……。
「ここは守ります。大人気ないと言われようが本気でやります」
抽選で外れて食べられないのは仕方ないですが、子供達に優先権が回るとその抽選すら行われません。こたつで甘味を食べるのが最近の趣味なんです。
「さぁ、まだまだですよ、子供達」
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