第46話 魔のタワー5階の暗闇

 階段をあがる。おそらく次が5階。


 連続で上まであがる階段がない。人が入ってきたときのためか。


 さきほどの幻覚による無限の迷路。あれなどは、もう完全に『わな』だ


 罠を作っておいたということは、瀬尾がやっている魔方陣を使った作業は、時間がかかるのだと予想できる。そのあいだに人が入ってきたら、あの吸血コウモリや迷路で時間をかせぐつもりだ。


 次の階も、なにかあると思ったほうがいい。


 おれは階段をあがり、五階のドアを慎重に押した。


 中は真っ黒だ。下の階と同じく外窓がない。そしてどうやら、ここもワンフロアぶち抜きらしい。遠くに非常階段を示す緑の看板だけが光っている。


 背中のリュックをおろした。中にあれが入っていた気がする。


 急ぎリュックをひらくと、やっぱりあった。魔法のランタン。なぜか魔法のランプも入っている。霧の巨人がでるだけというランプ。必要だろうか。


 魔法のランタンをリュックからだした。


 ・・・・・・待てよ、魔法のランタンって、マッチで火を点けるのだろうか。


 構造を確認した。やっぱり。こっちの世界のランタンのように、芯を取り出せない。金具は、どこもがっちりと止まっている。


 開かないランタン。どうやって火を点けるのだろう。


 そうか、玲奈が使った『封じ箱』あれも『吸いこめ!』と念じた。これも同じか。


「スイッチオン!」


 言ってみたが、火は点かない。


「火、つけ!」


 これもダメか。


 親父が魔術はイメージが大事って言ってたな。ちと、それっぽい雰囲気で言ってみるか。


「希望の灯火ともしびよ、いざ生まれん」


 ボンワッ! と火が点いた。なるほど、雰囲気って重要だ。おれの心に描いたイメージも、ゆらりと立ちあがる炎だった。


 ・・・・・・っていうか、さっき下の階にあったランタンは、青い炎だった。なんでこのランタンは、ピンクなんだろう。


 ピンクのゆれる炎の灯り。効果音を付けるなら『オウ♡』って色っぽい声が似合いそうな無駄なエロさがある。


 まあ、格好の悪さには目をつぶり、五階に入った。


 なにもないフロアを進む。ランタンの放つ周囲だけが明るかった。床になにか落ちていたら、つまづきそうだ。気をつけて進むが、とくになにもなかった。


「ん?」


 妙な気配がして、ふり返る。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 思わずさけんだ。三つの人影! それも、ほんとにただの影だ! 怖え!


 全速力で逃げる。


「ぬおおおおおおおおおおおお!」


 前からも人影! おれは急停止した。


 人影は、ある一定以上は近づいてこない。


 この灯りか? ランタンを持った手を伸ばすと、人影はすっと下がった。周囲にランタンを突きつける。四人の人影がさがった。黒い霧が人の形をしたような物体だ。


 なんだろう、敵か味方かもわからないが、状況を考えると敵。そして話せばわかる可能性もあるが、絶対イヤだ。だって怖いもん!


 ピンクの灯りを放つランタンは、この悪霊のようなやつらを寄せつけないのか。


 こういうのって、安心したら火が消えたりして。


 そう思った瞬間だ。ぶすぶすっと炎がゆれた。


「ウソ、ウソ、だめ、だめだめ!」


 やべえ。思っちゃダメと思えば思うほど、炎が消えたイメージを考えてしまう。火がどんどん小さくなっていく。それにともない、周囲を照らす光も小さくなってきた。


 人影が近づいてくる。マジやべえ。


 そうだ、イメージ、イメージだ!


「悪をあがめる者よ、我が力を恐れよ」


 なんか昔に見た映画、こんなセリフがあったはず!


「このピンク・ランタンの光を!」


 頭上にかかげる。力強くランタンの炎が輝いた! っしゃあ!


 あっ、そうだ。昔に見た映画は「ピンク・ランタン」ではなく「グリーン・ランタン」だったか。まあいいや。


 強い光に、吹き飛ばされるように人影は離れていった。おれは悠々と、次の階へのドアへと進む。


 非常口の緑色をした電光看板の下、このフロアの出口があった。ドアは付けられていないが、次の部屋に階段がある。


 階段をあがり、踊り場で向きを変えたとき、階段の入口から人影がのぞいているのがわかった。怖っ!


 うしろから来られたら、たまったもんじゃない。ピンクの光は強く、階段の部屋を隅々まで照らしていた。ランタンは踊り場に置いていくことにする。これで、あの人影は階段を登ってはこないだろう。


 また次の階でランタンが必要になれば、取りにもどればいい。


 そう思ったが、その必要はなかった。


 六階。ここに来て、初めて電灯が灯る明々としたフロアだった。



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