第30話 こんがらがった恋愛話

 その日の授業が終わり、玲奈を待った。


 さて、瀬尾センパイとの会話をどう伝えよう。ウソをついてひとりで会いにいったのは素直に謝るとして。


 問題は、これを室田夫人に伝えるべきか。夫人は魔王である玲奈をはっきりと嫌ってはないが、敬遠はしている。おれたちには会いたくないだろう。いやでも、言わないわけにもいかないよな。


 なんだか、いろいろ玲奈と相談しなきゃいけない。そう思いながら待っていたら、おれの愛しい人は、おともを連れてあらわれた。


「FD小林?」

「なによ、FDって」


 おっと、F組のDカップ。略してFDなんだけど、そんなことは言えない。


「小林さんが、わたしたちに相談があるようです」

「ミーも?」

「ユーもです」


 なんだか深刻そうなので、とりあえず学校からでる。相談の内容は人のいるところでは話しずらいことらしい。


「近くに、神社あるらしいけど」


 小林さんの提案に、おれも玲奈も首をふる。小林さんはとなりの駅から通っているそうだ。このあたりの人じゃないので、その神社に行ったことはないらしい。


「行かないほうがいいよ」

「えっ、ひょっとして心霊スポット? 私、そういうの大好き!」

「ダメ!」


 ほんとに行きそうなので、変質者がでるとウソをついておく。おおう、玲奈タンの前でウソをついてばかりだぜ。あっ、これは玲奈も共犯だからいいのか。


 山がダメなら川でしょう。ということで、河川敷かせんじきに来た。


 土手沿いの道では、犬の散歩をしている人や下校中の学生も多くいるが河原におりれば人はいない。


 バイト先『シックス・テン』には少し遅れますと伝え、小林さんの話を聞くことにした。


「友達の恋愛?」


 思わず聞き返してしまった。


「でも、様子がおかしすぎるの」


 おれらと同じ高校のC組にいる女子らしい。


「もう話をしてても、ボーっとして、上の空というか」

「うん、恋じゃね?」

「たまに、ため息ついたり」

「うん、恋じゃね?」


 くわっ! と小林の目が釣りあがった。はい、すいません。ちゃんと聞きます。


 恋の症状とも言えるが、とにかく程度がひどすぎると言うのだ。


「これはクラスの子からこっそり聞いたんだけど、もうね、授業なんて聞かず、アメなめながら窓の外をながめてるらしいの」


 それは文字通り、学校なめてる。さすがに友達なら忠告したほうがいいと思ったが、そんなことはとうの前にしているらしい。でも、その子は友達や周囲にも急に冷たくなったと。


「好きな人ができた、っていうのは聞いてたんだけど、最近はスマホの返事も返ってこないし」


 どうなんだろう。恋に目覚めて、友達との関係が疎遠になるのだろうか。


「山河くん」

「うん?」

「山河くんは、葉月さんのこと好きだよね?」

「うぃ」

「友達はどうでもよくなる?」


 それはない。それはないが、おれらは特殊なんで参考になるのだろうか。


「玲奈が誤解されて嫌われやすいからなぁ。一緒にいるおれも、嫌われるし」

「はい。ご迷惑おかけしております」

「いえいえ。ライバルがいないので好都合です」


 おれと玲奈の会話を小林さんが口をあけて見ていた。


「なんかもう、ふたりって、どうツッコんでいいか、わからないわ」


 あきれた口調だ。そうかな。おれは普通だと思うけど。


「小林さん、あまり、わたしたちは相談相手として、ふさわしくないと存じあげます」


 玲奈が冷静に言った。うん、そうかも。


「それがね、あまりに変だから、日曜日、その友達をつけたの」


 おう、こっちの意見は無視だ。でも、小林少年ならぬ、小林少女の尾行は興味深い。


「駅のほうに行くから、電車に乗るのかなと思ったら、駅前のロータリーで黒塗りの車に乗っちゃうの」


 えっ、ほんとに事件っぽくなってんじゃん。


「乗用車ですか、バンですか?」


 玲奈が聞いた。


「普通の黒い乗用車よ。」

「ナンバープレートは白でしたか? 緑でしたか?」

「えー! たぶん緑」

「では、事業用の可能性が高いですね。乗ったのは後部座席?」

「ええ、そうだったわ!」

「やはり、ハイヤーですね」


 おう。明智探偵と小林少年のやり取りみたいで萌える。そしておれ、怪人マスタードの入りこむ余地はない。でも、参加したい。


 おれは、上着の内ポケットに入れておいた生徒手帳を取った。これは前の教頭みたいに『校則を読んでないのか』と、イチャモンつけられたときのためだ。


 生徒手帳を適当にひらく。よし、準備はオーケーだ。


「それで、犯人の手がかりは?」


 あきれた目で玲奈に見られた。


「勇太郎、ふざけている場合ではありませんよ。高校生がお金持ちのハイヤーに、ひとりで乗りこんだのですから」


 あっ、そうですね。すんません。


「手がかりはあるわ。っていうか、犯人を見てる」


 えっ、事件解決?


「小林さん、どのような男だったか、詳しく話してもらえますか」


 玲奈が真剣に聞いた。これは、ほんとにふざけてる場合じゃなさそうだ。生徒手帳をもどそうとしたが、小林さんの言葉に思わず動きを止めた。


「山河くんのほうが知ってるはず。今日の昼、一緒に階段を上がってたから」


 玲奈がこっちを見る。


「勇太郎?」


 こ、これは、やっかいになったぞ。ただ、小林さんに言うべきかは迷う。


 考えに沈んでいると、どこかから女子の声が聞こえた気がする。いやでも、付近の草むらに人影はない。


「・・・・・・ぁぁぁぁぁあああああ女神センパーイ!」


 超長距離の助走からフライングボディアタックを受け、おれと玲奈と小林さんはなぎ倒された。


「あー! すいません、遠くで見かけたから嬉しくて走っちゃいました!」


 おれと玲奈が起きあがる。マッシュルームみたいな髪のソバカス中学生。室田夫人の娘、早貴ちゃんだ。


「早貴ちゃん、助走をつけて抱きつくのはやめましょう」

「はい、女神センパイ!」


 女神になったんだ。この子は玲奈が魔王の娘だと知っているはず。たしかに玲奈の見た目は魔王っていうより女神だが。


「ちょっと、痛いでしょ!」


 小林少女も起きあがり、怒った。


「女神センパイ、この乳デカ姉さんはダレ?」

「クラスメートの小林さん」

「はっ! 失礼しました、乳子センパイ!」

「だれが乳子じゃ!」

「そういえば女神センパイ」


 おう、ツッコミはスルー。早貴ちゃん強し。


 

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