第12話/続・開発部へ行こう!~裏面あり~



「おーいバルガス! 入ってもいい?」


 マルガを連れて、男連中の部屋を尋ねる。出てきたのはバルガスじゃなかった。


「なんだよ、おばけちゃん。バルガスなら下だぜ」

「そうなんだ。あ、ご飯できたから、エントランスに来てね」

「おう。……お前ら、聞こえたか! メシだ!」


「「「うぃーっす」」」


 部屋の中に男が声をかけると、複数の声が返ってきた。どうやら部屋で作業中だったらしい。ほんのりと顔を朱に染めた男たちが、のそのそと外に出てくる。


「なんだかお酒くさいわね」

「ミルク酒だよ。うちの特産品にしようと思って、研究中なの」


 たぶん、彼らは出来上がったミルク酒を試飲していたんだろう。まだまだ味のレベルは低いみたいだけど、ほんのり酸味があって案外おいしい、と聞いている。

 まぁ、素人が簡単に作れるものではないので、ダンジョンの工房で作ったんだけどね。おかげでDP消費が痛かったけど、男連中の士気が上がったので、これはこれで成功だったのかもしれない。

 今は味を良くする組み合わせと、アルコール度数を上げる研究をしているらしい。


「じゃ、バルガスたちの所に行ってみよう」




 カジノルーム。ここは前とほとんど変わってないけど、最近は新しいゲームを新調した。

 そんなわけで新しいゲームのお披露目しよう。

 4人掛けのテーブルには、すごろく風の盤面とルーレット、そして4つの駒がおかれている。家を模した駒は、棒を指す場所が6か所あり、一つはすでにセット済み。

 さて、これが何か、勘のいいひとはすでに気付いているよね? そう、人生ゲームだ。それを異世界の文化にあわせて改造した、異世界人生ゲーム。

 本家本元との違いは、発生するイベントだけでなく、生まれ(≒職業)とカードゲーム要素の融合が挙げられる。


 生まれ;貴族、聖職者、冒険者、商人、農民の5つ。


 カード;子作りから土地の強奪まで、幅広い効果が存在する120枚のカード。使用できるカードは生まれによって決定しているので、貴族用のカードを農民が保有しても使用できないが、交渉により他者と交換はできる。


 現在、バルガスと男三人が角を突き合わせてゲーム中だった。

 勝負は終盤戦に差し掛かっており、バルガスは冒険者の生まれだった。冒険者は土地から収入を得る代わりに、依頼をこなすことで資金を得る。

 バルガスが引いたのは、高難易度の依頼だった。

 成功すれば見返りが大きいものの、失敗したときは素寒貧になる。かといって、断ると罰則金を支払わされ、次の依頼を拒否できなくなる。

 首位を狙うならこの依頼は落としたくないが、失敗すれば最下位に転落する。なかなかにギャンブルな局面だ。


「もちろん、受けるぜ」

「バルガスさん、大丈夫ですか? 6の目以外、失敗しますけど」

「馬鹿言え。ちゃあんと考えてある。このタイミングで“伝説の鍛冶師”を使うぜ」


 伝説の鍛冶師;大量のZを消費する代わりに、装備を選択して一つ入手する。1枚しか入ってないレアカード。


 最上級の装備を入手すれば、高難易度の依頼でも成功確率がぐんと上がる。なかなかいいカードを持ってたね。


「これで3分の2で成功だ。さらに“天の助け”でルーレットを2回回せる。これで俺の勝ちは確定だな」


 ここで依頼を成功させれば、首位に這い上がれる。失敗すれば悲惨なことになるけど、3分の2を2回して両方外す可能性は低い。

 勝ったな、とにやけ面のバルガス。

 しかし――


「ここで“横領”をプレイするぜ?」


 横領;相手がプレイしたカードの消費Zを2倍にする。このカードのプレイヤーは、その消費Zと同じZを獲得する。その後、相手カードの効果を無効にする。


「は?」


 “伝説の鍛冶師”の消費Zを2倍にしたことで、バルガスは3位に転落。さらにカードの効果が無効になったので、装備も手に入らない。


「なにか発動するカードはあるか?」

「ちっ、ねえよ!」

「ざまあねえな、バルガス!」

「ほざけ。俺にはまだ“天の助け”があるからな」


 6分の1を2回。出るとは言えないけど、出ないとも言い切れない確率。


「あ、自分“物資の徴収”使います」


 物資の徴収;対象を一人選択し、発動する。カード名を宣言する。そのカードが対象の手札にあった場合、そのカードを自分の手札に加える。


「対象はバルガスさん。もちろん、宣言は“天の助け”で!」

「く、くそがっ」


 こうして切り札を失ったバルガスは、依頼を失敗。

 武器や防具など資産を売り払う羽目に。それにより最下位に転落。それでも違約金が払えず、借金を背負うことに。

 ここから這い上がるのは絶望的だ。起死回生を狙って再び高難易度の依頼を引き受けるも、あえなく玉砕。最終的に、3位と大差をつけての敗北になってしまった。


「やぁやぁ、やってるね」

「おう、おばけちゃんか。何の用だよ」

「そろそろご飯の時間だから、呼びに来たんだよ」

「もうそんな時間か……じゃあこれで終わりってことで」


 そそくさと逃げようとするバルガスに、他の参加者たちが待ったをかける。


「おいおい、罰ゲームがまだだろ?」

「駄目ですよ、ルールは絶対なんですから」


 肩をつかまれて逃げるに逃げられなくなったバルガスは、しぶしぶ席に戻る。


「ねえ、罰ゲームって?」

「あーうん」


 もともとはご飯のおかずを賭けて戦っていたんだけど、それで食事抜きになる大馬鹿者が大量発生したので、代わりに私が負けた時の罰ゲームを考案し、彼らに提示したのだ。

 本当にギャンブル好きすぎて困る。

 ちなみに負けた時の罰ゲームはというと。


「さあさあ書き取りの時間だ。勇者文字にするか? 魔法文字いっとくか?」

「畜生が! やってやらぁ!」


 ちなみに勇者文字は日本人が持ち込んだ漢字のことで、魔法文字は今は亡き魔法王国で使われていた文字のことだ。どちらも画数が多いので、罰ゲームにはうってつけなのだ。

 10個の文字を10回書き写すという苦行? をしぶしぶ始めたバルガスに、マルガはあきれたような視線を向ける。


「これまた奇妙なことさせてるわね」


 まぁ、これはこれで役に立つからさ。



 文字書き取りを実施中のバルガス達一行を置いといて、私はマルガをダンジョンの奥地へ案内する。


「いいの?」

「うん。せっかく作ったからね、自慢したいんだよ」


 それに、安心させたいしね?


「じゃ、行こうか」


 カジノルームの奥に続く扉をくぐると、長い階段が目に入る。中央に手すりのついた、幅の広い階段で、上り下りしやすいように段差を緩やかにしてある。

 この階段を上っていくと、まずはエントランスにたどり着く。ここは吹き抜けになっていて、上空には十字の連絡路が通っている。今のところは2階建てだけど、少しずつ階層を増やしていく予定だ。

 でもって、ここの中央にあるのが今回の目玉だ。石碑みたいな見た目だけど、四角柱の横面には丸いハンドルがついていて、正面には細長いスリットが空いている。

 察しのいい人は気づいてるだろうけど、コインを入れてハンドルを回すと、カードが出てくるアレだ。

 もちろん、コインの入手手段として、お仕事も準備してある。そう、採掘場だ。エントランスの壁のほとんどが採掘ポイントになっている。

 せっかくなので、マルガにコインを渡して、カードを引いてもらう。カードは一般的なトレーディングカードと同じくらいのサイズで、中央の大部分が丸い銀のシールでおおわれている。


「それで、このカードは何に使うの?」

「うん。このカードはこのエリアを攻略するためのアイテムだよ。このカードの銀色の部分を削って、書いてある文字を読み上げると鬼を捕まえられるの」

「……ねぇ、本当にいいの? 私部外者よ?」

「大丈夫だって。試しに削ってみる?」

「やめとくわ」


 といって、カードを返された。ふむ、残念。


「それにしても、なんだか奇妙なつくりね?」


 マルガが話をそらすように、周囲を見渡した。

 まぁ、日本屈指のダンジョンと名高い、某駅を参考に作ったからね。大きな十字の通路を二つ重ねただけの、現状では意味不明な構造だけど、将来的にはここを少し手直しして活用する予定だ。


「手直しが必要になったら、忙しくなるよ」

「それは私も参加できるのよね?」

「もちろん。その下見も兼ねてるからね」

「楽しみね、なにをさせてくれるのかしら」

「今はまだ秘密」


 くすくすと笑いあいながら、マルガと一緒に来た道を戻る。さて、どこまで話そうかな。



 ……………………



 マルガの服の端から、ネズミが一匹、降りてきた。そのネズミは、誰かが操作しているかのように、まっすぐエントランスへ向かう。

 そのことに、マルガもおばけちゃんも気づかない。

(感度良好だぜ、ボス)

 それはバルガスがマルガの服に忍ばせたネズミだった。マルガがダンジョンの奥へ向かうと知り、さりげなく仕込んだ罠だった。

 戦いはすでに始まっていた。静かに、密やかに。

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