憑依の治療

心を奪われ傷を負った人間にとって

演劇はどのような治療効果をもつか

そんな議論を高尚な人間からきいた


演劇をすることでさまざまな感情を

考えるきっかけになるのだという

それはそうだろう 当然のことだ


自分の感情は操作できないけれど

役の感情は操作できるのだという

そして難しい感情に向き合うときに

その応用が効くようになるという


なんと浅はかな理論だろうと呆れた


胸に湧いた怒りはため息と共に捨てた

操作できる程度の感情しか扱えないなら

それは君がその程度の演者ということだ


演じるだけの者であり役には成れない

プレイ 言葉の意味は 楽しみ遊ぶこと

そして同時に 演じるということをさす


感情を手に入れることができるのは

一度でも堕ちたことのある人間だけ

机上で手に入れた空想程度の感情が

生きるための応用法になどなるものか


誰かが憑依するのも受け入れられず

誰かに豹変するのを恐れているうちは

感情の解放など夢物語でしかないのに


遊び半分でプレイしたいならしていろよ

本気で憑依しているプレイヤーに失礼だ

自分らしさを殺すことを知った者だけが

自分らしさを生かすことができるのだ

殺して生かす それが成るということだ


何から何まで 君たちは浅はかで 間違いだ

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