第24話

ザックに言付けを頼まれた少年に呼ばれ、リックは一番奥のテントから出てきた。

どうやら寝起きのようだった。

少し気だるそうに出てきたリックは、ザックに気づくと一瞬表情を曇らせたが、すぐに平静を取り戻した。


リックは少し気まずそうにザックに近づいてきた。


「おはようございます」


「おはよう、リック」


ザックは右手を上げてにんまりと笑った。


「朝早くに悪いね。どうしても君と話がしたくて」


リックはぎこちない顔で微かに微笑んだ。


「ザック、さんでしたね。まだアミュレットを探しているんですか?」


「ザックでいいよ。アミュレットの話もしたいところだけど」


「今話をしたいのは、ヒロのことだよ」


ザックの顔から一瞬、笑みが消えた。

真正面からリックの目線を捉え、目を伏せた。

瞬きをして目線を戻したときには、いつものにんまりと笑った顔に戻っていた。


「こう見えて、真面目な話だよ」


「大切な恋人の話だ。付き合ってもらえるよね」


リックは返事をしなかった。

代わりに不快感を隠しきれていない表情でザックを見ていた。


「少し散歩しようよ。僕は構わないけれど、君は仲間に聞かれたくないだろう?」


リックは黙っていた。

ザックは肩をすくめた後、湖の対岸を指さして言った。


「あっちで話そう」


「いや、ここでいい」


リックがザックの言葉を遮るように言った。声色は低く、強い口調だった。

もはや不快感を隠すつもりもないようだった。


リックは顔をしかめ、ザックを睨みつけた。


「ここで話してくれないかな」


ザックの表情は相変わらずへらへらとした笑みを浮かべていた。


「そうか。じゃあ簡潔に言おう」


「ヒロと別れてくれないか」


「初対面で、なんでそんなことを言われなくちゃいけないんだ」


ザックが「別れてくれないかな」と言い終わる前に、リックが語気を強めて言った。

その表情はもはや不快感というよりも怒りに満ちていた。

リックは、感情が爆発しそうになるのを必死に堪えていた。

両拳を強く握り、ザックを睨みつけた。


当然と言えば当然だろう。

昨日出会った見知らぬ男が朝早く訪ねてきて、開口一番「恋人と別れてくれ」と言われれば、誰だって怒るに違いない。


ザックは、怒りに満ちた表情のリックを気に止める様子もなく、肩をすくめた。

短くため息をついて、リックに不敵な笑みを向けた。


「別れた方がいいと思うからさ」


「今のままでは、ヒロは幸せになれない」


リックは黙ってザックを睨んでいた。

ザックはリックから目線を逸らすことなく続けた。


「今だって、嫌だと即答しなかった」


「君とヒロの間には気持ちに温度差がありすぎる」


「別れてくれ」


ザックが二度目の「別れてくれないかな」を言い終わる前に、リックの左手がザックの胸ぐらを掴んでいた。



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アミュレットと夢幻の恋人 秋空 @nokashi596

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