結果

「まさか、お前……!」

 掴みかかった『風紀委員』の手が届く寸前に、『編入生』が指一本を突き出した。


「動くな」

 見えない何かに突き飛ばされたように『風紀委員』が床に倒れる。


「どうしてですか、昨日妖狐を処刑しなきゃ負けだって、だから今日はもういないって……」

『保健委員』が呆然と呟く。


「それは人間の話だろ」

『編入生』は目を見開いたまま動かない『風紀委員』を見下ろして言った。

「人狼なら昨日妖狐を処刑できなくても、今日処刑すれば間に合う。むしろ、妖狐を殺した時点で人間ふたり人狼ひとりになって、勝ちが決まるから都合がいい。そうだろ、『先輩』?」


『先輩』が眉間に皺を寄せた。

「ああ……」

「俺を処刑しようとしてくる奴が俺を噛んだ人狼だろうって思ってたからさ。完璧に『元バスケ部』がそうだと思った。ゲームが終わらなくてびっくりした」


「こんなことなら昨日お前を処刑しておけばよかった」

「俺を昨日処刑したら、今日は『先輩』をずっと怪しんでた『元バスケ部』と人間で確定してる『文芸部』が両方残ることになる。それだとキツいから、俺と票を合わせてひとり処分したんだろ。上手く使われたよな」

 変わらない空の光を写す窓辺に手をかけて『編入生』は向き直った。


「まさか、『保健委員』までお前に投票しないとはな」

 二匹の獣は視線を交わした。

「『先輩』は人狼として強かった。でも、人間をわかってなかったよ。俺は『保健委員』なら最後は友だちの主張を信じると思ってた。だから、俺と『先輩』が一票ずつ入れあって、あいつらの投票で引き分けかうっかり俺が死ぬことのないように、疑う先を分散させたんだ。でも……」

『編入生』は肩をすくめた。

「俺が『先輩』に投票したくなかったのは本当だ」




「僕たち、どうなるんですか?」

『保健委員』が口元を抑えて嗚咽を漏らした。

「このゲームに参加した全員、妖狐の傀儡になる……」

 床に伏せたままの『風紀委員』が呻き、『編入生』が頷く。

「食われて死ぬよりずっといいだろ」

「どうして…….」


「言ったろ、みんなと一緒にいたかっただけだって」

 泣き出した『保健委員』に『編入生』は薄く微笑んだ。

「今までいろんなところを渡ってきたけど、ここが一番好きだったし、楽しかった。だから、人狼がいると聞いて、絶対に勝たなきゃと思った。処刑させたり、食い殺させてたまるか。俺が勝てばみんなずっとここで遊び続けられる。それが俺の望みだ」


『先輩』が暗い目で『編入生』を見た。

「『先輩』に投票せずに済んで、よかったよ……」

『先輩』は無言で首を振った。


『保健委員』が糸が切れたように崩折れ、『先輩』がそれに続く。虚ろな瞳は『編入生』の方を見つめていた。

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