過去と未来の間

出羽 真太

第1話 黒の塊

トントントン、、、


小気味良い包丁の音で目が覚めた。洗面所で顔を洗ってリビングの椅子に座った。リビングと言うと聞こえは良いが1LDKのこじんまりとしたアパートだ。おまけに都内と言えども郊外で駅から徒歩30分ときたもんだから家賃は激安だ。まぁ大して給料の良くない俺が1人で暮らす分にはこんなもんで充分だった。そう1人なら、、。


「悠太!ボーッとしてないで早く食べないと仕事遅れるよ!」


香苗は妻で結婚したばかりだ。えぇと、先月だったかな、、?なんだか最近物忘れというか記憶が飛び飛びでふわふわしている。


「しっかりしてよぉ!今日の約束ちゃんと覚えてる!?」


約束、、、?、、。


「、、あぁ!覚えてるよ。午後休もらって海に行く。だろ?」


「正解っ!」


香苗は嬉しそうに台所に戻った。

なんでまた急に海なんだ?そもそもいつ約束したっけな、、。あー、思い出せない。



「じゃぁ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい!気をつけてね!それと、、」


「分かってるって、約束だろ?忘れないよ。」


ふふっと笑って香苗は手を振った。



いつもの時間、いつもの道を通って駅に向かう。毎日この30分の駅までの道のりも、最初はキツかったけど今では景色やちょっとした変化を楽しめるようになっていた。


「、、、、」


フッと悠太は頭の中がスッキリとした。さっきまで感じていたモヤモヤしたような感覚は全くない。


なんだったんだ、、?疲れてんのかな、、。


歩き慣れた道を駅まであと半分程のところまで来た時、、



違和感



周囲の空間が捻じ曲がる様な、真っ直ぐ立っているのが難しい程の歪み。


地震か?!いや違う、、なんだ?!酔っ払ったみたいに、、


「!!?」


突然目の前に黒い塊が現れた。見たことも無い、触れたことも無いそれは、恐らく、でも間違い無くこの世には異物だった。驚く程なめらかで黒いその塊は存在していて、それでいて存在していないような異様な雰囲気だった。空間?大気?とは全く境界の無いような、、。



悠太は黒い塊に手を伸ばした。そこに意識は無く吸い込まれる様に。手が触れたと思ったその刹那、数え切れない「イメージ」が頭の中に流れ込んできた。



そして、爆ぜた。

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