#26

 今日は特にすることもなくだらだらと休日を過ごしていた。


「やることないですねー」


「やることないな」


「まだ午前中ですよ」


「そうだな」


「寝ません?」


「時間が勿体ないだろ」


 休日の時間を使ってまで寝てしまっては何か勿体ないという気分になる。

「私は寝ます!」と、愛理さんは言って寝室へ寝に行った。

 一瞬俺も寝ようかと考えたがやっぱり勿体ない気がする。

 何か暇つぶしになりそうなものでもないかと考えていると電話が鳴った。

 誰かと思いスマホの画面を見てみるとそこには「管理人」と書いてあった。

 マンションの管理人さんが急にどうしたんだ?

 そう思い電話を返してみると愛理さんに用がある人がマンションの外にいるとのことだった。

 一応確認のために来てもらいたいと言われたはいいがなぜ少し焦っていたのかは分からない。

 そんなことを考えているうちにマンションの外に出ていた。


「あ、すみません。この人なんですけど……」


「……ちょっと待ってください」


 俺はその人物を確認するやいなや愛理さんに連絡を取った。


「愛理さん?今日家に誰か呼んだか?」


「いえ、誰も……」


「あーじゃあちょっと待ってな」


 一旦ミュートにしてから俺はその人物に話しかけた。


「あーちょっと電話代わってもらえますか?」


「ん……わかった」


 俺はミュートを解除してからその人に渡した。

 なんで音咲詩音が俺の目の前にいるんだよ……

 愛理さんに会いに来たという人物は音咲詩音だった。

 確かに愛理さんの分家?で仲が良くて今度家に来るかもとは聞いていたがマジなのか……

 結局管理人さんに確認が取れたことを説明してから音咲詩音には家に上がってもらった。


「詩音!一カ月ぶり?」


「…大体一カ月ぶり。おひさ」


「久しぶり~あ、そうそうその男の人が私の許嫁だよ」


「神崎樹だ。よろしく頼む」


「……音咲詩音。よろしく」


「どうよ私の許嫁は」


「……いい声。見た目も、よし……ナイス、イケメン」


「いいでしょ?いや~この国が一夫多妻制ならお裾分けできたのになぁ」


 どういう返しだよ。

 愛理さんと音咲詩音のペースに飲み込まれて俺はあまり喋れない。

 取り合えずリビングへ案内しソファーに座ってもらった。


「大丈夫?一人で来れた?」


「…頑張った」


「おーよしよしえらいえらい」


「……犬じゃない」


 何だこの空間……

 なんかいちゃいけない気がする……

 愛理さんと音咲詩音だけのこの空間をこのまま保ちたい。


「樹さん?空気になりかけてますけど」


「いや俺は空気になるべきだ」


「…大丈夫?、この人」


「いつもはこんな人じゃ……う、うーん?」


「あ、愛理……悩ませてる……」


「いや私だって悩むけど!?」


 やっぱり俺要らないよな!?

 このまま空気になって二人のやり取りをずっと見ていたい。


「樹さん偶に思考壊れますよね」


「酷くないか」


「可哀そう」


 初対面なのになんか失礼じゃないか!?

 まあ別にそこまで気にしないが。

 時折、俺に矛先が向いていたがまあそこは気にしないでおこう……




「詩音、昼ご飯どうするの?」


「……どうする?」


「私が作るね……」


「ん、ありがと」


 結局、愛理さんが昼飯を作ってくれることになった。

 愛理さんはその場から立ち上がりキッチンへ歩いて行った。


「「……」」


「なんでもいいよね?」


 音咲詩音はコク、と頷いた。

 そして再び訪れる気まずい静寂。


「……愛理……丸くなった」


「どういうことだ?」


「……前はもっと……ピリピリしてた?」


 聞いてみると愛理さんは実家にいたころはもっとストレスを抱えているような感じだったらしい。

 それが何によってとかは知らないそうだが今はそんな感じがしないらしい。

 俺からしたらあまり変わっていないように見えるがどうなんだろうか。

 まあ俺と話すときはずっと敬語だからなのかは分からないが……


「なんで…愛理。これに、敬語……使うの?」


「これ……」


「え、うーん……なんか、樹さんと話すときは敬語のほうが話しやすいのかな?」


 音咲詩音に指を指され「これ」と言われたのはまあ置いておいてなんで俺と話すときは敬語のほうが話しやすいんだろうな……

 まあ俺としては敬語を使われようが使われまいがどちらでもいいのだが。


「まあ樹さんに敬語やめたら『愛理』って呼んでくれるんだったら敬語止めるけどね。なんか言ってくれるって言ったのにまだ全然言ってくれてないし」


 音咲詩音のほうから痛い視線が飛んでくる。

 意外と言えないんだよな……


「距離感、変」


 愛理さんの距離の詰め方が猛者だったからな。

 きっとそのそのせいで距離感がバグっているのだろう。


「…でも、愛理に合う……いい人、見つかってよかった」


「そうかもね~詩音はどうするの?」


「……ん~、適当なの捕まえる」


「ちゃんとしたの選びなよ?」


「正直……一人で生きたい」


「詩音は無理かな~音咲家を詩音の代で潰すのはもったいないからね」


 音咲家は絶対に残すべき家系だと俺は思っている。

 日本の音楽界を支えてきた一家だからな。

 ここで潰えてしまえば中々に惜しい存在を日本は失うことになる。


「ぬぅ……」


「まあ本家が何とかするかもね」


「…余計なお世話」


「はいはい、ご飯できたし食べよっか」


 愛理さんがよそってくれたので、俺はそれを運んだ。

 音咲詩音は、その光景をただ見るだけで椅子に座ってからは何もしていない。

 料理を運び終わり、三人で昼飯を食べた。




「……狡い」


「どうしたの?」


「愛理、ばっかり……良い人に会えて……狡い」


 昼飯を片付け俺が皿を洗っていると急に音咲詩音が何か言いだした。


「樹さんの事?」


「……む~…お世話……してくれそうなのが、いい」


「何もしたくないだけじゃん……」


「……だってぇ」


「まあでも家事出来る人がいいよね」


 丁度背中を向けてしまっていたので音咲詩音の反応は見れなかったが多分頷いただろう。

 愛理さんが家事出来るおかげで俺何もしなくていいから楽なんだけど今度からは少し手伝ったほうがいいのか?

 手伝うにしても愛理さんがいつ家事をやっているのか分からないから手伝おうにも手伝えない。

 洗った皿を立てかけソファーへ戻った。

 そういえば食洗器欲しいよなぁ……

 いつも思うが買っても現状置く場所がないので我慢している。


「二人は……恋人らしいこと…してるの?」


 音咲詩音が急に話題を振ってきた。


「してるに決まってるじゃん」


「私、来てから……何も、してない……気がする」


「逆にしていいの?」


「ん」


 音咲詩音が頷いてから俺の方へ向く愛理さんの速度が明らかおかしかった。

 何も言わず俺に抱き着いてきた。


「えへへ~樹さんイチャイチャしてていいんですって」


「はぁ……」


「今日は寒いですよね。もっとくっつかねば」


 愛理さんが胡坐をかいて座っている俺の上に乗って抱き着いてくる。

 あ、脚が痛い……

 本音を言うと愛理さんに「私が重いって言うんですか!!失礼ですね」とか言われそうだから黙っておく。


「樹さんも私の体を寄せてくださいよ」


「そう言われてもな」


「もしかして私のこと嫌いに……」


「なるわけないだろ」


 これはいつもの愛理さんの流れに飲み込まれそうだったので俺は結局愛理さんの背中へ手を回しこちらへ寄せた。

 愛理さんの髪からはとてもいい匂いがする。

 同じシャンプーを使っているというのにな。

 気づけば音咲詩音のことを忘れていた。


「ま、毎日、こんなことしてるの……?」


「まあなんていうかいつものから過激を抜いたらこうですよね」


「そうだな」


「か……二人、どこまで進んだ?」


「まだキスだよ……この草食ヘタレ樹さんのせいで何も進まないからなぁ」


「なんかすまん」


「謝るぐらいなら何かしてください」


 そうは言われてもやっぱりなぁ?

 浅いのが終わったら深いのをするべきなんだろうが下手どうこう以前にタイミングというのが……

 愛理さんだったらいつしても嫌がらない気がするんだがそれはまあ別としよう。

 何故か目の前にいる愛理さんがニヤニヤしている。


「えいっ」


「うおっ、な、なにしてるんだ」


「寒いので~」


 愛理さんが立ち上がり服をたくし上げたかと思えば、服を俺の背中まで持って行き、俺の頭を服の中に無理矢理入れた。

 あったけぇ……

 あと目の前にある愛理さんのお腹が目に毒だ。


「樹さんお腹好きですよね~」


「黙秘権を行使する」


「というか私の体に弱いというか」


 愛理さんの体は俺にとっていい意味で毒なんだよなあ。

 見てるだけで欲してしまう、それだけの魅力がある。

 まあ実際スタイルもよければ顔もいいしな。

 愛理さんは本当になんでもできてしまうのが羨ましい。


「樹さんお腹に顔をつけてもいいんですよ?」


「我慢しないとやばい」



「ん~詩音お子様にはまだ早いから見たらだめだよ……」


 そろそろ理性がやばくなってきたので離れた。


「…………ん?……わ、私、愛理と年齢一緒なのに……」


「だって見た目は完全にろ……」


 それは言ってはいけないお約束じゃないのか?

 確かに同年齢の割に体もそうだが色々育っていない気がする。

 まあ俺は黄石で多少は慣れているのでそこまで違和感を感じない。


「……愛理……ボンキュッボンの…えち、体系。私、普通」


「いやまあ……詩音ぐらいの姿も珍しくないからね。人間皆通る道だし……」


「愛理、喧嘩……売ってる?」


「ま、まあ詩音みたいな見た目のほうが好みって人がいるからね?」


 それは多分ロリコンという奴だろうな。

 現実では公言してるやつは少数だがネット界ではごまんといるロリコンだろうな。

 まあネット界のロリコンは大体が二次元推しのはず……

 ちなみに言っておくが俺はロリコンじゃないぞ。

 音咲詩音が愛理さんのほうに近づくと愛理さんは何かを察し音咲詩音の頭を撫で始めた。


「はいはい、ごめんね」


「むー」


 尊尊尊尊尊尊尊尊尊尊。

 ソファーに愛理さんが座りその上に音咲詩音が乗って頭を撫でてもらっている光景を見ることができている俺は前世で徳を積んだのかもしれない。

 いや~この光景絵になるな……

 愛理さんもそうだが音咲詩音もなかなかの美女である。

 あー生きてて良かったー、そう思えるくらいだ。


「……愛理……これ、変」


「樹さんはそういう人だからね~」


「許嫁…大丈夫?」


「まあ滅多にならないしそのぉ……いつの間にか好きになっちゃったからね?」


「……ん、ならよし」


「あ、いいんだ」


「愛理……異性に、好意…持ってる……初めて。だから、大丈夫」


 海の藻屑になりたい。

 この場にいては穢れてしまう今すぐにでも離れるべきだが凄く凄く二人の様子を見たい。

 その思いが勝ってしまい失礼ながらもこの場にいさせてもらっている。


「まあ確かにそうかもね?実家にいたときは色々とやらされてそんな暇なかったし」


「愛理……今、可愛い。足りてなかったもの……全部、揃った感じ」


「そうかな~」


「でも、可愛すぎて……すぐ、襲われそう。もう、襲われた?」


「……ねぇ~詩音聞いてよ―」


 愛理さんが俺に対する文句を赤裸々と音咲詩音へ話していく。

 途中からとても痛い視線が俺に向かってきていたが……


「ヘタレ、草食、童貞、男じゃない」


 ぐふっ……

 こんなの致命傷になるわ。

 即死コンボを決められた俺は地面に伏した。


「優良物件最大の欠点」


「詩音、あんまり虐めると樹さん泣いちゃうよ」


「言わないと、永遠にこのまま」


「詩音がなんか、はきはき喋ってる……」


「愛理、襲われたいのならもっと大胆に積極的に誘わないとダメ」


「は、はい……」


 結局何故かここから数時間、音咲詩音による謎の説教を食らうことになった。










 ようやく説教が終わった……

 同時に説教を食らった愛理さんもぐったりとしている。


「詩音……もう夕方になるよ……帰らないの?」


「適当なとこ……泊まる、予定」


「それならうちに泊まりなよ。樹さんもいいですよね?」


「説教がないなら……」


「……分かった。泊まる。営み、見逃すから……ごゆっくり」


 音咲詩音という人間は本当に大丈夫なのだろうか。

 日本が誇る音咲家の人間にしてはとてもなんというか不安になる。


「詩音は変わらないねぇ……」


「……じゃあ、愛理と…寝る」


「え~どうしよっかな~」


 俺は……配信して朝まで過ごそうか……

 ゲリラ配信したら愛理さんから逃げたことにされるところまで見えているが……

 取り合えず二人は一緒に寝させることにして俺は朝まで配信をすることして、俺は何故か夕飯を作り始めた。

 なぜ俺はキッチンに立っているんだ?

 包丁で野菜を切りながらそんなことを考えていた。









 少し経ち何故か目の前で愛理さんと音咲詩音が俺の作った夕飯を食べていた。


「うま」


「樹さん滅多に料理しないのに美味しいのなんでです?」


「なんでだろうなぁ」


 愛理さんと一緒に暮らすまではもやし生活だったはず。

 ああ、そういえば俺が小さかった頃に父さんの実家で母さんとばあちゃん、あと近所の人とかと一緒によく料理していたな。

 父さんの実家がある所はそこまで大きくない田舎で祭りとかで振る舞う料理を作る手伝いしてたなぁ。

 多分そういう経験を体が覚えているんだろうな。

 今年の夏は愛理さん連れていくか。

 適当に今年の予定を立てながら夕飯を食べた。




「詩音、お風呂入ろ」


「……ん」


「では、樹さん皿洗いよろしくお願いしますね!」


 皿を置くだけおいて二人で風呂へ行ってしまった。

 なんか俺の扱い雑じゃないか?

 皿洗いぐらいなら別に面倒なことでもないので全部洗ってから自分の部屋に戻った。


「さて配信するか」


 ゲリラ配信の告知をしてから配信の準備を済ませた。

 早速配信を始めてみると挨拶よりも先に『ゆきちゃんから逃げるな』というコメントで埋まった。


「今回は逃げたわけじゃないぞ」


『そんなはずない』


 信用度皆無なのか?

 大まかに家に客が来て愛理さんがそっちの対応してるから暇ということを伝えた。


『なら認めるしかない』


「あ、寝室奪われたから俺はこのまま朝まで配信するぞ」


『寝室が奪われる……?』


『何するん?』


「ゲームとかか?」


『朝までにA〇EXで500キルできなかったら罰ゲームとか』


「無理ゲーなうえ罰ゲームつけるな」


『じゃあ300キルできなかったら罰ゲーム』


「まず罰ゲーム消そうな?それと目標下げてもやらんぞ」


『凛斗君、罰ゲームというかゆきちゃんとの企画あるんだけどあとで連絡するよ』


「社長?何、確定事項みたいに話してるんだ?」


 急に社長が現れたと思ったら何も伝えられていない企画が出てきたんだが。

 取り合えずこのまま喋っていても話すことないから、目標なし罰ゲームもなしの普通のゲーム配信を始めた。

 社長からメールが来てる気がするが今は配信中なのでガン無視でも問題ない。

 このまま朝まで配信をするのはきついな……

 でもやることもなく寝る場所もないので今の俺は配信をするしかなかった。




 なにか騒がしい。

 配信をして少し経ってからどこかから聞こえてくる異音に気付いた。

 立ち上がって部屋の中を確認してみたが特にこれと言って変な音を出しているような物はない。

 部屋の中に音を出している物がないということは音の出所は俺の部屋の外ということになるが……

 多分愛理さんと音咲詩音が何かやっているんだろう。

 部屋の扉を開けて廊下を確認したが姿は見当たらなかったが、向かいにある愛理さんの部屋から音がしていた。

 関わっても面倒くさそうなので特に気にせずPCの前に戻り配信を再開した。


「なんでもなかったわ」


『明らか変な音なんだが……』


「まあそこまで気にする必要はない事だから無視した」


「……ぱ、パパー」


 急に謎の音声が……?

 後ろを振り返ってみると顔を真っ赤にした音咲詩音と後ろでニヤニヤしている愛理さんが立っていた。

 ちょっと待て。

 配信のコメ欄を見てみると……


『おぉん……(困惑)』


『なるほどな……』


『ほー』


 暖かい目で見られている気がする。

 勘弁してくれ……


「雪?それと音咲さん?お前らふざけんな?」


「だって……雪が……」


「まあいいじゃん」


 深くため息をつきながら配信のコメ欄をもう一度見てみると……


『音咲……?』


「あ、スッ――」


 そう言えば俺、音咲詩音のこと「音咲」って言ったな。

 説明しないと行けなくなったじゃないか愛理さん……

 流石に声も名前を出した以上ここに音咲家の人間がいるということを誤魔化すこともできないので、俺は愛理さんの友人とだけ伝えた。

 愛理さんのほうもそれに合わせて説明してくれたので意外とすんなりと終わった。


「じゃあ寝るね」


「さっきのやるためだけに来たのかよ」


「まあレアボイス手に入れたからよしということでね?」


 音咲詩音を連れて愛理さんは部屋を出ていってしまった。

 まあ確かになぁ……

 もう大丈夫だよな?と心配しながらも配信をしたが結局二人はそのまま寝てしまったようだった。









「お、おつ……」


 流石に徹夜の配信はきつかった……

 配信せずにただの作業とかだったらもっと楽だったんだろうな、と終わってから後悔し始めた。

 思ったよりも喋り続けるのがきつかったな。

 もう絶対にしないと心に誓い俺はリビングに戻った。


「あ、お疲れ様です」


「おつ」


「あとで寝るからな」


「え~」


「眠たいんだよ」


 愛理さんが用意してくれた朝食を食って風呂入ってそのまま寝た。




「おはようございます。樹さん」


 目が覚め最初に映ったのは愛理さんの顔だった。

 やはりこう近くで見ると愛理さんの顔は整っているとつくづく思う。

 正直なことを言うとなんで顔出しをしないVを選んだのかが良く分からない。


「どうしたんですか?私の顔をじーっと見て。流石に少し恥ずかしいんですけど」


「綺麗だなって」


「ん~なんか樹さんのこと好きになってる人多そう」


「なぜ」


 そしてなぜ俺は寝たまま会話をしているんだ。

 取り合えずベッドから起き上がり愛理さんと会話を続けた。


「まあ樹さんは裏切るようなことはしないはずですし安心……できないですね」


 愛理さんの顔を見てみると何故か「キスしてください樹さん」と書かれている気がするのは気のせいか?

 そんなことを思っていると頬がぷくっと膨れ愛理さんはそっぽを向いた。


「ふん、もういいです」


「勘弁してくれ……」


 拗ねてそっぽを向いたままの愛理さんの顔を無理やりこっちに向かせ俺からキスした。

 一瞬だけだったが愛理さんはそれで満足したらしくいつも通りに戻ってしまった。

 なんというか拗ねている時の愛理さんも可愛いよな。

 もう少しだけ焦らして拗ねてほしかった。


「そういえば音咲詩音は帰ったのか」


「樹さんが寝て少ししたら帰りましたよ」


 二人の絡みをもう少し見ていたかったがまあ仕方がないか。

 またいつか二人の絡みが見たい。


「そういえば樹さんお昼ご飯どうします?」


「愛理さんは食べたのか?」


「いえ、まだですけど」


「じゃあ何か作るか」


 俺は布団から体を起こしキッチンへ行き二人で昼飯を作った。

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