#23

 とうとう冬期休暇も終わり再び学校へと通うことになった。

 そして今日一番恐れているのは、席替えの可能性があるからだ。

 二学期最初の登校日に、席替えをしたことから可能性は0ではないはず。

 そして俺がなぜその席替えを恐れているのかというと、今まで隣の席に座っていた愛理さんが別の男が隣の席になる確率があると言えるからだ。

 女子だったらまあまだ許せるが男子は絶対にダメだ。

 なぜかって?そんなの分かり切っていることだろう?あの腐った目で愛理さんを見るからに決まっているだろ。

 それだけは絶対に許されない、そいつの残りの人生壊してでも阻止しなければならない。

 どうすれば愛理さんの隣を女子にすることができるか考えながら教室へ向かった。




 教室の中へ入ると、俺みたいな陰キャのような生徒と紀里以外はグループに分かれて各々楽しそうに会話をしている光景を目にした。

 勿論、愛理さんも学校で仲のいい女子のグループに混じり話している。

 そして相変わらず紀里は孤立している。

 まあ関わらないほうが身のためだからな。

 目を付けられたが最後少しでもやらかしてしまえば退学まで陥る。

 嬉しいことに俺は紀里のサンドバッグとしてこの学校を悠々と生きることができる。

 骨折するかもしれないという可能性があるのは少し痛いが……

 そんなことを考え時間を過ごしていると、意外にも早く時が進んでいった。









 気づけば席替えというクソみたいな時間が来ていた。


「これまで通り席替えする、とは言ってもくじ引きなんか言う時間もかかって席が決まればお前らがあーだこーだぐちぐちうるさいから私があらかじめくじ引きをして決めた席に座ってもらう」


 結局くじ引きで決まった結果なのかよ……

 クラス中も「結局くじで決まったんかい」とか「なら俺たちにくじ引かせても変わらなくね?」といった声が上がっているが、そんなことは無視して黒板にどんどん苗字が書かれて行った。

 そして愛理さんの隣の人が決まった……まさかの京一だった……

 京一ならまだ許容範囲だな。

 愛理さんは一番左の最後尾列ということで後ろから見てくる輩も隣から見る輩もいない。

 先生の運に感謝しなければならない。

 俺の位置も確認し移動することにした。

 愛理さんに気を取られて周りの席が誰なのか確認をせずに……


「……なぜだ。なぜお前が隣なんだ、紀里……」


「あら?黒板に書いてある字が見えなかったのかしら?」


 クソッ、先生の運に感謝しなければよかった。

 俺の人生お先真っ暗最悪……

 そしてなぜか後ろが京一ということは察しが付くだろう、愛理さんの前の席は紀里……

 あー地獄だ。

 ただでさえ俺と愛理さんの関係性を疑っている紀里が俺と愛理さんの近くにいてそしてその関係を知っている京一が俺の後ろにいるという中々に酷い構成だ。

 春先先生のほうへ顔を向けると目が合いニヤッっと軽く笑った。

 確信犯でしたー終わりでーす。

 あ、でも愛理さんの監視下にあるから紀里が暴力を振るってこないように考えられた席なのか?

 偶然にしては不自然すぎるもんな。


「きーちゃんよろしくね」


「愛理、その呼び方やめてほしいのだけれど」


「いいじゃん、幼馴染の仲だし」


「樹、よろしくな」


「最悪」


「ふっ、楽しくなりそうだな」


 さっさと三学期終わってほしい……

 愛理さんとイチャイチャできない中で紀里の隣を過ごさないといけないなんて……

 これが俗に言う生殺しというやつなのか?

 隣と後ろからの圧に耐えながら早く時間が経つことを待った。









「おい、樹。今日お前の家に行ってもいいか?勿論千郷も一緒に」


 突然どうしたんだこいつは……

 軽く愛理さんの方向へ目を向けると気まずい顔で軽く頷いたのでどうやらいいらしい。

 なぜ気まずい顔をしたのかわからないが愛理さんからOKが出たのでいつ来るか確認をすることにした。


「いつ来る?」


「このまま直で」


「了解。じゃあ何もなければ校門で待ってる」


「千郷連れてくるから少し時間かかるかもしれない」


「気にするな。どうせ時間は沢山ある」


 今日は始業式ということもあり早帰りだ。

 いつもより時間があるのだから全然問題ないだろう。

 しかし急にどうしたんだろうか……

 なぜ始業式の今日なのか分からない。

 冬期休暇の間に来れば時間は沢山あったというのに……まああいつのことだからおかしくないのかもしれない。


「さて、私も帰ろうかと思ったけれど樹、少し話があるから付いて来てくれるかしら?すぐ終わるから彼との待ち合わせにも間に合うはずよ」


 ……盲点だった。

 俺の隣の席には紀里という人間がいるんだった。

 もしかすると京一は俺の家に行くと言って愛理さんに確認を取る所を狙っていたんじゃないんだろうか?

 京一は俺が愛理さんに確認するのを誘い紀里はその瞬間を狙っていたわけか……道理で愛理さんが気まずい顔をするわけだ。




 俺は紀里に連れられ屋上へと出た。


「聞きたいことがあるのだけれど……どうしてさっきの話の最中で愛理に顔を向けたのかしら?」


「気のせいじゃないか?」


「そう、でもおかしいわね。その時なんで愛理は頷いたのかしら?まるであなたが愛理に何か訊いて返事をしたように見えるわ」


「そこで本当に雪上さんが頷いてたとして、お前から見て俺が雪上さんのほうへ顔を向けたように見えたのなら確かにそうかもしれない。だが俺は雪上さんのほうへ顔は向けたつもりはないし、雪上さんが頷いたもしくはそう見えたのならこのことは偶然としか言えないな。俺は雪上さんとの接点なんか席替えする前が隣だったことぐらいだからな」


 これで見逃してくれたら話はすぐ終わる。


「私といる時よりも話すじゃないですか……」


「は?」


 突然の愛理さんの登場に俺は驚きを隠せなかった。

 そしてその愛理さんは軽く口角が上がっていて紀里のほうを向いてみると、


「フフッ、まさか仕組まれたこととも知らずにこうも間抜けな姿を見せられたら笑いが止まらないわ」


 普段笑わない紀里が笑っている。

 ……愛理さんにやられたのか俺は。ということはだな……

 愛理さんの後ろから千郷と京一が顔を出してきた。


「お前ら全員グルかよ……」


「いえーい!大成功~」


「いや~樹がこうも簡単にはまるとは思ってもいなかったよ。これも雪上の影響か」


「じゃあこのままここにいるみんなで私の家に来てもらいましょうか」


「え?そこはマジなの?」


「マジですよ?」


 三学期入って早々これはつらい……

 今学期は面倒くさそうだな。

 楽しそうに屋上から出ていく四人の背を見てつくづく感じるのだった。









「え?ここに住んでるの?」


「……なんというか二人の身分を具現化したと言えばいいのか?」


 紀里が無言でこちらを見ている恐怖に冷や汗が止まらない。

 京一と千郷は唖然としながらも俺たちの後ろをついて来た。

 エレベーターに乗り何とも言えない空気間のまま最上階へと上がった。


「ちょっと待ってろ。すぐ開ける」


 エレベーターから降り俺は玄関を開けた。


「私来て良かったのかなぁ」


「別に普通の家と大差ないと思いますしそんなに緊張しなくても……」


「愛理ちゃん基準じゃ話にならないよ……」


「お邪魔します……」


 全員をリビングに連れていくと京一が最初に口を開けた。


「ひろ……ここに高校生二人が住んでるのか……」


「なんかもう凄いね!」


「これは私も、ちょっと予想外だったわ」


「きーちゃんは屋敷に住んでるでしょ?」


「そうね。でもここにあなたたち二人だけが住んでると考えると驚きが隠せないわ」


 俺と愛理さんを除いた三人はリビング内をウロチョロと歩き回り始めた。

 何この光景。

 紀里までもがここまで興味を持つとは……

 というかなんで平然と紀里がここにいるんだよ。

 今の今まで疑問に思わなかった俺もどうかしてるな。


「何このテレビ……家にあって良いやつじゃないよ」


「使ってませんけどね」


「使ってないのにこの大きさ……金銭感覚も価値観も狂ってるよ。この人たち、怖いよぉ」


「お前ら本当に高校生だよな?いや普通の高校生ではないな……」


 愛理さんが特別というだけであって俺はふつ……社長の息子って普通じゃないな……

 普通が何かわかってきたぞ()


「そういえば廊下の脇に部屋が四部屋ぐらいあったけれど」


「私の部屋と樹さんの部屋、あとは物置いてるだけで使ってないかな」


「じ、じゃああそことあそこの部屋は?」


「寝室と使ってない部屋ですね」


「使ってない部屋があるんだ……」


「まあ二人暮らしですからね。そこまで多くの部屋は使いませんよ」


「自室と寝室が分かれてるだけで十分だと思うけど……」


 俺の前の生活を考えれば今は十分贅沢な暮らしをしている。

 あれもこれも愛理さんのおかげと言えるかもしれない。


「やっぱりあなた達は一緒に寝てるのね」


「えへへ~ラブラブだよ~まあまだキス止まりだけど……」


「愛理の性格で押してないはずないから……樹、あなたねぇ」


「まだ進んでないのかよ」


「いやこの間告白したばかりなんだが!?」


「クリスマスに東京のお高いレストランで告白されたからてっきりその後があるものだと思ってたんですけどね……」


「なんかこれ樹君が酷いね」


 俺に非あるか?ないよね?ないと言ってくれ神様……

 だって推しを汚せるか?俺には無理だ。

 俺に向けられる目線が痛い。


「ま、まあ四人とも一旦座ろうか。菓子ぐらいは出してやるから」


「わーい!お菓子だー!」


「子供?」


「子供とは失礼な。これでも彼氏持ちの高校生だよ!」


「流石赤月家の長女……」


 赤月家に関しては本当に血が繋がっているか怪しいと感じてしまうくらい、各々の個性が出ているというかなんというか……

 赤月家に関しては多少納得してる部分と諦めている部分があったりする。

 そういえばこのまま千郷と京一が成功したらあの三人が京一の弟妹にもなるということだ……

 高校卒業したらサラーっと関係性を切っておかねば俺が面倒ごとに巻き込まれる気しかしない。

 どうやって縁を切ろうか考えながら適当に食い物になりそうなものと飲み物を冷蔵庫から取り出して運んだ。


「おー庶民的」


「まあ住んでるところがちょっと変なだけだ」


「これはどうやって食べればいいのかしら?」


「「「「え?」」」」


「きーちゃん?流石に私でも知ってたよ?」


 ポテチの食べ方を知らないだと……

 どうやら紀里は相当庶民的なものになれてないのかもしれない。


「あーでもきーちゃんの家そういえばこういうの食べないね。私の家と違ってがっつり洋風だもんね」


「な、名前ぐらいは知ってるわよ。食べ方を知らないだけで……」


「おい、こいつ本当に紀里か?いつものように樹に罵倒と暴力してる強気な人間じゃないぞ」


「きーちゃん?どういうことかなぁ?」


「まあ色々とあるのよ」


 骨折させられたことまでもが色々で済まされた……

 愛理さんが俺のため?に怒ってくれている。


「しかし愛理ちゃんの家に来たはいいけどすることないね」


「ゲームします?そのテレビ使って」


「え!?いいの!?」


「できるかしら……」


「ちょっと取って来ますね」


 そういって愛理さんは部屋を出ていった。


「そういえば気になったんだがお前の部屋って何があるんだ?」


「俺か?PCとかそこら辺しかないぞ。ああ、あと服とか」


「ちょっと見てもいいか?」


「別にいいが……」


 俺は京一を連れて部屋を出た。


「あれ?どうしたんですか?」


「京一が俺の部屋見たいって言うから見せようかと思ってな」


「まあ少し話でもするかもしれないから先に三人で遊んでて」


「戻って来たら皆で遊びましょうね」


 愛理さんはゲーム機を持ってリビングへと戻っていった。

 横の扉を開けて中に入った。


「こんな感じだ」


「必要最低限の物を置いてるって感じだな」


「まあこの部屋でゲームとか作業するくらいだからな」


「ならこれだけ物がなくても納得がいくな」


「結局何が見たかったんだ?」


「いや別に少し気になっただけだけど」


 それから少し中を見てからリビングへと戻った。




 リビングでは楽しそうにプレイする愛理さんと千郷と苦戦しながらも二人と戦っている紀里の姿がそこにあった。


「何であなたたちはそんな動きができるの?」


「だって紀里、同じボタンしか押してないじゃん……」


「そこから……」


 ここまで酷いと今の時代を生きることができないだろうな。

 何もわからず教えてもらいながらも少しずつ覚え、身につけている。

 これには流石紀里というしかないな。

 理解も早く覚えも早いんだろうな。


「俺も混ぜてくれ」


「京一どうする?私と変わろっか?」


「じゃあちょっと樹とも戦ってみたいからな。借りるな」


「私も本気出しますよー!」


「私だけ初心者よね?卑怯よ」


 俺は余ってるコントローラーを手に取りテレビの前に座った。

 全員キャラを選択しゲームを開始した。


「あっ……」


 呆気なく紀里は場外へと落ちてしまった。

 残るは俺と愛理さんと京一がフィールド上に残っている。


「まずは雪上を……はっ?え?ちょっ……」


 京一は愛理さんに攻撃しようとした瞬間カウンターを受け攻撃を叩きこまれどこかへと吹っ飛ばされていった。

 そうだ、思い出した……

 このゲームだと愛理さん、siveaで人力チーターと呼ばれてる人に並ぶんだった……

 これは俺も少しは頑張らないと瞬殺コンボを入れられそうだ……




「連勝♪連勝♪」


「雪上強すぎやしないか……樹も大概だが……」


「愛理ちゃん強いよ……」


 愛理さんに至ってはプロ顔負けの実力だからな……

 流石に手も足も出ないわけではなかったがまあ勝てない。

 どうやれば勝てるかと模索していると、愛理さんがにやぁと不敵な笑みを浮かべていた。


「じゃあ次の試合、何か罰ゲームを設けましょう」


「罰ゲームってなにを……」


「次の試合、私に負けたら樹さんは今日の夜、私が食べちゃいます」


「わぁお、大胆」


「おい、それ半強制……」


 愛理さんに勝てたことないのに勝たなきゃいろんな意味で負けるの嫌なんだが……

 そして愛理さんの爆弾発言は止まらず京一達も巻き込まれることになった。


「塚野さんか千里さんが負けた場合はこの場で二人にはキスをしてもらいます」


「え?」


「紀里は負けたら……とりあえず脱ぐ?」


「嫌よ!」


「なーに大丈夫だってこの場に居るの彼女持ちの男子しかいないから」


「あなたは何を言っているのかしら?」


「愛理ちゃんって」

「雪上って」


「こういう感じなんだ「なのか」


「揃ってそれは酷くないですか」


 まあ愛理さんはそういう人間だから仕方がないな。

 これに関しては俺も庇ってやることはできない。


「じゃあ京一よろしくね」


「あぁ……」


「手加減はしない手加減はしない……」


「よーし!始めましょうか!」


「私の罰ゲームは変わらないの?ちょっと愛理!?」


 愛理さんは何も言わず始めてしまった……

 これ紀里を助けないこの後が地獄になる。

 マジで洒落にならないから俺は紀里の手助けぐらいはすることにした。


「チッ……樹さん邪魔ですね」


「最初から紀里を狙いに行くのは悪意しかないな」


「愛理から私のこと守りなさいよ。私が倒されたらあなたも物理的に倒すわよ」


「やめてくれ……」


「きーちゃんと話すのやめましょうか。樹さん」


 なんか両方から凄い圧を感じるんだが……

 特に紀里は圧というか殺気だな。

 殺す気満々だぞ、こいつ。

 愛理さんの動かすキャラがこっちに来て攻撃してきた。


「あれ?なんか樹さん強くなって……」


「負けれるかよッ」


 京一と紀里を置いてけぼりにし俺と愛理さんは本気で戦った。

 結果……


「シャッ!」


「負けた……樹さんに負けた……」


「じゃあ私はこのまま負けても罰ゲームはないわね」


「紀里は何を言ってるの?これは負けたら罰ゲームだよ?」


「……樹、落ちなさい。あと京一あなたもすぐに落ちなさい」


 ちょっと流石にやばい罰ゲームが設けられて今にキレそうな紀里とはいえこれは負けるわけにはいかない。


「京一は落ちろ。あとは俺がやる」


「なんでだよ!」


「お前らカップルだろキスして当然だろだからさっさと落ちろ」


「あなたもカップルで許嫁なんだからイチャイチャしてなさいよ!私は相手もいないのよ!?」


「なんかすまん……」


 なんで許嫁ということを知っているんだこいつは……

 愛理さんによって作られたこの地獄のような空間はなんだ……

 とりあえず俺は千郷と話し合っている京一を場外へ落とした。


「おい」


「いや棒立ちの人間負かして何が悪い」


「京一、諦めよっか」


「さっさとあなたも落ちなさいよ」


「あ、ちなみに紀里が負けたら今日帰るまで服着ちゃダメだからね」


 愛理さんのあどけない一言がこの場を凍らせた。

 もし紀里が負けたらあいつなにか人として失うんじゃないか?


「京一、俺どうすればいいんだ?」


「大人しく場外に落ちたほうが身のためだと思うぞ」


「だよな……」


「まあお前の場合勝つにしろ負けるにしろ必ずなにかを失うな」


「「あ」」


 俺と京一が話している間に紀里はキャラを動かし俺の使っているキャラを吹っ飛ばしていた。

 取り合えず復帰しておいた。


「なんで素直に落ちないのよ……」


「いやなんかどちらにしろ代償がでかいからちょっとよく考えようと思ってな」


「考える必要なんかないわよ!私が脱ぐのよ!?あなたが童貞失うことより問題よ!?」


「それは確かに問題だな……」


「なら落ちなさいよ!」


「でもこちらにもプライドというものが……」


「女子の体よりあなたのプライドのほうが大事だって言うの!?」


 なんか紀里が壊れていっている気がする……

 ふむでも紀里にこれまでのことを仕返すにはこれぐらいのことをしないと……


「なんですかこの地獄は……」


「愛理、あなたのせいよ……どうせだったらあなたは脱ぎなさい」


「え~私の体は仲の良い女子か樹さん以外には見せませんよ」


「俺が部屋から出ていこうか?」


「京一この部屋から逃げ出したらどうなるか分かってんだろうな」


「どうなるんだ?」


「寝ぼけた美雨のところに連れていく」


「ここにいるか……」


 俺と京一のやり取りに千郷は呆れたような笑いを見せた。

 この三人は知ってるもんな、美雨のやばさを……


「というかなんであなた落ちないのよ!」


 攻撃は基本避けなければ話をしたり考えたりすることできないからな。

 あとここまで長引かせている理由は滅茶苦茶悩んでいるからだ。

 いやな、言っておくが紀里と愛理さんはモデルやっててもおかしくない顔と体系なんだぞ?

 ここで見ておかなければ男としてなにか損をする気がするんだ。

 理性と本能がぶつかり合って互いを削り合っている状況で決断できる奴はいないだろ。


「京一どうする?」


「なぜ俺に訊く」


「いや男なら分かると思って」


「いやそれはよーく分かる。ただ彼女持ちなうえに相手が紀里となると悩むよな」


「それな。ただここで間違えれば男として何か損するんだ」


「うんうんそうですよね」


 横から愛理さんが顔を出して頷いた。

 誰のせいでこの混沌とした空間が作られたんだか……


「この状況を作った愛理さんは黙っていような」


「なんでですか!?」


「マジでなんで紀里を選んだんだよ……」


「丁度罰ゲームなかったですしえっっっっな体しちゃってますしきーちゃんなら腕で絶対に隠すか顔殴ってくる気がするんですよ。でも腕で隠すほうがやっっばっいですし、恥ずかしがりながら顔殴って来るとか最高じゃないですか?」


「樹、あなたは愛理じゃ満足できないのかしら!?」


「いや違うよ、きーちゃん?」


「あー紀里だからこそのところあるよな」


 このガチで嫌そうな感じとか最高だよなぁ。

 それにお嬢様だぜ?もう最高よ。


「そうですよ!私がするのと紀里がするのだと、こう刺激が違うと思うんですよ」


「なんで男子と女子がこういう話で盛り上がって意気投合してるの……私にはわからないよ?」


「千郷は分からなくていいと思うぞ。あと俺にも理解できないところはある」


「正直紀里のこの育った体をね、見るのは私も楽しみなんですよ」


「愛理、あなたねぇ……」


 なんかここまで来ると紀里が少し惨めに思えてきた。


「なんかこれだと紀里をいじめてる気持ちになるな……じゃあ紀里、同等の対価の何かを差し出せば俺はこのまま落ちてやる」


「あなたにとって同等の物……愛理の昔の写真とかかし…ら……?」


 俺はすかさずフィールドから落下し負けを認めた。


「口約束じゃ信用できん。ちょっと待ってろ紙持ってくる」


「え?ちょ……」


 紀里が何か言う前にコントローラーを机に置きすぐに俺は部屋から紙を出し内容を書いてからリビングに戻った。


「おい、さっさとここに名前書け」


「……これでいいかしら」


「ヨシ、いつ渡せる」


「明日でもいいわよ」


「じゃあ明日だ。明日持ってこなかったら脱げよ」


「……いいわよ。明日必ず学校へ持ってくるわ」


 よーし契約完了。


「何だこの手際の良さ」


「私の体と愛理の昔の写真が同等なんて……何かしらこの悔しさは……」


「いーや愛理さんの昔の写真のほうが上だ」


「泣くわよ」


「うーん、どちらが負けても私にとっては利益になったのになんですかねこれは……」


「まさかの展開だったな……」


 愛理さんの昔の写真に勝るものは愛理さん以外ありえないな。

 いや~これは中々いい取引だった。

 明らか落ち込んでいる紀里と唖然としている京一と千郷、そしてなにか納得がいかない愛理さんが俺のことを見ている。


「まあ取り合えず塚野さんと千郷さんにはキスをしてもらって」


「あ、忘れてないんだね」


「京一、ちゃんとしてあげろよ」


「なんでお前に言われなきゃならないんだ……」


「いや俺はヘタレすぎて愛理さんのほうから来たからな。別にお前ら初めてじゃなさそうだし大丈夫だろうと思うけど……」


 俺の言葉にいち早く反応し顔を真っ赤にし他所を向いたのは千郷のほうだった。

 それに遅れて京一も千郷と顔を合わせようとしない。


「あらぁ?これは初めてなのかしら?」


「……したことないよ」


「したことないな……」


 思ったよりもこいつら進んでなかった件について。


「京一、後悔だけはしないほうがいいぞ。マジで」


「ぅっせ、分かってるよ……千郷……こっち向いてくれ」


「う、うん……」


 なにこいつら俺らよりラブコメしてるんじゃないか?

 あれだけ学校ではイチャコラしてるくせにまさかキスすらしてないとは……

 二人とも決心がついたのか京一が千郷の頭の後ろに右手を伸ばし支えたところで顔を持って行って……キスをした。


「なんですかね、このじれったさ」


「なんか人それぞれなんだな」


「私たちの時は部屋の扉閉めた瞬間に私からチュッて行ったのに……」


 そんなことを話していると京一と千郷は顔を真っ赤にしながら離れた。


「なによ?私への当てつけ?」


「お二人さん、廊下の空き部屋使ってもいいよ?防音はばっちりだし布団が欲しかったら持ってくるよ?」


「いらないよ!」


「京一の家は知らないが千郷の家でするわけにはいかないだろ?」


「お前もちょっと黙ってろ」


 二人ともなんか初心で可愛いな……

 これが後方腕組みする人の気持ちか……なるほどな……


「明日学校休んででもあの部屋使っていいですからね?」


「いらないってば」


「そう?お母さん心配。学校で我慢できなくなって休憩時間にしてほしくないよ?」


「誰だよ」


「後方腕組みお友達兼お母さんですかね?」


「長いよ」


 なんだろうなこの甘くじれったい空気間は……

 こいつらラブコメの主人公とヒロインだって……

 絶対作中えっっっっなことしないで純愛突き通すけど作品のラストか後日談でずっといちゃラブ生活して子供沢山作るパターンのやつらだよ。お兄さん分かるよ。


「いや~良いもの見れました~」


「もうこのゲームはやめよう。カオスになるからな」


「他に楽しそうなの何かありましたっけ?」


「罰ゲームができたり喧嘩になるようなやつはやめような」


「ちょっと樹さん何かないか一緒に探しましょうよ」


 愛理さんに腕を掴まれ愛理さんの配信用の道具が置かれている部屋へ連れていかれた。


「はーあの二人どうなるんですかねぇ」


 次やるゲームを選びながら愛理さんはそんなことを呟いていた。


「まあ普通に上手くいくと思うな」


「ですよね~なんなら今日このままヤりそうな雰囲気ですし」


「ちょっと京一の背中押してやるか」


 このまま京一が押してしまえば二人で夜を過ごすだろうから俺は帰る間際に背中を押してやることにした。


「思ったんですけどなんで最後の試合だけ本気を出したんですか?」


「ずっと本気だったぞ……まあ愛理さんと実力が並ぶ人に一回勝ったときのやり方を思い出してな」


「人力チーター先輩に勝ったんですね……」


 面白そうなのをリビングへ持って帰り残りの時間を楽しんだ。










 気づいたときには六時になっていた。

 外を見てみると冬場だからか真っ暗だった。


「そろそろ帰る?」


「私は帰りを呼ぶわ」


「じゃあ俺と千郷は帰ることにする」


 京一と千郷は立ち上がり荷物を持ったので俺も見送るために立ち上がった。


「ん?見送りなんて必要ないけど」


「まあ別に玄関までならいいだろ?」


「まあそういうなら……」


 三人はリビングを出て玄関に向かった。


「あ、千郷は先、靴履いて待っててくれないか?」


「え?う、うん」


「京一ちょっと来い」


 京一を俺の部屋へ招き少し話すことにした。


「で、お前らどうするんだ?」


「どうするってこのまま千郷送って帰るけど……」


「まあ別にそれでもいいが後悔だけはすんなよ」


「流石にキスしたくらいで……」


「俺は二人がこのまま上手く行くと思ってるけどお前が頑張らないと始まらないぞ。まあ俺があーだこーだ言う義理はないけどな」


 まああれだけの雰囲気になれば悩むわな。

 俺は机の上に乗っている財布を手に取り中身の札を抜き出して京一に握らせた。


「おい!流石にこれは……受け取れない」


「じゃあそうだな。このまま何事も無かったらいつか俺に返せばいいぞ。でも、なんかあったら全部使い切れ、お前らの未来が上手くいくと思っているから投資したようなものだから返されても困る」


 京一は悩んだが顔を上げ呆れたように、


「まあ少しは上手く行くよう努力するよ」


「よし、じゃあこの話は終わりだ。千郷待たせてんだから行くぞ」


 京一を部屋から出してさっさと行かせた。


「じゃ、また機会があったら来てくれ」


「楽しかったよって愛理ちゃんに伝えておいてね~」


「じゃあ行くわ」


 京一と千郷は玄関から出ていった。

 上手くいくといいんだがな……

 まあ京一のことだから上手くやると俺は思っている。

 リビングへ戻ると愛理さんが紀里にくっついていた。


「きーちゃんは彼氏作らないの?」


「私は……弟がいるから大丈夫よ」


「え゛っ……まさかの……」


 紀里まさかのブラコン発言。


「は?あ、あなた居たの!?」


「あ、樹さんお帰りなさい~」


「あ、い、いや、そ、そうか。あー紀里ってあー……」


「何よ、その反応は」


「紀里ブラコンですよ」


「ちょっと愛理!?」


 弟がいた事実に俺は驚かないが……紀里ブラコンなのか……


「あー別に今は社会の多様性が認められてきてるからな。別に否定はしないぞ。ただ紀里あー……」


「その残念そうな感じやめなさいよ……」


「いやまあなんて言うかマジで残念って感じだからな……」


「今は知りませんけど昔は弟に向かって結婚しなさいって命令してずっと一緒にいたぐらいブラコンですよ」


「あぁ……なるほどな……」


「ちなみにあれですからね?ラノベでありそうな義弟とかじゃなくて実の弟ですからね」


 マジで残念なやつだった……

 こんな姉が一生付きまとってくる弟君が可哀そうだ。


「紀里、お前今後まともな人生送れると思わないほうがいいぞ」


「樹さんと同意見です」


「こんなことなら今日来なければよかったわ……」


「脱げば忘れられるよ」


「あなたはともかく樹が居るから無理よ」


 まあ俺が居るにしろ居ないにしろ脱ぐのはやめような……


「え、でも大丈夫だよ?樹さん絶対紀里のこと襲わないから」


「そういう問題じゃないわよ!愛理、あなたは本当に変わらないわね」


「紀里もブラコン変わらないね。ぷぷっ」


「愛理さんやめてやれ。もう可哀そうだぞ、フフッ……」


「あなた達ねぇ……迎えが来たから帰るわよ!」


 荷物を持って紀里は部屋から出ていってしまった。

 愛理さんもそれに付いて行くように部屋を出ていってしまった。


「紀里がブラコンかぁ……」


 世の中って広いんだなあ、そう感じるのであった。

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