#22

 俺は玄関に立ちソワソワしながら円を描くように歩いていた。

 なぜそんなことをしているか?それは一日ぶりに愛理さんが帰ってくるからだ。

 一日ごときでそんなことにならないと思うだろう?俺もそう思っていた。

 だがいつも一緒に暮らしている愛理さんがいざ離れるとなると「寂しい、早く会いたい」そういった感覚が収まらなくなった。

 玄関をうろつきながら待っていると鍵の開く音が耳に入った。


「……ただいま、って!?樹さん!?」


「おかえり」


「平静を装っているようですけど、絶対そわそわしていましたよね」


「……どうしてそう思うんだ」


「だって樹さんが玄関で待っているんですもん」


 なるほど、納得がいくな。

 確かに俺が愛理さんが帰ってくる前に玄関に立っていることなんかほとんどないからな。


「じゃあ我慢したのでハグしてください……お風呂で」


「?……何を言っているんだ。愛理さんは」


「え、別に場所の指定はしてなかったですし」


 愛理さんの唐突な発言に俺の脳が追い付いていない。

 確かに愛理さんの言う通りどこでするなどの場所の指定は一切していない。それは俺の記憶の中にもある。

 でも風呂でするのは違くないか?

 それも愛理さんがハグしてもらいたい状況は裸かバスタオル一枚の姿で湯船に浸かっているか湯船に浸かっていないかの状態でだろう。

 結局どちらとも俺には相当難易度が高い。

 考えてみれば難易度が高いどうこうではなくただ単純に俺の理性が吹っ飛ぶだけだな。


「樹さーん!戻ってきて下さーい」


「ん?どうした?」


「ほらまたすぐ考え事するんですからぁ」


「愛理さんの発言が少なからず悪いと思うが」


「むー私が悪いって言うんですか!?」


「うん、愛理さんは悪くないな。でもなハグを風呂場でするのは違うと思うんだ、俺は。だから今ここでしような」


「んぅ、まあ樹さんがそういうのならここでハグしましょうか」


 愛理さんが家に帰ってきてから約五分謎のハグ論争をしたがする必要は果たして本当にあったのだろうか。

 俺の胸に愛理さんが顔を埋めるように抱き着いてきたので俺は愛理さんの背中に腕を回しギュッと抱きしめた。


「ん~やっぱり樹さんと一緒にいる時間が私にとって一番最高です」


「俺も愛理さんと一緒にいる時間が一番生きていて良かったと思ってる」


「さて、こんないい雰囲気なのに手を出す気がない彼氏さんが居るのですがそれは誰でしょうか?」


 愛理さんは俺から離れてそんなことを言った。

 その言葉はよく刺さる……


「……まあまだ付き合って……」


「樹さん。確かに付き合って二週間ほどという事実に変わりはありません。そして普通のカップルだったらまだキスもしてるか怪しい段階でしょう。ですがよく考えてください?私たちは、二ヶ月、三ヶ月ぐらい同棲生活をしているうえ許嫁なんですよ?将来結婚することは確定事項なんですよ?」


 さてこの状況どうやって逃げるか。

 愛理さんの言っていることはもっともだが……

 俺だって逃げてばかりいたらだめだとは思っているぞ?でも流石に勇気がないというか……

 残念ながら俺は愛理さんとは違い草食派だからな……

 そこら辺の道端に生えている草を食べながらマイペースに生きることしかできないんだ。

 愛理さんからの逃走経路を探していると、


「逃がしませんよ」


「まあ愛理さん夕飯食べてないだろ?用意してあるから食べないか?」


「そう言われると思って夕ご飯は食べました」


「風呂は……」


「樹さんと一緒に入ります」


「あ~配信がー」


「ないですよね?予定表には一切書かれていませんでしたよ?」


「ゲリラ的な?」


「じゃあ別にしなくても問題ないですね」


 詰んだ。

 この一言で俺の状況が全て把握できるぐらいには詰んでいる。

 俺の手持ちにはもうこれ以上別の話題はない。

 はじめてはこんな形で奪われてしまうのか……まあでも相手が愛理さんなら別にいい気がする。

 愛理さんに脳を支配されている……のか?

 目の前の可愛くてちょっとからかってきたりお茶目なところもあったりするが優しくてなんでもできる俺の彼女を見てしまう。


「はぁ……樹さんのために我慢しますよぉーだ」


「ありがとな。愛理さん愛してる」


「うへぇ~さりげなく言わないでくださいよぉ~恥ずかしいじゃないですかぁ」


「言ってる方も恥ずかしいなこれ……」


「まあ一緒にお風呂に入って寝ましょうか」


「あ、そこは変わらないんだな」


「当たり前じゃないですか~」


 結局俺と愛理さんはそのまま風呂場に向かい一緒に風呂に入った。

 風呂から上がり寝巻を着てからリビングへ出るとソファーに寝っ転がっている愛理さんの姿が俺の目に映った。


「うーん、思ったんですけどテレビ要りませんでしたね」


「確かにあまり使ってないな」


「まあ家具として適当に置いておくだけでいいですよね」


「どこか勿体ない気もするが……」


 愛理さんは体を起こし俺のもとに近寄ってきた。


「じゃ、寝ましょうか」


 愛理さんは小走りで先に寝室へと向かってしまった。

 寝ることがそんなに楽しみなのか?

 まあかく言う俺も一昨日ぶりに一緒に寝るので少し一緒にいれて嬉しいという気持ちはある。

 寝室に入ると愛理さんの姿がなく少しベッドに近づいた途端、ドンっと強い衝撃が背中に走り振り返る間もなく俺はベッドに押し倒された。

 俺がせめて仰向けになろうと体を動かすとしてやったりと小悪魔的な笑顔でこちらを見ている愛理さんがいた。


「乗っかってもいいですか?」


「事前に報告するのは大事だがこの状況でそれ言うか?」


「私が乗っかって重かったら樹さんが苦しむので申し訳ないなぁって思ったので」


「いや愛理さんが重いわけない」


「胸があるので……」


「全国の貧乳を敵に回したな」


 敵に回したなとか言ってはいるがいやまあその、確かに愛理さんは大きいな。うん、大きい。

 確か前Eとか言ってなかったか?

 まあそんなこと……そんなことなのかは分からないが置いておいて、


「愛理さんは重くないから安心して乗ってもいいぞ。でも俺以外のやつに乗ったりしたら……」


「大丈夫ですから、そう怖い顔しないでください。じゃあおなかあたりに……」


 愛理さんが脚を動かし俺を跨ぐように腹の上に乗っかってきた。

 や、柔らかい感触が腹全体に……

 重さを感じるよりも先に柔らかいという感触が伝わってきた。

 理性を保つことに集中しながら愛理さんに問うために口を開いた。


「で、愛理さんは何がしたいんだ?」


「え、これがしたかっただけですけど」


「そうか。で、本当のところは?」


「こうすれば樹さんの理性吹っ飛ぶかな?って思ったので」


 そう俺に話しながら愛理さんは微かにはにかんだ。

 こっちのほうが乗られるよりか破壊力はあるよなぁ……

 乗られていることも相まってかだんだん視界が霞み、頭がポーっとしてきた。


「……樹さんにはちょっと刺激が強すぎたみたいですね……顔、真っ赤ですよ」


「一回退いてくれないか。頭が回らなくなってきた」


「私が退くと思いますかぁ?」


 愛理さんは俺に少し顔を近づけて煽るようにして言ってきた。

 俺はすかさず愛理さんの後頭部を両手を押さえそのまま俺のほうへ寄せ、無理矢理キスをした。

 キスされたことに気づいた愛理さんは避けることもなくそのまま落ち着いてキスをしている。

 俺は愛理さんの顔を離した。


「これで勘弁してくれ」


「はぁい」


「珍しく素直だ、な……?」


「今日は寒いですしくっついて寝ましょうね」


 愛理さんが横になると俺に抱き着いてきた。

 暖房が効いているからそこまで寒くないと言いたいが、嬉しそうにしている愛理さんの顔を見て黙っていることに決めた。


「帰省してどうだった?帰省であっているのかはわからないが」


「まあ予想通り嫌で面倒でしたね。でも詩音っていう分家の昔からの仲がいい子と喋れたからよかったかなぁってぐらいですし……」


「……詩音?もしかして音咲詩音か?」


「知っているんですか?」


「そりゃ、音咲家は有名だからな」


 日本でよっぽどネットやテレビを見ていない人間じゃない限りほとんどの人間が知っているであろう音咲家。

 音楽に興味がない人でも一度聴けば世界に引き込まれると噂というか本当の話がある。

 実際ボカロでも関わりがあり俺もよく聴いていたりする。

 そんな音咲家の長女といえば数多のコンクールで優勝を飾りテレビでも取り上げられるほどの人物だったはず……

 そんな音咲家が雪上家の分家だったとは……

 俺は今知らされた事実に少し驚いている。


「あ、そういえばいつになるかはわかりませんけど詩音が家に来るかもしれないです」


「マジかよ……」


「そんなに有名なんですか?」


「あ、愛理さん?あなたが十万人記念で歌みたとして投稿した曲は音咲家の方が作曲した曲ですよ?知らなかったんですか?」


「……あの曲結構というかVに限らず歌手とかも普通に歌ってる有名な曲ですよね?……あれ?音咲家って……」


 どうやら愛理さんは分家の偉業を全く知らないらしい。

 まさか自分の歌った曲の作曲者を知らないなんて……

 今度愛理さんに自分が歌みたとして投稿した曲の作曲者が誰なのか分かっているか確認をしておかなければならない。


「はぇ~で、肝心の詩音って何で有名なんですか?」


「簡単に言ってしまえば音咲家の集大成のような、なんというか……まあとにかく歌も歌えて楽器も弾けてしまいには曲も作れる。音楽界最強と謳われている人だな」


「へ~」


「他人事のようだな」


「まあ実際仲がいいって言うだけですし」


 仲がいいというだけでも凄いんだけどなぁ……

 世間的に有名な二人が揃う瞬間を見ることができるかもしれない俺は幸せ者……なのか?

 それが幸せなのか不思議に思う。


「んー!」


「どうした?」


「なんか樹さんが詩音のことばかり考えているので嫌な気持ちになりました」


「大丈夫だぞ、俺は愛理さんのことしか考えてないからな」


「じゃあもっとぎゅってしてください」


 上目遣いでこちらを見てくる愛理さんの破壊力に負け、愛理さんの背中に手を回しぎゅっと抱きしめた。

 推しが可愛い、これに尽きる。

 俺が推しているのはVtuber雪上雪花であって愛理さんは別かもしれない、それでも愛理さんも推しちゃうんだよなあ。


「性的な興奮は無しと」


「何で判断してるんだ……というかなんでそんなことを……」


「だって好きな人に抱き着かれて興奮しない人はいないと聞いているので」


「いやまあ興奮はしているようなしていないような……」


「ふ~ん・・・そうなんですかぁ~」


 愛理さんの顔を見てみるとからかってきたときのようにニヤニヤしてとても可愛らしいが、これはからかわれたのだと痛感した。

 偶に愛理さんのことを微笑ましく思うが大体俺がからかわれている時なんだよな……

 からかってくることが微笑ましいのかと言われたらそうじゃない……いやそれもある気がするが、どちらかというと無邪気な表情に対して微笑ましく感じる。

 これが祖父母が孫を見るときに感じるものなのか……いやわからないが。

 そういえばしばらくじいちゃん達のところに行ってないな。

 去年は愛理さんの幼馴染の誰かさんのせいで骨折してあまり動けなかったせいで行けてない。

 今年は愛理さんと一緒に行けたら楽しそうだな。

 じいちゃん達の反応が楽しみ、と思っていると愛理さんに頬を掴まれ引っ張られた。


「ま~た考え事ですか?」


「ああ、今年はじいちゃん達のところに愛理さんと一緒に行けたらな、と考えてた」


「樹さんのお爺様に?家族と顔合わせというわけですね!」


「そ、そうなるのか」


「樹さんの家族の方はお義父様としか会ったことがありませんでしたし、いい機会ですね」


「まあそれを言ったら俺も城雪さんにしか会ったことがないからな」


「確かにそうですね~あ、私、お義母様に会ってみたいです」


「まあいつか会えるだろうな」


 幼少期はよく一緒にいたが俺が小学校を入ってからだろうか海外への出張が多くなり年に一回会えるか会えないかになっている。

 そんな母さんと愛理さんが一緒に話せる日はだいぶ先になるだろうな。


「……寝れないですね」


「確かにそうだな」


「かと言ってこのまま離れるのは嫌ですし……一緒に配信でも見ます?」


 横の机からスマホを手に取りこちらへ見せてきた。


「見るか」


「丁度、立凛さんが配信をしてるではないですか~」


 スマホの画面を触り立凛の配信を開いた。


「『こんばんは、凛斗さんと一緒に見てますよ』っと」


『おー雪ちゃん。いや雪花さん?うーんまあどっちでもいいね。いらっしゃーい。しっかし二人ともラブラブだね……婚期を逃した私は絶賛一人で飲酒雑談だよ。クソッ』


「『私たち二人は一緒のベッドで配信を見てまーす』」


「煽ってるよな」


『はっ!?同衾!?クソが!二人とも若いくせに新婚夫婦みたいな生活しやがって……私の隣には誰もいやしねぇよ。ふざけんなー』


 酒を一気飲みしているんだろう、飲み物を飲む音が配信に乗っている。

 思ったんだが仕事を早く終わらせて勝手に家へ帰って暇してるのが悪いんじゃないのか?

 自分からチャンスを逃して……

 気づいてはいけないことに気づいてしまった気がする。


「『そういえば他の人のコメ拾わないんですか?』」


『そうしたいけど話題が尽きて飲酒絵描き配信に変わりそうだったから話題ができて丁度いいかな。コメ欄も盛り上がってるし』


 立凛の配信もまあまあ人が来るようになった。

 前は同接十人程だったが今や500人を超えている。

 これも愛理さんの影響があるかもしれないが普通に画風が好きな人が多いんだろう。

 そうじゃなきゃ愛理さんと関係のある俺のVモデルを描いた絵師を見に来ることはほとんどないはず。


『あ、そうだ。丁度いいや。凛斗ー今度アレのサンプル送りたいんだけどよさそ?』


「……何のことだ?」


 立凛の言うアレが分からないので立凛からのメッセージを見てみるとグッズのことだと分かった。

 サンプルまでできてるのかよ……

 投げたはいいけどやりすぎじゃないか?

 投げた俺が悪い気もするが絶対自己満足というかやりたいがために動いたんだろう。


「樹さんアレって何のことです?」


「多分グッズのことだと思う」


「買います!」


「サンプルが来るんだが……」


「お金なら腐るほどあるので部屋中グッズだらけにします!」


『アレってグッズのことか?』とメッセージを送ると、


『その事だね。まあ作っただけだから』


『ください!買います!絶対に!』


『おぉ、雪ちゃんが暴走してる……まあ作っただけだし今売ってもって感じだから……あ、でもちょっと待ってね』


 マイクが切れる音がしてしばらく経つと帰ってきた。


『雪ちゃんの分も作ってもらうようにしたから凛斗のところにまとめて送るね』


『やったーーーーーー‼』


『最古参の雪ちゃんには渡しておくべきだからね。それに凛斗が雪ちゃんのグッズだけ持ってるというのもあれだし』


「うへへへへへ」


「あ、愛理さん……まさかいつも……」


「は!?い、樹さん、ち、違いますからね?」


「違うのか……残念だな……」


「違くないです!」


 愛理さんは可愛いな。

 あまり愛理さんをからかったことはないが意外と可愛い反応をする。


「あ、からかったんですね?許しません!キスか、いちゃラブを求めます!」


「いちゃラブって何を?」


「勿論ベッドの上でのいちゃラブと言ったらぁ~?」


『あの~コメントが少なくなってるお二人さん?絶対イチャイチャしてるよね?』


「チッ……『してませんよ』」


 愛理さんが邪魔?してきた立凛に舌打ちをした。


『絶対してるじゃん。もしかして……いちゃラブセッ・・・の休憩中に私の配信見てる!?だとしたら許せないよ?』


「『な、なんで分かって……』」


『ま?』


「『おい、雪』」


『はぁ~うざ、高校生のうちからそんなことしてるんじゃねぇよ。この不健全者どもめ』


「『まあ嘘ですけど』」


『いやうーん?二人の仲だとあり得ないわけではなさそうなんだよなぁ……』


 隣の愛理さんが怖い。

 このまま話を続けてしまうと嫌な方向へ進む気がするので俺は立凛にこの話題を止めてもらうことにした。


「『立凛、話題を変えてくれ。隣の人が怖い』」


『いえーい!雪ちゃんやっちゃえやっちゃえ、そんなヘタレ雪ちゃんならイチコロよ』


「あ、愛理さん落ち着こうな?な?」


「いや~立凛さんも実質樹さんのお母様みたいなところもありますしぃ?これはもう親公認というやつなのでは?」


「一回離れようか」


 愛理さんの腕を掴み離そうとすると力を入れられ逃がさないと脚まで絡めてきた。


「離れたくないです」


「じゃあ一旦落ち着こう」


「はい……」


「ちゃんとお互いのことを理解して時間が流れるのを待とうな」


「愛に時間なんて関係ないんです。愛さえあればいいんです」


 唐突に少し危ないと感じるような発言をしてきた愛理さんに俺は少し引いてしまった。

 ちょっと愛理さんが心配になってきた。


「愛理さんは一回落ち着いてもう寝よう」


「おやすみなさいのキスを~」


「はいはい」


 少し強引に愛理さんの唇を奪い、立凛に寝ると言って配信を閉じた。


「おやすみなさいのキスがちょっと激しめ……」


「もう一回するか?」


「何回でもしたいです!」


 俺はもう一回愛理さんの唇を奪った。


「寝るか」


「え、もうちょっとぉ……」


 愛理さんとの関係性をどうしたらいいものか……

 やっぱりこのままが俺にとって一番居心地がいいというか……

 これ以上進展させても俺は困ることが多くなるだろうしせめてもう少し時間が欲しいとは思っている。

 それでも進展させたいと思っているこの愛理さんのために何かしたいんだが……


「愛理?」


「……やばいですねぇ、それ」


「偶に愛理って呼ぶか」


「え~毎日がいいです~」


「偶ににしないと俺が死ぬ」


 なんていうか自分で言っててきついと言えばいいんだろうか?……多分さん付けで呼ぶことに慣れ過ぎた。


「私が樹って呼ぶのはなんか変なのでしないですけど樹さんは愛理ってずっとずぅっと呼んでください」


「それはなんか卑怯だぞ」


「え~そうですかぁ?」


「俺にとっては半ば強制的に呼べと言っているようなものだぞ」


「ずぅっと」というのが卑怯だ。

 それに脚を離さないようにずっと動かしながら絡めてくるのが妙に理性を破壊してくる。

 なんというかこれは理性を破壊する体勢に入っている気がする。

 ぎゅっと愛理さんが腕の力を強め顔を俺の胸に押し付けてきた。


「樹さんの心臓ドクドクいってますね」


「本当にやめてくれ。心臓に悪い」


「んふふ~だからぁ鼓動が速いんですね」


 美少女に抱き着かれて脚絡められて心臓の音を聞かれてる。

 こんな状況を耐えれる男はいないはず。


「この状態でいいから早く寝ような?」


「この状態でいいんですね?ならすぐ寝ます」


 寝てくれれば愛理さんは脚も顔も埋めて動かすようなことはしないから寝てもらったほうが助かる。

 愛理さんが許嫁でよかったな、とつくづく実感するようになってきた。

 許嫁じゃなかったら会う機会なんてなかっただろうな。

 ……ないわけでもないのか?まあでもこうして一緒に寝るなんてことはなかっただろうな。

 こんな可愛い顔を間近で見ることができないなんて人生損してると思う。


「ん~少し暑いですね」


「ならくっつくのやめるか?」


「え、嫌です。暖房消しましょ」


「そうだな、俺も愛理さんとくっついたまま寝たいし」


「なんか樹さんが可愛い」


 暖房のリモコンを手に取り電源を切った。

 すぐに室温が下がるわけでもないのに俺たちはさっきよりもお互い腕の力を強めてくっついた。

 俺は正直なことを言うとこのままキスして頭がボーってなった状態のまま眠りにつきたい。

 普通のキスじゃなくて舌を絡めたやつがしたいと思っているがやっぱり欲望のまま動くのは嫌だしもう少し時間が必要だと思う。

 こんな雑念は忘れ俺は黙って何も考えず寝ることにした。

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