やさしい崩壊 矢向 亜紀様

【タイトル】やさしい崩壊

【作者】矢向 亜紀

【ジャンル】SF

【読んだ話数】読了

https://kakuyomu.jp/works/16816700427703906068


 あらすじを読まずに読み始めた私は一話目の一文目でんん?ってなりました。

 主人公の母親はコンクリートでできています。

 ここだけ読んだ方は私と同じく、どういうこと?となると思います。


 けれどこの作品の主人公の母親はコンクリートの建造物ですし父親もコンクリートの建造物です。主人公は生身の人間。そして建造物の声を聞くことができます。


 この時点で独特な世界観を持っていることは伝わったでしょう。私も頭にはてなマークを浮かべながら、考えるな感じろ系だな。と思い読み進めました。しかし、二話目にはいるころには気にならなくなりました。コンクリートが両親なことなんてこの作品の中では常識だよ。ってな具合に。


 作品の中でのリアリティって大事だと思うんです。我々が生きている現実ではおかしなことであったとしても、その世界では実際に起こりうるリアルな現象である。そう読者に感じさせることはなかなか難しい。それが不可解な現象であればあるほど。

 けれど、この作品は読めば読むほど違和感がなくなります。そういうものなのだと自然に受け入れられるのは主人公が当たり前のものとして受け入れているからです。


 主人公が受け入れるのであれば読者である自分も受け入れよう。そう思って読み進めると、様々な建造物が物語を彩っていきます。

 生まれたばかりのオフィスビル、火事で焼け落ちた家、巨大な体躯の海中トンネル。それぞれが自分たちが造られた使命を知り、それぞれの想いでそこに建っています。そんな彼らの言葉を聞けば聞くほど物語の中にのめりこんでいくのです。


 文字数としては一万二千字。それほど長くない作品ですが、いろいろな想いが詰まっています。書き手としては物語は長ければいいというものでもないと改めて考えさせられる作品ですし、読み手としては読んでよかったなと思わされる作品です。

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