第9話 教授の餞別!

冒険者ギルドを出たあと、

「じゃあ、セトさんからお勧めされた宿に行ってみるかにゃ?」

とのユイナの言葉に、「うんっ」と言ったが、これからの見通しができたので、魔術学院の寮に置きっ放しの荷物を引き取って、卒業できずに長々と使わせて貰った寮の部屋を出る手続きをしないといけないなと思い直した。

「あっその前に、学院の寮に荷物を取りに行っても良いかな?」

「うん。了解にゃ。そういえば魔術学院ってどんな感じか見てみたいにゃ。私も入れる?…やった、じゃあ一緒に行くにゃ!」

こうして、ワクワクした感じのユイナと共に2人で魔術学院に行くことにした。



 レンガ造りの校舎が建ち並ぶ魔術学院を見たユイナは、目を大きく見開いて感嘆していた。

「ここがライルのいた魔術学院か、凄い立派だにゃ。」

「うん。僕は落ちこぼれだけどね。」

立派な魔術学院とポンコツな自分との違いにちょっと苦笑いして答えながら、ユイナを案内していった。


寮の建物につくと、

「こっちが僕の部屋だから、ちょっと待っててね。」

とユイナに待っててもらい、自分の部屋に入っていった。

「荷物は着替えとお金、改良してもらった魔道具と…魔術の本は最小限にして…父さん母さんの箱も持っていこう。こんな物かな。うん、背負い袋に余裕で入るな。」

少ない荷物をささっと背負い袋に入れ、少なくない時間を過ごした部屋からの退出に感慨深い思いが沸き上がり、部屋に一つ礼をしてから部屋を出た。


「お待たせ。」

「お、早かったにゃ。」

「後は、寮母さんに出ることを伝えた後、教授に挨拶だけしときたいんだけど、居るかな~?ユイナは付いてくる?食堂でご飯食べて待っててくれても良いけど。」

「む、ご飯!?……いや、挨拶大事だから付いていくにゃ。」

 ケモミミをピクッと動かして一瞬よだれを垂らしそうな顔をしたユイナだったが、思いとどまり挨拶を優先したようなので、2人で教授室に向かうことにした。



 まず寮母さんに退出の挨拶をすると、豪快に笑いながら「おおぉ!出るのか!後10年くらい居るかと思ったのに!」と肩をバンバン叩き「おいライル、この綺麗な嬢ちゃんはどうしたんだ?・・・何?冒険者のパートナー?へーお前がねぇ。ちょっと心配してたけど、頼りになりそうな嬢ちゃん居るし大丈夫か!嬢ちゃんこいつのことよろしくな!2人とも元気でやっていくんだよ!」とユイナと共に激励して送り出してくれた。


 その後、教授室に着いて、トントンとドアをノックしながら

「ライルです。シン教授おられますか。」

と尋ねると、室内から

「あぁ居るぞ。入りたまえ。」

との声が聞こえたので、

「「失礼します。」」

と2人揃って教授室に入っていった。


 山の様に書類が積まれた執務机からシン教授が出てきて、僕とユイナを応接セットの方に導いた。

「教授、寮の部屋を片付け出ていきますので、挨拶に来ました。これから冒険者としてやっていこうと思います。こちらはパーティーを組むユイナさんです。」

「豹族の戦士、ユイナです。この度、ライル君とパーティーを組ませて頂くことになりました。」

挨拶と共に礼儀正しく上品な礼をするユイナ。

えっ!ユイナ、こんなことできるんだ・・・思わず目を見開いていると、

「これはご丁寧に。私はライル君の先生であり、少し保護者の代わりをしていたシンという者です。ライル君は少し不器用なところがありますが、誠実な男ですので、よろしくお願いします。」

「はい。共に頑張りたいと思います。」

 とつつがなく話が進んでいた。

ただここでシン教授はライルの魔術を思い出したようで、

「……あと申し訳ないが、ライル君の魔法は暴発し易いので、彼も迷惑がかからないようにすると思うが、心に留めといて欲しい。」

とユイナに申し訳なさそうに告げていた。

「あっそれは経験したので大丈夫です!任せるにゃ。あっ…」

言葉使いが砕けてばつの悪そうなユイナと共に、既にやらかしていることがばれて顔が引きつるのが分かった。


「フフッ。私に窮屈な言葉使いは要らないから、気にしなくて良いよ。むしろ砕けた感じでお願いしたい。それよりライル、もう暴発したのか…」

「ハハハッ…」

冷や汗が・・・

「ユイナさんが居るとはいえ、大丈夫なのか?どうやって戦うのだ?」

「とりあえず、暴発しても問題ない魔法と改良して頂いた場道具を使おうと思ってます…。あとお金が貯まったら魔道具を買って、クリスタルに魔力を貯めておいて使うようにすれば、多少は戦えるかな・・・と。」

「ふむ。…しかし魔道具だと、応用は効かないし、威力が限られるからそれだけだと厳しいぞ。あと接近されたらどうするんだ?」

「そうなんですよ。丁度今、近接用の武器をどうしようか考えてるところでして…。」


 シン教授はしばし思案したあと、

「そうだな。昔私が君の両親と一緒に行動していた頃に使っていたワンド(杖)を使うかい?」

と聞いてきた。

「ありがとうございます。しかし教授、魔法を上手く使えないのにワンドでは…」

「それだが、特殊なワンドでな。ちょっと待っていろ。」


 教授が奥の部屋から、持ち手から先の長さが30cmくらいのがっしりとした黒色の棒を持ってきた。

「これは見た目はただの硬い棒だが、魔力を通すとその属性に応じた魔法を、棒の周りにまとわせることができるんだ。ライル君、ちょっと持ってみろ。」

手渡された棒をよく見ると、持ち手から先に螺旋状に術式のラインが入っているのが分かった。


「そのまま炎をイメージして魔力を通してみろ」

 言われた通り炎をイメージして魔力を通すと、ラインに沿って炎が湧き上がり、持ち手から先が炎に包まれた。だが凄い勢いで魔力が減っていくのも感じ、驚いて魔力を切ると炎も消えていった。


「今使って分かったと思うが、これは敢えて術式を曖昧にし、影響範囲を限定して暴発させるようなものなので、自由度は高いが、その反面凄く魔力を喰うのだ。普通の術者の魔力量だとフルでも1分くらいしか維持できないから、魔法との併用は難しく使いづらいが、ライル君なら10分くらい保つだろうから使えるだろう。一定量を激しく吸われ続けるだけで制御不能な暴発もしないしな。」

「これは凄い。助かります。でもこんな凄い物を頂いて良いのですか。」

「あぁ。私はもう使わないからな。冒険者として旅立つライル君への餞別だ。役立ててくれ。」

「ありがとうございます。」

「だが、相手に当てたり攻撃をさばいたりするのは、ライル君の力が必要だぞ。」

そう言われて「うっ」とうなると、

「大丈夫、そこは私が鍛えてあげるにゃ。任せるにゃ。」

とユイナが軽く胸を叩いてニヤッと笑った。

「嫌な予感が…」

「ニャハハ〜。」


「では教授、本当にありがとうございました。」

「うむ。ライル君、ユイナさんもお元気で。困ったことがあれば遠慮なく相談しにきなさい。順調でも時々連絡してくれると嬉しいぞ。」

「はい。教授もお元気で。」

「2人でまた寄らして頂くにゃ。」

そうして2人はシン教授に挨拶をし、教授室を出て、魔術学院を後にしたのだった。



「ライル、良い人だったね。感謝だにゃ。」

「うん、本当に。僕の尊敬する人だよ。がっかりさせないように頑張らないと。」

「じゃあ、セトさん紹介の宿に行ったあと早速訓練にゃ。」

「えー!」

 

 こうして、ありがたいことにシン教授から近接用の武器を選別として貰い、若干不穏な?空気を感じながら、今日泊まる予定の門番のセトさんに紹介された宿に向かったのだった。

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