第2話 落ちこぼれ魔術士?ライル(1)

~プロローグ冒頭から遡ること数日前~

 王都に続く街道沿いにデントナと呼ばれる街があった。その街は立地の良さから多くの人が行き交い、発展していた。そして、そんな街のレンガ造りの建物が建ち並ぶ一角に、この国が誇る魔術学院があった。

 その学院にちょっとした縁と莫大な魔力量に将来有望という巨大な勘違いを受けて入学していた僕は、その実技演習場に立っていた。ほったらかしのぼさぼさの髪に目の下にクマがある状態で、汗ばむ手に魔道具を握りしめながら、攻撃魔術用の的を睨んでいた。

 僕の傍には、元々有名な冒険者で恩師であるシン教授が立っていた。シン教授は銀髪の長身でスラッとした体形で、実力があるだけでなく、学生に優しく丁寧な対応をするため人気があるのだが(特に女学生に)、今は少し強張った表情で佇んでいた。


「それではライル、今から卒業試験を行う。準備は良いか?」

「はっ、はい!」


そう、僕の名前はライル。身長160cmくらいの黒髪で現在16才である。

僕がシン教授の問いに緊張感がにじみ出た声で答えると、離れた位置にいた学院長がドスドスドスっと荒々しく寄ってきて


「今回失敗したら、次はないぞ!分かったな!」


と叩きつけるように言った後、演習場の入り口近くのかなり離れた位置まで去っていき、睨むようにこちらを見ていた。


……え~っ!ちょっと待って!失敗したら退学ってこと!?ってゆーか、気持ちは分かるけどそこまで離れるの?遠すぎない!?


僕はプレッシャーで変な汗が噴き出てきたが、シン教授が肩を叩きながら


「大丈夫だ、ライル。自信を持て。何が起こっても前回同様俺が助けてやるから。」


と声をかけてくれたので、何とか落ち着きを取り戻した。


そうだ。ここまで世話してくれたシン教授に報いるためにも、頑張らないと。

僕はこれまでのことを思いだしていた。


~~ここから回想~~

 そもそも僕は3ヶ月ほど前に行われた卒業式で同級生と共に卒業するはずであった。


 この世界では百年ほど前に魔力を貯めるクリスタルが開発されてから、クリスタルを燃料とした火水風土光闇の6元素魔法の術式を印した魔道具が、誰でも使える身近で便利なものとして主流になっていた。

 そこで便利な魔道具でも開発できれば、一攫千金も夢ではないため、貴族や商人など中流以上の子供たちは、6元素魔法と魔道具作りの基礎を学ぶ魔術学院に通うのが一般的になっていた。

 僕が在籍しているデントナの魔術学院はこの国最高峰なので、ここを卒業すれば輝ける未来が待っていると言える。……まぁ僕の成績はどん底なので、輝くことはなかっただろうが、卒業すれば普通には生活できるはずであった。しかし、卒業式でやらかした僕は卒業できていない…。


 思い出したくもないが卒業式でなにがあったかというと……。

 卒業式は魔術学院にある下部が六角形で上部がドームとなったレンガ造りの伝統ある講堂で行われた。

 講堂内部は魔術学院の技術のすいを結集した魔道具により、煌びやかな光の演出と連動した深みのある音色に彩られ、幻想的な空間が構築されていた。

 卒業生とその関係者、有名な魔術学院の卒業式を見ようと列席した有力者などが感動し感嘆の声を挙げた演出のあと、卒業生が一人一人学長に呼ばれ、学院長から卒業証書を授与されていた。

 卒業証書には魔術学院特有の細工があり、卒業生が魔力を込めると、それぞれの学生の魔力の特徴に応じた色に光り輝くという特徴があった。

様々な色と光り方に歓声が上がる中、卒業生が誇らしげに証書を受け取っていき、遂に僕の番となった。


「ライル、前へ!」

「はい!」


緊張しながら壇上に上がると学院長が

「さぁ、この証書に魔力を込めるが良い!」

と言って、僕の前に厚手の紙を両手で広げた。


ごくっと唾を飲み込み、慎重に魔力を込めたが、証書に変化がなかった。

あれっ?と思いさらに魔力を込めようとすると、学院長が

「もっと思いっきりいけ!」

と言うので、グッと力を込めると、なんと証書が膨らんだ。


「あっ!」

ボフッ!!!


一瞬にして学院長が持っていた証書が燃え上がり、

「うあっちーーーーっ!」

炎は学院長の立派なひげと数少ない髪に燃え移っていた……。


 学院長の後ろに他の教授と共に並んでいたシン教授が即座に『コールド!』と唱えて消化したのだが、学院長は炎により髭と髪が焦げてちじれ、コールドの魔法により一張羅がボロボロになっていた。


うっわ~~~!学院長がずたぼろのオークみたいになった;;


僕は恐る恐る

「大丈夫ですか……?」

と確認すると、学院長が顔を真っ赤にして、

「ライル!お主の卒業は儂が認めるまで延期とする!」

と宣言したため、僕の卒業は取り消されたのだった。


ホントに自業自得だけど暴発するよね…。


結局その後、シン教授を含めた周りのとりなしにより、僕がクリスタルを介さずに直接魔力を込めても暴発しないようなファイヤボールの魔道具(ファイヤボールの魔道具は一般的に暴発し易い)を作成できれば卒業を認めるという話に何とか落ち着いた。


だが、その課題の達成は困難を極めた。


 僕は転生の時の話により魔力量は桁違いに多いのだけれど、制御力が皆無であった。また不器用でもあった。

 元々魔力を貯めることができるこの時代では魔力量は重視されず、魔道具造りには緻密な制御力と正確性が何よりも重視されるので、ライルは学院で落ちこぼれであった。

 というか、魔力量が重視される環境だったとしても、制御できず暴発するような奴は評価されないよね。前世の知識も制限されててブレイクスルーとかできないし。

 それでも余りある魔力をクリスタルに込めてみんなの実験頻度を増やし、開発が円滑に進むように手助けをするなど、役には立っていたのだが、自分一人で作成するとなると中々思うように進まなかった。


 初めの内は魔力を込めた分だけ大きなファイヤボールとなるようにして暴発を避けようとしたが、放とうとして意識を込めてもファイヤボールが大きくなり続ける(危うくまた立ち会っていた学院長の髭と髪が犠牲になるところ(笑)を、シン教授が僕ごと凍らす勢いで止めた)など上手くいかなかった。

 結局3ヶ月ほど試行錯誤した結果、一定以上の魔力が込められると外に漏れ出すという逆転の発想(魔力を無駄にする機構)を組み込んで何とか成功したのだった。

 ちなみに暴発を防ぐため直ぐに漏れ出すので、ファイヤボールはかなり小さいものであった。


~~回想終わり~~


「ではっいきます!」


シン教授に目配せした後、掛け声と共に気合を入れて魔道具に魔力注入すると、莫大な魔力が流れ、魔道具から魔力があふれ出した!


「いけー!ファイヤボール!!」


シン教授や学院長が身構える中、引き金となる呪文を唱えると、火の玉が・・・ものすごく小さく浮き上がり、ヒュ~っと飛んで行って、的にパンッとぶつかった。


「っしゃーー!」


僕が成功に感極まった歓声を上げる中、


「……学院長、一応成功と思われますが、宜しいですよね?」

「……うむ、約束は果たしておるからな……。(というか、これ以上はこちらの身がもたんわ……)」


という力の抜けたやり取りが行われ、僕はなんとか卒業できることになったのだった。

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