第7話

「練習試合、ですか??」

「ああ」

 部活終了後、部室への帰り道に佳乃は空良からそう聞かされた。

「観月には前以って動いて貰ってるけどね」

「先方から返事があったよ、今月末の土曜日だってさ」

 胸元からメモ帳を取り出した観月が手を上げる。

「ちなみに相手は、啓西高校」

「・・・超強豪」


 ナラ県立啓西高校

 昨年、キンキ大会の全ての種目を制し、今年のインターハイでも男子個人優勝、団体は共に準優勝。

 男子個人準優勝の空良が居るとは言え、都合ヶ丘にとっては完全に胸を借りる立場なのは間違い無い。

「よくブッキング出来ましたね」

 静香が感心して言った。

「ま、口約束だったけどよく覚えてくれてたみたいだね」

 空良は以前、インターハイ予選の直前に啓西高校を偵察。

 その時知り合った相手校のエースと、いつか練習試合をする約束を交わしていたのだ。


「・・・駄目、ですよ」

 ポツリと佳乃が言った。

「ウチの部、本格始動したのこの前じゃないですか。部員も的前に殆ど上がっていない状況でいきなり練習試合なんて」

「試合に出るのはキミ達3人だけだよ」

「え??」

 言葉を止めた佳乃に代わって、観月が話し始めた。

「今回は、啓西高校女子弓道部に来て貰うのよ」

「女子??」

「・・・キンキ大会地区予選まで、あと一か月」

 空良が言葉を続けた。

「高校弓道の実戦デビュー前に試合勘を掴んでおく良い機会だと思うんだが」

(私達の事を、考えて)

 佳乃は顔を赤くして頭を下げた。

「すみません、先輩がそこまで考えて頂いていたとは気が付きませんでした」

「まあ、相手のエースがリハビリ中って事もあるんだけどね」

 空良は照れ隠し気味に頭を掻いた。

「啓西は、女子も強いぜ」

「・・・知ってます」

 佳乃は、ホッカイドウで見ていた。

 インターハイ団体決勝戦。

 惜しくも敗れはしたが、5人立の落は最後まで1本も抜かなかった。


 啓西高校2年、小素嶋涼子。

 彼女の射は、佳乃の瞳に今も鮮明に焼き付いている。


 それぞれの思いを巡らせている3人娘に、空良は不敵な笑みを浮かべて訊ねた。

「新生都高弓道部の大事な初戦。無様な試合は出来ないよな??」

「はい」

「勿論」

「全力を、尽くします」

「よろしい」

 空良はニコッと笑った。

 その笑顔に魅せられながら、佳乃は早くも試合立の構想に意識を向け始めていた。

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