第7話

『奥村恭一?……ああ! 覚えてるわよ』


 リストを見直しても、奥村恭一の事を良く思い出せ無かったため、綾子は幸子に確認の電話を入れたのである。


「どんな人?」

『あんたねえ……大事な客の事忘れるかなあ。ふつう』

「わたしは、七年も前に辞めてるのよ」

『はいはい。奥村恭一っていったら、あの『相模化工』とかいう小汚い工場にいた工員よ。高校出たばかりの坊やで、勧誘始めたとたんに、あたしらえらい目にあったじゃない。工場のパートのオバさん連中に捕まって『未成年を勧誘するな!?』って凄い剣幕で怒られたでしょ』

「あ! そういえば」

『でも、結局あんたが色仕掛けで契約取っちゃったのよね』

「人聞きの悪い事言わないでよ! 一回デートしただけよ」

『その一回だけっていうのが罪なのよね。あんた契約取る時に『またデートして上げるから、オバさん達には内緒にしててね』って言って、その直後に寿退職してさ。これを色仕掛けと言わずになんというか』

「そんな言い方ないでしょ!」

『言いたくなるわよ。あんたが辞めた後、残されたあたしは、その事で苦労させられたんだから』

「そうなの?」

『そう。あの後、あたしはパートのオバさん達から吊し上げ食らうし、うちの保険会社は、相模化工から出入り禁止になるし……』

「そこまでする?」

『いや、その前にやった事も、問題になったのよね』

「何かあったっけ?」

『ほら……名前忘れちゃったけど、奥村の先輩に髭もじゃの男がいたでしょ』

「そういえばいたわね」


 綾子の脳裏に、髪も髭の伸び放題に伸ばし、分厚い眼鏡を掛けた二十代半ばぐらい男の顔が浮かんだ。


『あの男に美人局まがいの事やって、契約取らせたじゃない』

「ああ、そういえば……」


 丁度その時、玄関のベルが鳴った。


「ごめん。探偵さんが来たから、これで切るわね」

『うん。今度、その探偵さん紹介してね』

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