第3話

『……結婚前にあんたに金を貸さなかったかって? なんで?』


 電話の相手は、かつて綾子が保険会社に勤めていた時の同僚の幸子ゆきこである。


「……その……」


 綾子はぽつりぽつりと経緯を話した。


『……ふうん。少なくとは、あたしは貸した覚えはないわ。というか、あんたって金に関していつもキチンとしてたじゃない。あんたから借りた人はいても、貸した人はいないんじゃない』

「でも……お昼代がなくて借りた事はあるわ。ひょっとして……」

『あのねえ……そんな微々たるお金で、ストーカーする奴なんていないって。それよか、相手の番号分かっているんでしょ。こっちから、かけて文句言ってやれば』

「とっくにやったわ。でも、いくらかけても相手は電話に出ないし。メールを送っても返ってくるのは『金返せ』の一点張り」

『じゃあ、警察に番号をチクってやれば』

「それもやった。まだ、警察からはなんの返事もないの」

『警察に知らせたなら大丈夫よ。番号が分かっているなら少しぐらい時間がかかっても、じきに捕まえてくれるわ。それじゃあ、あたし仕事中だから、これで切るね』

「あ! 待って」


 電話は切れていた。


……冷たいわ。わたしがこんなに苦しんでいるというのに、それでも友達なの……


 夫。

 実家の両親。

 友達。

 近所の主婦。

 綾子の脳裏にいくつもの顔が浮かんでは消えていく。この、一週間の間に相談を持ち掛けた相手ばかりだ。

 誰一人として助けにはならなかった。


……なんで……? なんでわたしだけがこんな目に会うのよ。


 ピピ!


「ヒッ!!」


 お馴染みの着信音に、綾子の思考は中断された。

 恐る恐るディスプレーをのぞき込む。

 夫からのメールだと知り綾子は安堵した。


〈探偵社に話を付けた。後日、探偵がそっちへ行く〉

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