第29話 力の代償 1

「何? 全滅だと!?」


 一方、神聖ヴァレンシュタイン王国とは打って変って豪壮な作りのヴァレンシュタイン王国での城内では、王が驚愕していた。


「は、はい! 奴ら……我らに勝てないと考え、化物を味方につけたようです!」


 王の前で未だにガタガタと震えているのは、一人はユウヤの最初の一人が圧砕されたのを見て逃げ出した賢明な兵士であった。


 もう一人は血まみれの兵士。最後にユウヤに頭をつかまれ、殺される直前、運良く逃げ出せた兵士だった。


「化物だと!? 馬鹿な! そんな都合よく化物を味方にできるのなら、我がヴァレンシュタイン王国でも化物を味方にして、ノエルのヤツの国をとっくにひねり潰しているわ!」


「で、ですが、王様! 私は見たのです! ヤツは……人間じゃありませんでした! 熊のような、豚のような……醜く、そして、恐ろしいほどに強かったのです!」


 その時のことを思い出して今一度震えるようにして身体を押さえる血まみれの兵士。


 最初に逃げ出した兵士も、その血まみれの兵士の脅えようを見て思わず顔を引きつらせる。


「……ふ、ふはは! な、何を馬鹿な……ど、どうせ、すぐに全員帰ってくるだろうて」


「お、王様!」


 王は現実逃避するように無理に笑顔を浮かべながら二人の兵士から目を背ける。


「大方貴様らは任務が面倒でそのようなことを行ってサボろうとしているのだろう。おい! この二人を罰として牢に入れておけ!」


「お、王様! 信じてください! 化物が――」


 兵士二人はそのまま王の側近の兵士に腕を掴まれるとそのままどこぞへ連れて行かれてしまった。


「全く……何が全滅だ……のぉ? キリシマ」


「ええ。そうですね。我がヴァレンシュタイン王国の無敵の兵士が、ノエル姫のお遊び騎士団に負けるわけがありません」


「うははは! そうじゃ! 全く、気がそがれてしまった。おい! 酒を注げ!」


 王は近くの侍女にそういって酒を注がせる。既に王の頭から考えるという機能は欠如してしまっていた。


 キリシマはそんな王を見てからそそくさと王の間を出たのだった。

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