第4話 孤独な怪物 4

「……はぁ」


 ユウヤは大きく溜息をつく。窓の外から見える空を見ると、まだ明け方のようだった。


「……コーヒーでも飲むか」


 数百年に一度のユウヤの楽しみとして、コーヒーがある。


 元々、ユウヤが逃げ込んだこの小屋には色々な物資があった。


 数百年分の備蓄用の食糧。地下には広大な空間もあった。もしかしたら、戦争用のシェルターのようなものだったのかもしれない。


 最も、それも今では無用の長物になってしまったわけだが。


 ユウヤは近くの小川から組んできた水を熱し、コーヒーを沸かす。


 そもそも、これがコーヒーかどうかもよくわからない。コーヒーに近い見た目、味だから、ユウヤはそう呼んでいるだけだ。


 そろそろコーヒーの備蓄も底を突いてきた。食料は既に数百年前から尽きている。


 ただ、ユウヤにとってそれは指して問題ではなかった。


 死なない兵士であるユウヤは食料を摂取する必要もなかった。いや、正確には食料をとらなくてもいい期間が異常に長いのだ。


 しかも、摂取する食料も極少量でいい。なんとも燃費のいい体に改造してもらったものだと、ユウヤ自身それだけは自身をこんな姿にしたもの達へ感謝していた。


「しかし……今日は何をしたものかなぁ……」


 毎日の日課といえば、小屋の周りを散策して、喰えそうなものを探したり、小川で釣りをしたりする。


 それがこの幾年……いや、数百年近くずっと続いていた。だから、そもそも悩む必要もないのだが。


 ユウヤは窓の外を見る。暗い闇が広がっているだけだった。


「……ん?」


 と、そんなユウヤの小さなつぶれた瞳に、輝くものがあった。


「な、なんだ?」


 最初は蛍か何かと勘違いしたが、さすがにこの辺りで蛍を見た覚えはない。蛍を見たのもそもそも、ユウヤが人間だった頃、知識として図鑑か何かで見ただけだ。


 それは闇の向こうから走ってくるようだった。いや、段々と判明してきた。炎だ。炎が一人で空中を移動しているのだ。


「もしかして……人か?」


 にわかに興味が湧いてきてしまう。それが危険であるということは理解していても。


「……ちょっと行って見るか」


 どうせ死なないこの身。化物でも幽霊なんでももう怖くない。もし呪い殺せるというのならぜひとも、自分をこの不死の呪縛から解き放ってもらいたいものだ。


 ユウヤはそんなことを考えながら、自嘲的な気持ちのままに、そのまま炎が揺らめきながら移動する方向へ向かった。

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