【三国川教授〈4〉】
教授との通話が遮断されて以降、何度かけても話し中で繋がらず、頭の中をあれこれ巡る考えがまとまらないまま私は一睡も出来ずに朝を迎えた。
もしや〈おのろし様〉の怒りが何らかの現象となって私に向かって来るのではないかという怖れも感じてはいたものの、幸い今のところ変わったことは起きてはいない。
考えてみれば三国川教授に対して私が聞いたことは〈おどろし〉についてであり、直接的に〈おのろし様〉に関することを何も口にしてはいなかった。
ただ、それでももし通話を切ったのが〈おのろし様〉だとすると、もしかするとあのまま会話を続けていれば、むしろ教授の方からまだ私が知らない情報が語られてしまっていたのかもしれない。
私、という寝た子を起こしてしまうような。
『余計なことを聞くな』
そんな警告だったのだろうか──
────────────────────────
「お、
寝不足の重い身体で登校をすると、教室に向かう廊下で担任の
「あ、先生おはようございます」
「おはよう。早速だが、これ」
右手に持っていた封筒を私に差し出す。
「え? 何ですか?」
「三国川教授から」
「えっ?!」
思いもかけない事態に私は目を丸くした。
「何を驚いてるんだ? 昨日の夜に教授と話をしたんだろう?」
「あ、はい・・・・しました」
「資料を渡すって話だったそうじゃないか。だからこれ」
(資料?)
そんな話は聞いていない。
一体どういうことなのか?
「あの」
「ん?」
「なぜ今、先生の手元にあるんですか? FAXですか?」
「いや、さっき、20分くらい前かな? わざわざ持って来てくれたんだよ」
「えっ? 学校にですか?」
「そうそう。熱心だね、あの教授。調査旅行に行く前に寄ったって言って、
「・・・・」
「
「あ、いえ・・・・」
「じゃ、確かに渡したよ」
「はい、ありがとうございます」
封筒を受けとるとそれは薄く軽かった。
あれから何回か掛け直してみても電話が繋がらなかったにも関わらず、教授のまさかの朝一での学校訪問。
そして担任に託した封書。
一体、何なのか・・・・。
私は教室には入らずトイレへと向かった。
個室に入り鍵を掛け、そして携帯用のソーイングセットから小さな糸切り
中には普通の白い便箋が三つ折で1枚だけ入っている。
ゆっくり開くと、拝啓から始まる縦書きの達筆な文面が現れた。
『拝啓
昨夜は残念なから会話が途切れてしまいましたが君と話が出来たことは非常に有意義でありました。
しかし、私はあのあと君が
電話ではまた昨夜と同様な事態が生じるかもしれませんので。
簡潔に書きます。
推察するに君の家系は〈おどろし〉に浅からぬ関係があると思えます。
[
このキーワードで調べてみて下さい。
私はこれから少し遠方に調査に参りますので10日ほどしたらまた連絡をします。
三国川』
読み終えた瞬間、意図せず全身に鳥肌が立った。
何故かは分からないが、このたった1枚の便箋に書かれたひとつひとつの言葉が何か異様なものを放っている感覚に襲われ、身体の中までもがザワザワとざわめいた。
平安京
唐突に提示された2つのキーワード。
三国川教授はこれを私自身で調べてみろと言う。
そして〈おどろし〉と松埜家の関係の示唆。
教授の言う『並々ならない縁』とは一体──
私は、現実感が遠のく中で今、未知の扉の前で立ち
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