再訪、そして―
「なんだか……寂れた観光地みたいだな」
木村が天国にたどり着くと、そこはかつての活気を失った廃墟のような都市があった。入り口の看板の文字は剥げており、入り口の近くにあった名物『天国まんじゅう』のお店もすべて閉まっているようだった。
木村がしばらく歩き続けると、天国の住民の1人に会うことができた。
「おや、あんたは死んだ人間だね?」
「はい、そうですが……この廃墟のような都市はどうしたのです?」
「わしも2年ほど前に死んだばかりだから、歴史的なことは伝聞でしか聞いておらんがな……」
その老人のような見た目をした男は、ぽつりぽつりと語りだした。
*
現世から観光に来る人が大幅に減ってしまい『おもてなし』をするだけの気力を失ってしまったこと。医療技術の急激な進歩により伸びた寿命によって、一時的に天国が過疎化してしまったこと。天国の人は自由自在にモノを生み出せるが、破壊したり消す能力は持ち合わせていなかったこと。
そうしたいくつかの要因が重なった結果、この観光地のような都市は完全に放置されて現在のような廃墟の姿に成り代わってしまった、というのが歴史的な経緯らしい。
「まぁ、解脱したような心を持つ我々にとっては別にこれでも構わんのだがな。これもまた風情があるじゃろ?」
その男は穏やかに笑いながらそう言った。
*
木村はその男に礼を言い、その廃墟に近い都市を散歩しはじめていた。
たしかに寂れた観光地の様相を呈しているが、一部のお店(という表現が天国で妥当なのかはさておき)では観光サービスを提供し続けているところもあるようだ。先ほど「廃墟のような」などと口にしてしまったのは失礼だったかもしれない、と木村は反省した。
そんなことを考えながら歩いているうちに、木村の目は一つの看板に止まった。
「これは……」
その内容に驚いて目を通していると、1人の女性が建物の中から現れた。
「はい、ここはこんな状況ですので……」
木村はその女性が何を言いたいのかはもう十分に理解していた。
*
木村は少し逡巡したもののそのバスに乗ることに決めた。バスは長い海岸を抜けたあと、山道に差し掛かり、巨大な山の長い長いトンネルに入った。
トンネルを抜けるとそこは地獄だった。
木村は自分が昔のチャレンジ精神を取り戻していることに気づいた。そう、自分はここで再び大きなチャレンジに取り組むのだ。
*
数カ月後、そこには立派な観光都市が築き上げられていた。それはかつて天国にあったラスベガスまがいのいい加減な都市ではなく、人々を魅了するような素晴らしい観光地であった。
入り口の看板にはこう書かれていた。
『Welcome to the Hell(ようこそ、地獄へ!)』
ー了ー
短編:天国旅行 戸画美角 @togabikaku
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