019_宝か薬か宝とは?

「雷」「目薬」「真の才能」で。


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 閃光。いくつもの光が重なる。


 光が白トーガ金糸銀糸の帯留めで留めた金髪の少女を浮かび顕す。


 古びた石組の古城に激しく雷雨が打ちつける。

 大木を裂き、尾を引く激しい音の連打。


 小さいな悲鳴の一つでもあげればまだ可愛げがある者を。

 俺はその赤眼の少女を見る。

 ……シャイア。俺はこの少女の弟ともども、二人ともを本人が申告した名で呼んでいる。


「ヴァレリー」


 少女の桜色の唇が小さく動いた。

 そして、雷鳴の間隙を縫ってこの少女、シャイアが俺の名を呼んだのを。

 俺はヴァレリー。旅の傭兵だ。とはいえ、最近は傭兵としてではなく、例えば今日のような遺跡巡り……こうして冒険者の真似事……をする事が多くなっているが。


「なあヴァレリー。この硝子瓶の中身はなんだと思う?」

「あー、それな。この城の旧主の持ち物だと思うぞ。どうやら旧主は女性だったようだな、それも化粧品の一つだ。……隣に紅やクリームもあるだろう? きっとそいつは香水さ」


 俺がシャイアにそう告げると、彼女はそれっきりその瓶に感心を持たなくなったようで、次の品を物色し始める。

 彼女が罠の危険にも動じず、箱の蓋を開けていた。

 そると、薬臭い匂いに辺りは包まれ、中身を見るに「またか」とシャイアは零す。

 俺は覗き込むも、彼女が失望した意味を悟った。

 箱の中は先ほどの品と同じく、香水と思われたからだ。


「万能眼薬」とラベルの打たれたガラス瓶を俺は取る。

「シャイア」

「なんだ」と彼女のぶー垂れた声。


「コイツは香水と違う。魔法の目薬だ」

「ほう。して、なんの役に立つ?」

「眼球の乾燥防止であったり?」

「詰まらんな」

「直視の魔眼に変えたり」

「物騒だな」

「まあ、俺も効果や価値まではわからんのだが」

「なんだ詰まらん。しかし、その瓶は吾の宝集めの嗅覚にグイグイ来る。そなたがいらぬと申すなら、ぜひ吾が宝物庫に納めたい」


 俺はシャイアに目薬を投げた。

 彼女はしっかりと、そして優しく掴み取る。


(宝? しかし俺の目にはそうは見えないが)


 シャイアは瓶の中のピンク色の液体をうっとりと見ている。

 確かに美しい。

 そして、シャイアが持つことで美は大きく花咲いている。

 俺は気づく。


(ああ、確かに宝だ)


「返さんぞ? ヴァレリー」彼女の眼が細まる。

「いらねぇよ、シャイア」


 シャイアは微笑する。

 俺はまた一つ、世界の秘密に気づいたらしい。

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短編集 ~幻夢を映す万華鏡~ 燈夜(燈耶) @Toya_4649

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