015_神霊に捧げし供物

「夜」「リンゴ」「残念なツンデレ」で。


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 薄暗い夜。星の明かりだけが頼りだ。

 そして室内。さらに闇が漂う。そして、濃密な甘い匂い。

 男は明かりを灯す。闇が蝋燭の明かりに払われて暫し。

 ガサガサといった深夜に漂う音の正体。それは麻袋にぎっしり詰まった熟れたリンゴの一つに齧り付く少女であった。蜂蜜のような黄金の髪の間から覗く、大山羊にも似た立派な二つの角がまず目に入る。そしてその体を覆う、白地に金糸の豪華なトーガ。いかに人の姿を真似ようと、どうしようもなく主張する人外の証、美貌と角。

 男は溜息をついた。


「はあ、なんだお前か、お前の仕業か」

 少女はケロッとして、


「である。そなたもどうだ? ヴァレリー。蜜が滴り美味いぞ? このリンゴ」

 と言うと、シャリッと音がした。


「だからそれ売り物……って、ひ、ふ、み……おいおい、こんなに食べたのかよ!」

 ヴァレリーが手に持つ灯りが床に落ちているリンゴの芯を顕にする。


「うむ。実に美味かった」

「美味かったって……そうじゃねぇよ!」

 少女に怒る。が、肝心の彼女はなんのその。反省している態度など皆無なのだ。


「全ての美味いものは、吾に捧げられた供物! それを痛まぬ内に全て平らげたとして何が悪い!」

「だからそれは供物じゃなくて売り物なんだよ! お前だけじゃなくて、俺達みんなの飯の種なの!」

「むー!」少女は赤い頬を膨らませる。

「解ったらもう食うんじゃねぇぞ!?」

「美味しく食べたのだ!」

「それとこれとは別!」

 ヴァレリーが少女を睨むと少女は。


「みなの飯の種なら、吾の腹に入って良いではないか! うんヴァレリー。そなた達の供物はこの吾が確かに受け取った! 重ねるが、美味かったぞ? ヴァレリー。こんな供物ならいつでも来いだ!」

「違うわ、もう! この腹ペコ娘!」


 少女は無い胸を張って宣言し、ヴァレリーはガックリとうな垂れるのであった。

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