第37話 自分との戦い(氷帝候補)


「鏡の中ってこんな感じなんだ」 


 鏡の中に入ったレイシスタは周りを見渡す。

 そこは天井、壁、地面、全てが鏡出てきた空間。


[いらっしゃい]


「っ!」


 レイシスタは声をかけられた瞬間に反射的に弓を射る。

 だが放った氷の矢は、声の主が作り出した氷の壁によって防がれた。


[ずいぶんと物騒だね]


 声をかけた主であるレイシスタの偽物は氷の壁を消して、手を上げて敵意の無いアピールをする。

 それでもレイシスタは弓を下ろさない。


「あなた、話せたんだ」


[まぁね。話せないのは魔力の無い彼の偽物くらいだよ]


「キリヤの偽物か、じゃああなたは私の偽物なんだよね」


[そうだよ。あなたの偽物。あなたの思考も能力も全てを持ってる偽物]


「……そう。なら死んで」


 レイシスタは連続で弓を射る。


[もう少し話をしようよ]


 偽物は小さな氷を作り出して、襲ってくる矢を全て防ぐ。


「あなたと話すことなんてない。【アイス・マルチアロー】」


 レイシスタは魔法陣を展開させ、大量の氷の矢を撃ち込む。

 だが偽物は全ての矢を最小限の氷で防ぎ続ける。


[そうかな?誰にも言ってない話とかあるじゃん。私がこの学校に来るのが遅れた理由とか]


「それはキリヤに話した」


[それは嘘の理由だよね。本当の理由話せばいいのに。彼女は強くなってたし、彼みたいな強い人もいる]


「二人には関係ない」


[関係あるでしょ。何のために一人で来たの?何のために一人で逃げて来たの?]


「……あなたどこまで知ってるの?」


[あなたが知ってることは全部知ってるよ。だって、私はあなたなんだから]


 レイシスタは氷の矢を撃つのを止める。


「そう。……【氷狼フェンリル】」


[あなた、自分の事嫌いだよね。【氷狼フェンリル】]


 二人は巨大な白い狼を出現させる。


「死んで」


[嫌だよ]


 二匹のフェンリルが互いにぶつかり合う。

 フェンリル同士の力は拮抗している。


「互角?」


[そりゃあそうだよ。でも同じ力なら余裕がある方が勝つよね?【氷狼フェンリル】私の魔力を喰らえ]


 偽物のフェンリルは偽物の魔力を受けて強化される。

 そうして強化された偽物のフェンリルが、本物のフェンリルを喰らい、破壊した。


「っ!」


[フロール家最強の魔法、負けちゃったね]


「うるさいっ!」


 レイシスタは再び魔法を構築しようとする。だがそれより先に偽物のフェンリルが襲ってくる。


[あ、ストップだよ]


 フェンリルはレイシスタの上に覆いかぶさった状態で止まる。


「……なんのつもり?」


[このまま殺すのはさすがにつまらないからね。もう少しお話ししようよ。その状態ならあなたも反抗出来ないでしょ?]


「……それで何?」


[もっと楽しそうに話そうよ。みんなと話してる時みたいにさ]


「あなたの顔、むかつくんだよ」


[自虐的だね。それでどうしてみんなに本当の事言わなかったの?]


「あなた何でも知ってるんでしょ」


[知ってるよ。けど本人の口から聞きたいから]


「……自分の事は自分でどうにかする。みんなに迷惑なんてかけたくない」


[迷惑ね。でも自分でどうにかならないことはあるものだよ。今の状況みたいにね]


「っ」


 レイシスタは魔法を発動させようとするが、その前に偽物のフェンリルによって体を押さえつけられる。


[まだ反抗する気持ちがあるんだね。……そうだ、チャンスを上げるよ。右側の鏡をご覧ください]


 偽物の言われるままに、レイシスタは顔を横に向ける。

 その鏡にはキリヤとフレイナの姿映っている。


[ここから叫べば二人に声が届く。さぁ、チャンスだよ。助けを呼びなよ]


「誰がっ!」


[チャンスタイムは一分間。一分経ったら殺すからね]


「っ」


 レイシスタは床に寝そべった状態で、弓を握りしめた。


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魔法を使えない最強剣士、魔法至上主義の世界を100ノ魔剣で成り上がる 影束ライト @rait0

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