第二章 魔剣士と氷の転入生

第21話 氷の美少女

 学園襲撃が終わった休み明け。

 教室では襲撃で負った傷を回復した生徒たちが元気に登校している。


 そしてそこには学園襲撃で活躍をした【炎帝】候補フェルニーナ=フレイナの姿もある。


 フレイナは教室に入りクラスメイトたちと挨拶を交わす。


「おはよう。ディルくん」


「フレイナ嬢、おはようございます。怪我はもう大丈夫ですか?」


「えぇ。おかげさまでね。それで……」


 フレイナは教室内を見回す。


「キリヤくんはまだ来てないの?」


「はい。もうすぐ授業が始まるんですが、いまだ来てませんね」


 二人は窓の外を見ながら、キリヤの心配をするのだった。








 __________________

 学園襲撃が終わった休み明け。


 学園襲撃にて一番の功績を残したキリヤは現在、全速力で町の中を走っていた。


「まずい、まずいな……」


 キリヤは地面を勢いよく蹴り、人と人との間をすり抜け、そして時には跳躍して道をショートカットして走っていく。


 そんなに急ぐ理由はただ一つ、


「まずい、このままだと遅刻する!」


 学園をトップの成績で卒業するという目標を持つキリヤにとって一回の遅刻がかなりの致命傷になる。

 そんな理由でキリヤは鍛えた体と身体能力をフルで活用し学園までの最短ルートを突き進んでいる。


 そうして走っているとキリヤの目の前を馬車が通る。


「っと、危な!」


 キリヤは立ち止まり、馬車が過ぎるのを待つがの目の前でぞろぞろと次から次へ馬車が通る。


「急いでるこんな時に。……いつもより遅く通るせいで馬車の検問終わりに引っかかったか。さて、どうするか……」


 キリヤが何とか馬車の行列を超えようとしていると、進んでいた一つの馬車の馬が暴れだす。


「うわぁぁっ!!」


「誰か、その馬を止めて!」


 周りの人たちまで慌てだし、馬車の行列も止まる。


(これなら通れる!)


 そんな騒ぎが起きてもキリヤは気に留めることは無く足を動かそうとした。

 その瞬間、


「女の子が!」


 そんな声のする方をキリヤが見ると、言葉通りに女の子がいる。

 それも暴れる馬の向かう方向に。


「きゃぁぁっっ!!」


 女の子は暴れる馬に怯え、その場に座り込んでしまう。


「さすがに見過ごせないな。こい『蛇腹』」


 キリヤが鞘から魔剣、『蛇腹』を抜く。

 それと同時に後ろから声を掛けられる。


「ねぇ君、私は馬を止めるから君は女の子を助けてくれる?」


 キリヤは後ろからの言葉に頷きながら、蛇腹の力を開放する。


「そのつもりだ。いくぞ『蛇腹』」


 キリヤの言葉に反応し、蛇腹は刀身を伸ばし女の子に巻き付く。


「えっ、わ、わぁぁっ!」


 そのまま蛇腹は、刀身を縮める。

 そして女の子はキリヤの腕の中に納まる。


「これでいいか?」


 キリヤは声の主の方を振り向き、女の子を見せる。

 そんな声の主は、


「君、すごいね。次は私の番。凍り付け【フリージング・アロー】」


 水色のショートカットの髪を揺らすキリヤと同じくらいの年の美少女。

 そんな美少女は馬車に向かって氷の矢を放つ。


 そして放たれた氷の矢は馬の足元に刺さり、馬の足ごと地面を凍らせて馬の動きを止める。


「よし、完璧。これでとりあえず解決だね。君、ありがとう」


 美少女は腕の中の女の子を下ろすキリヤに感謝を伝える。


「どういたしまして。って、別にあんたがお礼を言う必要ないだろ?」


 キリヤが首をかしげると美少女は横に首を振る。


「いやいや。確かに私とあの馬車は無関係だけど私のお願いを聞いてくれたわけだからね。感謝は伝えないと」


「なるほど。あんた、お人好しなんだな。さて、この子の保護者は……」


 キリヤが辺りを見回すと凍り付いた馬の方から近づいてくる女性が見える。


「お母さん!」


 そして女の子はその女性に向かって走り出す。

 そして二人は互いを抱きしめあう。


「あぁ、よかった無事で」


「うんっ!あのお兄さんとお姉さんが助けてくれたの」


 女の子はキリヤたちを指さす。

 するとお母さんがキリヤたちに近づき頭を下げる。


「娘を助けてくれてありがとうございました」


 そんなお母さんに対するのは美少女。


「どういたしまして。娘さんが無事でよかった。ね?」


「あぁ。次は娘さんから目を離さないようにしてください」


 お母さんは「ありがとうございました」と再び頭を下げ女の子を連れて行く。

 そして女の子は母親に腕を引かれながら片方の手を二人に振る。


 それにキリヤたちは手を振り返し見送った。


「さて、馬車の行列も動き出した。私は行くけど……君のその恰好、王立魔法学園の生徒だよね?」


「そうだけど、………あっ!」


 キリヤは思い出したように大声を出す。


「わぁ!びっくりした。どうしたの?」


「そういえば今、遅刻ギリギリなんだ。まずい、まずい、今時間は!」


 キリヤは近くの時計を見るとすでに針らキリヤが校内に居なければならない時間を刺そうとしていた。


「無理だ。終わった、どうしよう」


 キリヤはこれまでにないほど絶望をする。


「う~ん。それなら、どうにかできるかもしれないよ?」


 美少女はキリヤに向けて手を伸ばす。


「実は私、魔法学園に向かう途中なんだ。そのための道案内をしてくれないか?そのお礼として、学園の上の方に君の遅刻に目をつむるように言うよ。どうかな?」


「それはありがたいが。ほんとにできるのか?」


 キリヤが聞くと美少女はにっこりと笑う。


「あぁ、もちろん。そういえばまだ名乗ってなかったね。私は次期氷の魔帝。【氷帝】候補、レイシスタ=フロール」


「次期、魔帝……」


(ってことはフレイナと同じ。それなら教師に話をつけるのもできるか)


「それで、どうする?」


「……頼む。俺はキリヤ、剣士だ」


 キリヤはレイシスタの手を握る。


「うん。よろしく。それじゃあ行こうか」


 キリヤはレイシスタと共に馬車に乗り、学園へと向かった。



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