第11話 入浴と食事と

 居住空間内、浴室。


 淡いピンクで統一された内装に、四畳半ほどのコンパクトな広さ。


 そこで那月は、鼻歌を歌いながら壁にかけたシャワーを浴びていた。


「ふふ、ふふーん。ふふ、ふふーん……」


 手におさまる胸、うっすらと筋肉が見える腹部、引き締まった太ももに足。


 そして女神を思わせる美しい背中。


 その素肌を伝わり、那月の身体から湯が流れ落ちていく。


「いつ見ても那月の身体、きれいよね」


 そう言って、衣神いしんが、あらためて那月の身体に感心した。


「そう?」


 言いながらシャワーを止める那月。


「私より普通に、フクサンやセンセー、ネーサンがスタイル良いと思うけど」


 女性神である衣神、惣神そうしん呪神じゅしんの、かつての姿を思い出しながら言った。


「わたしはちょっと背が高いだけ。センセーなんて胸が大きいし、ネーサンはスーパーモデル級だけど、那月は上品さとたくましさをもった華みたいな感じね」


「ふーん」


 そう言われても、いまひとつぴんとこない那月。


「でも確かにセンセーの胸は大きかった」


 うなずきながら那月が言った。


「え? そ……、そんなことありません」


 不意に体のことを言われ、慌てる惣神。


「ネーサンはすごかったし、フクサンはスレンダーのお手本だった」


「ありがとう、那月」


「ありがとね」


 呪神と衣神は微笑みながら、さらりとかわすように答えた。


 純真さ、クールさ、穏やかさ。


 そろぞれの性格が現れた反応だった。


「……」


 反応といえば那月を取り巻く、銃神じゅうしん武神ぶしん宅神たくしん商神しょうしん、の四柱もその場にいるのだが、男性として節度を守る意思で、入浴中や着替えトイレなどのときは、いっさいしゃべらないことにしていた。


 ──曇りガラスのドアを開け、脱衣室に入る那月。


 同時に那月の魔力が身体を乾かし、そのまま脇の棚にある下着を身に着け、きれいにたたまれたパジャマを手に取った。


「お、いいねー、フクサン」


 青地に白のウサギが模様になったパジャマ。


 それを着た姿で鏡を見ながら那月が言った。


「気に入ったみたいね」


 用意した衣神も嬉しそうに答えた。


 脱衣室を出てピンクのモフモフスリッパを履くと、そこから那月は真っ直ぐ、リビングに向かいソファーに座った。


「さっぱりしたかい、那月」


「うん、とっても」


 銃神が声をかけると、那月は気持ちよく答えた。


「湯上りに、いつもの新健理茶しんけんりちゃでッス」


 宅神が言うと、那月の前にあるテーブルから、有名飲料メーカーのブレンド茶がれられたマグカップが現れた。


 それを手に取り、適度に冷えたお茶を口に運ぶ那月。


「ふう……」


 ゆっくり飲み込むと、那月は至福の顔をみせた。


「いい顔だ。大仕事の後の一杯は何でも格別だからな」


 自身も嬉しそうに商神が言った。


「ガーッハハハ、確かに。腹も減っただろう。タクロー、ご馳走じゃ」


「那月、よろしいでッスか?」


「うん、いいよ」


 武神の提案に、宅神が確認をとり、那月が同意した。


「では、こちらをどうぞ」


 宅神が言うと、テーブルから一回り大きなどんぶりと、茶碗にいれられた温かい味噌汁。


 ウサギの箸受けに置かれたピンクの箸が現れた。


 どんぶりの中にはご飯が盛られてあり、その上にマグロ、イカ、タコ、エビがのせられ、イクラが散りばめられていて、とても華やかだった。


「三陸産の海鮮丼でッス」


「うっわー、美味しそう。いただきまーす」


 そう言うと那月は箸を取り、ご飯と一緒にマグロを口に入れた。


「うん、美味しい!」


「それは良かったでッス」


 大喜びの那月に、宅神も笑顔が見えそうな声で言った。


「でも、乙女のご馳走って、なんか違うような……」


 箸が止まらない感じの那月を見ながら、衣神が呟くように言った。


「確かに、普通はケーキとかですよね」


「私ならワインだな」


 惣神と呪神が私見を述べた。


「以前、食べてみたいと言っていたので、希望に応えたわけでッス」


 宅神が選んだ理由を言った。


「ガーッハハハ、質実剛健。那月らしくて良いではないか」


「本人が喜んでいるなら、それでいいと思うね」


「フランス料理のフルコースみてえなのよりは安上がりだしな」


 武神、銃神、商神がそれぞれの見解を語った。


「まあ、それはそうだけど……」


 納得がいかない感じの衣神。


「だったらフクサン、明日、選んでよ」


 那月が好奇心を含ませて言った。


「え、わたし?」


「そう。センセー、それにネーサンもね。いいでしょ?」


「ええ、かまいませんけど……」


「私の場合、酒類になるぞ」


「大丈夫! 私、二十歳だから」


 そう言いながら胸を張る那月。


「ああ、そうだったな」


 呪神は微笑むようにして答えた。


「分かったわ那月。明日の晩御飯までに話し合って決めるわね」


 ウインクしながら話しているかのように、衣神が取りまとめておくことを言った。


「うん、楽しみにしてる」


「じゃあ、そういうことで。タクロー、キンジイ、よろしく」


「了解でッス」


「この流れじゃ仕方ねえわな。その分、後でしっかり稼ぐんだぜ、那月」


「オッケー」


 実際に用意する宅神と、財布を預かる商神も了承し、那月は残りの海鮮丼を口にした。


みんなといる。


みんながいる。


その表情は笑顔だった。

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