第5話 ヨキの復活

ヨキの手術は成功した。

なんと、ステージ4の末期癌から根治したのだ。


術後しばらくして、ヨキから電話がかかってきた。

「音羽の言う通りだった。

わたし、嘘みたいにスッキリしている。

なんで、あんなに苦しんでたのか、分からないくらい。

手術で、癌を切り取ってもらった後、本当に、あの膿のような苦しみが消え去ってしまった。

身体も回復してきてるし、何より私は、今ピカピカに自分が輝いてるのが、わかる。

仕事にも復帰したよ。

それどころか、もっと何か新しいことを、今こそ始めたい。

最高にエネルギーが充満してるから。

それで、音羽、あなたとタッグを組んで、何かやりたい!

っていうか、絶対何か始めることになる。

また、相談しよ!」


音羽は、元のヨキに、ヨキらしいヨキに戻っていると思った。

復活したのだ。


本当に癌細胞と一緒に癌のような想いも取り去られたのだろうか。


2人は、新しい何かを企画するために、会った。

長期戦の企画を2人は思いついた。


ちょうど、ヨキが、入院した頃から、世間は、コロナ禍と呼ばれる状態となり、あらゆることがストップしていた。

だから、ヨキの時間も止まったようだったけれど、世間も止まっていたから、ヨキにとっては、よかったのかもしれない。


無理矢理ストップをかけられてしまった社会全体に、不景気の波が押し寄せていた。

ギリギリの線で何とかやりくりしている中小企業や零細企業、それらの元気を取り戻すためのコンサルをして、イベントを打って出ようと、あれこれ企画し始めた。

その相談をしている時のヨキは冴えていた。

持ち前の頭の回転の良さを発揮して、次々とアイデアを出すヨキと話して、音羽は安心した。


でも、音羽は、ヨキがこうちゃんを完全に切ったわけではないことを知った。


「なんかさ、こうちゃん、やっぱりわたしのことを忘れられないって、連絡が来た、、、

でも、嫁を捨てることも出来ないって、どうすればいいのか分からないって、ずっと悩み続けてる。答えの、出ない悩み、、、本当にどうしようも無い男だね。

わたし言ってやった。もう、気楽になったら。

なる様にしかならないよ!って。

全く決断の出来ない、成長のない、男なのに、なんで、この人のこと、こんなに執着してしまったのかな、って思う。

でも、わたしには、やっぱり、未来自分の近くにいるこうちゃんが見えてる。

それだけは分かる。」


好きという気持ちは、相手がどんなに自分に酷いことをしても、消すことが出来ないことは、音羽にも分かる。

音羽は、ヨキのこうちゃんへの想いも時が経てば消えるかもしれないけれど、今はそれが無理なことを悟った。

音羽は、そっとしてあげよう。ヨキの気持ちが済むまで、周りが何かアドバイスしても、それは、無意味だから、と思っていた。

それと同時に、ヨキの言ったこと、こうちゃんと一緒にいる未来については、ヨキの確信をそこに見た気がした。


この世のことは、全て、想った通りのことが現実となる。

良いことも、悪いことも、全て。

それなら、ヨキのこの強い確信は、きっと叶うのかもしれない。

それが宇宙の法則だから。

音羽自身、そうして、夢や目標を実現させてきた。

ある時強く想ったことは、タイムラグがあったとしても、必ず現実となった。

その現実の中、振り返ってみると、そう言えば、あの時、まだ不確実なことを、強くイメージしていたな、と思ったことは、何度もあった。


引き寄せの法則に関する本や情報が、今の世の中には、溢れていて、知ってる人が多い。

でも、本当の意味を分かっている人は、そして、その法則を人生を良くするために使えてる人は、まだそれほど多くない。

けれど、音羽同様、ヨキは、その力を、知ってか知らずか、使ってる人の1人であることは分かる。

少なくとも、仕事に関しては。

こうちゃんのことは、今のところ、彼女の想い通りになっていないようだけれど、強いヨキが、強く想えば、それも実現するだろう、と音羽は思った。

「本当に、なる様になるよね。人生は、、、」音羽は呟いた。

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