第40話

  辰輝の闇を消した後、しばらく続く道をひたすら歩いた。


「もうすぐ闇の帝王に会える。その時は、みんな迷わず帝王を倒してね」

 僕の言葉に、ゴドーはあえて反応しなかった。

「太郎どういう意味だ? まるで他人事ひとごとじゃないか」

 ジュペは言葉の意味を知りたがった。

「見てください。あの黒い空を」

 ユーリは、道の先にある闇を指差した。先ほどまでは何もない普通の空だった。僕が覚悟を決めた時に、その闇は姿を現したのだった。

「行こう。決着の時だ」

 僕は闇と正面から向かい合うため足を速めた。ゴドーとユーリは、僕の決心の意味に気付いている。ジュペとシュリも気付き始めていた。彼らが感情に流されずに、闇を討ち果たしてくれることを僕は願った。


 そこで待っていたのは黒い魔女。地面からが数メートル上に浮いて静止している。

「光の勇者たちよ、よく来ました。さあ、私の闇を討ちなさい」

 彼女はそう言って、両手を広げた。そして僕は言った。

「みんな、ここまで来てくれてありがとう。楽しかったよ。嬉しかったよ。でも、もう、お別れの時が時が来たんだ。シュリにはとても残酷なことをお願いするよ。僕と黒い魔女の闇を討ってくれ」

 僕が両手を広げると、その身体は上昇し、黒い魔女と重なった。

「やめろよ太郎。お前に闇があったっていい。こんなことは間違っている」

 シュリは泣きながら言って、仲間を振り返った。

「他に方法があるだろう? なあ、ゴドー、ユーリ、ジュペ」

 名を呼ばれた三人は、何も答えなかった。他に方法はないということだ。

「ごめんね、シュリ。君が闇を討つ覚悟で国を出た時は、とても勇ましかったよ。でも、優しい君にこんな惨い決断が出来るか心配していた。光の子が消える事は最初から決まっていた。光の剣は僕らを傷つけたりはしない。ただ消すだけだから、君がそこまで気を病むことはないんだ。さあ、この世界を救ってくれよ。光の勇者、シュリ」

 それでもシュリは泣きじゃくりながら、光の剣を抱きしめ、最後の悪あがきをした。

「嫌だ、嫌だ。わたしはそんなことは出来ない。太郎、もうやめてくれ」

 シュリも分かっている。これが自分の運命なのだと。必ず果たさなければいけないのだと。

「シュリ、これは太郎のためなんだよ。君がこの世界を救うということは、太郎を救う事なんだよ。だから怖がらなくていい。僕たちもこうして一緒にいるんだ。君が太郎を救ってあげて。君にしか出来ないことなんだよ」

 ユーリが優しく諭した。


 シュリは光の剣を鞘から抜き、太郎と黒い魔女に、その切っ先を向けた。シュリの心が伝わったのか、剣は強い光を放ち、突然矢のように飛んだ。

 それは太郎と黒い魔女の身体を貫き、はじけて光の粒となった。太郎と黒い魔女の身体も、貫かれた部分からハラハラと光の粒となって崩れていった。やがて、彼らの身体がすべて光の粒となり消えてしまった。


 崩れ落ちるようにその場にしゃがみ込み、魂が抜けたかのように憔悴しきったシュリをユーリが抱きしめた。それをジュペが抱きしめ、さらにゴドーが身体で包むように抱きしめた。


「終わったんだ。シュリ、お前は立派だった」

 ゴドーが初めてシュリを褒めた。


 空を覆っていた闇は晴れ、青空が広がった。


 闇に襲われた国も街も人々も、闇から解放され、また元の平和な世界へと戻った。




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