第24話 階層主

「〈空間転移〉」

「さっすがぁー」


 ダンジョンの第五階層まで一気に転移してきた。

 最下層である十階層目まで転移できればいいのだが、ダンジョンは基本そのようなことはできない。


 未知の結界のようなもので保護されているのだ。

 ここの結界はアウトローが張ったものだと思われるが、基本普通に存在しているダンジョンは六百年より以前に存在した、魔王軍によって張られたものだと言われている。


 本当に面倒くさいことをしてくれるよな、と前世の頃から思っていた。


「うん。ここ、なにか異様だねぇ」


 彼女もなにかを感じ取ったらしい。

 さすがは学者という立場の人間だ。


「普通のダンジョンとは違うし、なによりダンジョン内に巡っている魔力が新しい。それに大人しい魔物もなぜか活性化している」


 ほう。そこまで分かるのか。

 さすがは魔法術式の学者だ。


 専門ではないにしろ、それなりの知識は持っているらしい。連れてきたのは正解だったかもしれない。


「ギシャァァァァ!!」


 湧いてきたダークゴブリンを素手で殴り飛ばし、エレア先生に拍手される。


「お、いきなりやるねぇ。魔法もなしにその戦闘能力だと、やっぱり過去の人間だとしか思えないねぇ」

「ははは……」


 一応中級の魔物だからな。いきなり飛ばしすぎたかもしれない。エレア先生はとてとてとダークゴブリンの死骸に近づき、


「これ、持って帰れたりするぅ?」

「ああ。もちろんです」


 〈魔法収納マジックポケット〉を発動し、ダークゴブリンを収納する。


「この魔物も普段は大人しいからね。魔物研究者に見せてくるよぉ。あ、もちろん、その人は君の実力を知っているから安心してねぇ」

「分かりました。お願いします」


 ここの階層はダークゴブリンが多く出現するらしい。

 出てくるたびに、とりあえず素手で潰しておいた。


「さすが。でも、保存状態はよくしたいから、やりすぎないでねぇ」


 なぜか注意されてしまう。

 ともあれ、そろそろ階層主の部屋がある場所かな。


 階層主とは、各階層の下りまたは上りの部屋に稀に存在する門番的な魔物のことだ。ダンジョンの階層のちょうど中間あたりに出現したりするし、階層が進むにつれて出現するケースが増してくる。


 階層主が出てきたってことは、そろそろ気を引き締めておいた方がいいだろう。


「ほほう。ヘイトリッド・デビルかぁ。この様子だと間違いなく魔女関連だねぇ」


 ドアを開くと、そこには憎しみを行動源にする悪魔がいた。真っ黒な体躯に巨大な角。持っている槍だけで二メートルはありそうだ。


「やれるのかい?」

「一発で決める」


 ただし、少し工夫してだ。

 暗雲の魔女関連の魔物となると、なかなか手強いのは間違いない。


「ここって魔力が壁中に流れていたりします?」

「ああ、流れているねぇ」


 よし。確認は取れた。

 俺は地面に手をつき、相手が攻撃してくる前に動く。


「〈鉄の処女アイアン・メイデン〉」


 俺たちの周囲を除く、全ての壁から鉄の棘が放たれる。

 ヘイトリット・デビルは一瞬は足掻こうとするも、動くことができず身体中穴だらけの状態で絶命した。


「それ……初めてみる魔法だけど、超上級レベルじゃない?」

「最上級ですよ。これでも」


 いいながら、俺はデビルの死骸を眺める。


「さすがにこれは持って帰りませんよね?」

「状態が悪いし、悪魔は気味が悪いからねぇ」


 よかった。さすがの俺も、これを収納するのには抵抗がある。


「うむ。しかし体感ではもう夜遅くのはずだ。明日は学校だし帰りましょうかねぇ。だいたい雰囲気は分かったしねぇ」


 言いながら、彼女は〈空間転移〉を発動する。


「あれ、使えたんですね」

「当然。一応、研究者ですからねぇ」


 それもそうか。

 言いながら、俺たちは帰宅した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る