第23話 暗雲の魔女

「ただいまぁ」

「おかえりなさい。どうでした?」


 尋ねると、エレア先生は唐突に真面目な表情になる。

 どうやら、楽観視できる問題ではないらしい。


「地理だけじゃなく、レミリオン歴史研究者にも聞いてきた。結果なんだけど」


 少し躊躇してから、彼女は口を開く。


「『暗雲の魔女』の家の跡地だった」

「暗雲の魔女、ですか」


 俺は、その魔女を知っている。

 というか、前世で戦ったことがあった。


 彼女はアウトローと言う名の魔女で、六百年前に王都を襲撃しようとしたことがある女だ。

 一応、人間ではあるのだが桁違いの魔力を持っていて戦闘する際はかなり苦戦した。


 どうやら彼女は、『憎しみ』を礎として魔法を使っているらしい。そのため、アウトローの力は強大だ。


 恨みと言うのは、強力な力を持っている。

 彼女がなにに対して恨んでいるのかは分からない。


 だが、確かに彼女の存在は脅威である。


「しかし、地理の専攻の研究者曰く、そこにはダンジョンなんてなかったらしい。探索され尽くした森に突如ダンジョンが現れた理由。わたしはこう考えているよぉ」


 足を組み直し、指で机をトントンと叩く。


「突如そこにダンジョンが現れたのか。それとも、『ガルドの魔力に反応して現れたのか」

「俺の魔力ですか」


 口には出さなかったが、後者ではないかと思った。

 彼女と俺には因縁がある。特に彼女は憎しみを力にして動く魔女だ。


 俺に一度敗北をしているため、間違いなく憎しみを抱いているはずだ。


「わたしには分からないが、ともかく危険なのには違いない。ガルド、わたしも連れて行ってくれないかねぇ」


 エレア先生が加わると言うのは、とても心強い。

 もし、アウトローが転生して、あるいは魔法で生き延びていたとして。


 しかし……魔法の可能性は薄いな。

 魔法で寿命を伸ばしても、その分体に負荷がかかってくる。


 ともかくだ。


 無関係のエレア先生を巻き込むのは危険だ。


「君は危険だから、わたしを連れていけないと思っているよねぇ」


 ぎくりとする。

 彼女は全てを見通すような、不思議な視線をこちらに向けていた。


「なら、わたしは君を脅させてもらう」

「俺を……脅すですか」


 彼女は嬉々としながら立ち上がり、俺の胸に指を立てる。頑張って爪先立ちして。


「ガルド、君は転生者だろ」

「なっ――」


 どうしてバレているんだ。

 いや、どちらにしても伝えるつもりだったから構わないのだが……理由が気になる。


「根拠は……?」

「当てずっぽうだがね。君の能力を鑑みると、そうとしか考えられない」

「……もしそうだとしたら?」

「学園会議に提出して君の体をとことん研究する」

「よし、一緒に行きましょう」


 エレア先生は微笑んで、


「よろしぃー」


 と言った。

 しかし、ダンジョン攻略、そしてアウトローとの戦闘を考えるとエレア先生が心配だ。少なくとも俺が教えて以降、自身で研究して正しい魔法を扱えるようにはなっているらしいが……。


 この時代は魔力量が過去と比べて低下している。そう連続して放てるものではないだろう。


「もちろん、なにかあればすぐに頼るよぉ」

「ああ。ぜひ頼ってください」


 とにかく、エレア先生を守る体制でいくか。

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