第20話 お買い物


 女の人と買い物か。考えてみれば、前世でも一度としてしたことがなかったな。別に女の人に恵まれなかったわけじゃない。


 ただ、機会がなかっただけだ。

 機会がなかっただけ……。


 いやいや、ひとまず今日は寝よう。


 ◆


 ふと思えば、服がない。

 燕尾服と制服しかないのだ。


 くそ……こんなことなら衣服を生成する魔法を開発しておけばよかった。自分が万能ではないことを改めて自覚する。


 前世では服に拘らなかったからなぁ。

 とりあえず、制服でいいか。


「おまたせ」

「よっ!」

「こんにちは!」


 街の広場にて、俺たちは適当に挨拶を交わす。

 どちらも学園指定の制服を着用していた。


 どうやらそこまで気にしなくても構わなかったらしい。

 なんだろう。そこまで意気込んでいた自分が恥ずかしくなってきた。


「とりあえず服屋さんに行きたいな! あまり実家から服を持ってきていなくてさ!」

「いいですね。私も行きたいです!」

「ああ。俺もだ」


 ちょうどいい。そこで買おうか……ああ待て。

 俺、お金持ってない。


 レミリオン学園は学費が無料だから気にしたことがなかった。……彼女たちに借りるのも忍びない。


 よし、魔物を狩って素材を売っぱらってくるか。


「一分だけ待っていてくれないか?」

「え、いいけど」

「はい。大丈夫ですよ?」


 〈空間転移〉で昨日行ったダンジョンへ向かい、適当に魔物を狩り、質屋で売り払い、


「ただいま」

「なにしてたの?」

「金稼いできた」

「この一瞬で!?」


 サシャが大袈裟に反応する。

 そうか、彼女は俺が魔法を使う姿をあまり見たことがないのか。


「これくらい余裕だぞ。筋肉パワーだ」

「そうなのです。筋肉パワーなのです」


 ユリと一緒に、マッスルポーズを取る。

 それを見ながら苦笑するサシャ。


「そ、そっか。筋肉パワーね……」

「次第に慣れますよ」

「そうなのかな」


 どうやら俺のことを慣れで解決しようとしているらしい。なんだろう、なぜか傷つく。


「それじゃあ、レッツラゴー!」

「おおーー!!」

「おお」


 ウキウキでみんなが拳を上げるので、とりあえず倣って上げてみた。


 広場は四方向に道が分かれており、俺たちは南西の方向へ向かって歩いていく。休日の昼間ということもあって、人は賑わっていた。


「ユリったらね、今日のことすごく楽しみにしてたんだよー!」

「ん? 俺は昨日約束したはずなんだが、いつ会話したんだ?」

「それがさ、夜遅くに急に――」


 ユリが慌ててサシャの口を塞ぐ。

 顔はなぜか真っ赤になっていた。


 ……女性同士の関係は難しいっていうしな。

 彼女たちも彼女たちで苦労しているものだ。


「まあいいや! そうそう、ガルドくん。魔力の波長教えあわない? 連絡取れるようにしとこうよ」

「ああ。構わないぞ」


 俺とサシャは向かいあい、お互いの両手を差し出す。

 手を握り、少しだけお互いに魔力を流す。


 ……よし。


「ありがとう! あ、服屋あったよ!」


 サシャが指を差した方を見ると、やけに洒落た服屋があった。なんというか、煌びやかだ。それに女物しかない。


「わぁ! こんな場所にあったんですね! 知らなかったです!」


 可愛らしい物が多く置かれているのを見てか、ユリは嬉しそうに手をあわせる。


 二人はかけていき、スカートや上着を楽しそうに吟味し始めた。ふむ。俺はどうしようか。


 入る隙がないというか、彼女たちは彼女たちの世界に入り込んでいる。


 考え込んでいると、サシャが手招きしてきた。


「ちょっと来て!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る