第15話 闘技大会について


 全ての授業を終えた後、俺は再度エレア先生の研究室に来ていた。小さな椅子に腰をかけ、こちらをにこやかに見据えている。


「天井の件はすみません。制御しようとしていたのですが、少し苛立ってしまって」

「いや、構わないんだ。それよりも提案があるんだぁ」


 ほう、提案とな。

 〈死者蘇生〉の件を優先したいのだが、迷惑をかけてはならない。大人しく聞くことにしよう。


「一ヶ月後、闘技大会に参加してみない?」

「闘技大会……ですか」


 復唱すると、彼女はうむと頷いた。

 名前だけは聞いたことはあるが……。


 なんだろう。とりあえず殴り合えばいいのかな?


「闘技大会っていうのはね、一年、二年、三年の代表一名が戦い合う交流会みたいなもの」


 俺の内心を察してか、丁寧に説明してくれた。

 つまりパーティーを組んで殴り合えばいいんだな。


「で、どうして一ヶ月も先にある行事を、今俺に?」

「ガルドの立場を向上させるためにだね。そして、代表者をガルドに指名したい」

「なるほど。で、俺がそこで頂点を取って陰湿なイジメをなくそうと」

「そゆわけ。もう、クラスのみんなからは問題ないだろうけど、先輩たちは間違いなくガルドを馬鹿にするだろうから、そこでコテンパンにしなさい」


 言いながら、彼女は足を組む。

 あまり長くない、子供らしい足をしているから、やはり小動物のようだ。


「でも、もちろん邪魔は入ると思うよぉ」

「……学園長ですか」

「うん、それと一部の職員たち」


 そうか。やはり、俺にはかなり敵が多いらしいな。

 生徒だけでなく……その他教師陣となると色々と厄介だ。


「ここはね、世界最高峰と呼ばれる外側だけ素晴らしい学園。でも、内部はかなり腐っているんだ。特に――学園長がかなりアレでねぇ」

「と言うと?」


 尋ねると、彼女は嘆息する。

 頭を掻きながら、やれやれと言ったようすで、


「あの人、かなり平民を嫌っているんだ。全員が貴族に劣る劣等種だってねぇ」

「ふむ。なら、なぜこの学園は平民も募集しているんですか? 嫌いなら募集しないでしょうに」


 当然の疑問だった。

 嫌いなら、平民なんて募集しなくてもいいはずだ。


「平民が負け、恥をかかせるのを楽しみとしているんだ。ほんと、小物感がすごいよねぇ」

「で、俺がトップ十六まで進んだから慌てて止めたと」


 本当に腐っているな。

 聞いていて腹が立つほどだ。


 事実、俺はその被害を受けているから人ごとではないのだけれど。


「ま、とりあえず気合で一位になりなさい。邪魔する職員はわたし、それとその他ガルドを支持してる職員陣がどうにかするから」


 ふむ。まあ、楽勝だろうな。

 理解はできた。俺の学園内での目標でもある『成り上がり』も格段に進みそうだ。


 話は終わり、と言うようにエレア先生は机の上に置かれている書類に視線を落とす。


「エレア先生、ちょっと相談がありまして」

「ん? なにかなぁ?」


「〈死者蘇生〉って分かりますか」


 言うと、少し難しい顔をする。


「知らないな。でも、名前からどんな魔法かは分かる」

「そうですね。で、なんですが」

「わたしに、その魔法を開発するのを手伝って欲しいと」

「そうです。お願いできますかね」


 エレア先生はむむむと唸る。

 それもそうだろう。なかなかに難しいお願いだ。


 正直、俺も協力してくれたらラッキーくらいにしか思っていない。


「いいよ。興味あるし、それに前の礼もしたいからねぇ」

「あ、ありがとうございます!」


 どうやら承諾してくれたらしい。

 職員側に協力者ができたら、さらなる資料を手に入れることも可能になってくるだろう。


「理由が知りたいところだけど、一応聞かない」

「ご配慮、感謝します」


 とりあえず、とエレア先生がパンと手を叩く。


「もう遅いから今日は帰りなさい。明日明後日は休みだからゆっくり休んでねぇー」

「はい。お世話になりました」


 そうして、俺は研究室を後にした。

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