第8話 教科書奪われたので、複製して全てを解決した

 早朝、俺は同じ屋根の下に暮らす先輩たちに挨拶を済ませ、自身の教室へと向かっていた。

 荷物などは特に持っていない。多分、ホームルームとかで配られるのだろう。


 というか、入学式とかはないのだな。期待していた分、少し残念だ。


 教室は本校舎の一階にある。

 『一学年』と書かれた扉を開く。


「ふう」


 どうやら俺は一番乗りらしく、教室には誰もいない。

 椅子には名前が書かれており、どうやらそこから自分の席を見つけ出せばいいらしい。


 しかし、一番前の中央だったのですぐに見つかった。

 なにもすることがないし、寝るか。


 俺は三度の飯より寝るのが好きなのだ。

 しかしあれだな。これだと、ええと、陰キャラというのだろうか。


 それに該当してしまうのではないだろうか。


「まずいなそれは」


 思い、顔を上げると、ちょうど誰かが教室に入ってきた。

 ユリとサシャらしい。


 最初はどうなるかと思ったが、仲良くしているようだ。


「おはようございます! ガルドさん!」

「おはよう! ガルドくん!』


 どちらも元気がよくてよろしい。

 ふむ。なんだか本当に学生になったような気分だ。いや、事実学生なのだが。


 前世では学生になろうなんて思わなかったからな。

 なんだか新鮮だ。


「今日も……かっこいいです!」

「どうした急に」


 いきなりユリが叫ぶものだから、少し驚いてしあう。

 するとからかうように、サシャが言う。


「ユリったらね、君のことが――」

「サシャさん!」

「あはは。ごめんね」


 舌を出しておどけているようだが……一体どうしたのだろうか。まあいいか。


「少し気になったのだが、どうしてこの学園は無駄に広いし、本校舎はデカい。それに別棟もあるんだ。全学年で四十六人しかいないのに、ここまで敷地を広くする必要はないだろう」


 その疑問に、サシャが答える。


「ああ。ここって多くの分野の研究施設が併設されてるから、こんなに広いんだよ。学生より学者の方が多いくらいにね」


 なるほど。それで、無駄に規模が大きいのだな。


 む。それよりも、彼女たちは荷物を持っているようだな。


 しかし、バッグのみだから中身は確認できない。

 まあいいか。きっと彼女たちももらっていないのだろう。


 しばらく談笑していると、クラスメイトたちが全員揃ったようだ。

 各々の席に着き、担任の到着を待っている。


「お隣同士だね」

「私も!」


 彼女たちに挟まれるような形の席になっている。友人が近くにいるってのはいいことだ。色々と助かる。


「おまたせ。待ったかな? わたしはエレア。魔法術式研究者であり、君たちの担任。よろしくねぇ」


 扉が開かれると同時に、担任が入ってくる。

 ポニーテールにした緑髪。可愛らしい体格をしている、幼女のような担任だった。


「それでじゃあまず、教科書の確認をしようかな。みんな、バッグから教科書を出してー」


 そして、ユリやサシャは教科書を取り出し始める。

 あれ? みんな配られているのか?


「あの、すみません。俺の分の教科書は?」

「あれ? 配られていないの?」


 手をあげて質問すると、不思議そうに首を傾げる先生。

 しかし、なんだ。かすかに周囲からクスクスと笑い声が聞こえてくるぞ。


 振り向くと、余分に教科書を持った生徒が俺を見ながら嘲笑しているではないか。

 ……そりゃ、先輩たちは気力を失うよな。


「ユリ。ちょっと教科書を貸してくれ」

「はい。もちろんです!」


 仕方がないので、俺は〈複製コピー〉を発動する。

 魔法陣から、完全に複製された教科書が出てきたので、それを適当にまとめる。


 まったく、苦労をかけさせないでほしい。


「わっ! すごい!」


 口元に手をやって驚くユリ。


「おい! どうなってやがんだよ!」


 怒声を上げながら、こちらに男がやってくる。


「どうしてお前が上級魔法である〈複製〉を使えるんだ! ……それに、生意気だぞ!」

「生意気なのはどっちだ。初対面の人に、よくそんな態度や行動を取れるな」

「ぐっ……! うるせえ!」


 言いながら、拳を振り上げてきた。

 はぁ、仕方がない。


 〈威圧プレッシャー〉を発動する。

 途端、相手はガクガクと震え出した。


 その場にへたりこみ、自身の身になにが起きているのか理解できていないような感じだった。


「二度とこのようなことはするな。エレア先生、この人、体調悪いらしいので医務室までお願いします」

「わ、分かったわ」


 エレア先生は、困惑しながらも医務室へと男を運んでいった。


「大変だったね」

「ああ、本当にな」

「私がどうにかできれば良いのですが……」

「気にするな」


 まったく、最下生は面倒事に巻き込まれてばかりだな。

 よし。しばらくの目標は『最下生からの成り上がり』にするか。


 地位も上がれば、自然とこのようなことにも巻き込まれなくなるだろう。

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