第6話 ガルドがいなくなったあとの領地(トレイ視点)

 ガルドがいなくなったトレイ伯爵領は、突如として魔物が大量に現れるようになった。さらに、大量発生だけでなく、凶暴化――暴走を始めているのだ。


 トレイはその対応に勤しみ続け、今にも倒れそうになっていた。


「ど……どうしていきなり、これほどの量の魔物が……」


 自室の机に突っ伏しながら、ただただぼやく。

 目元にはくまが、そして目玉は赤く充血している。


 ロットがいれば多少、マシにはなっていただろうが、彼はすでに魔法学園の受験に出発している。


 そのため、自分と抱えている兵士たちでどうにかしているのだが……。


「もう、限界かもしれん……」


 その状況下、トレイはふと思いだす。

 ガルドのやつが、自分がこの領地を護っていたんだと言っていたことを。


「いや……まさかな……」


 あのガルドに、そんな力があるとは思えない。

 しかし――今の現象から察するに、本当にガルドは護ってくれていたのだろう。


 まずい。これはかなりまずい。

 このままだと、我が領土は滅んでしまうかもしれない。


 そう、トレイは思う。


「連れ戻さなくては……だが、ギルドにはガルドを通さぬよう指示しておいた」


 なら、彼はどこにいて、どこで暮らしているのか。

 万が一生きていたとして、金は持っていないから野宿をしているだろう。


 だが、あれほどまでの力を持っているのだ。


「まさか――」


 レミリオン学園の試験を受けているのではないだろうか。ありえる。十二分にありえる。


 だが、あそこはそう簡単には合格できない場所だ。

 なんたって、合格者は毎年たったの十六人。


 世界中から精鋭たちが集まり、その席を奪い合うのだ。


「大丈夫だ……きっと泣き喚いて戻ってくる……」


 そう、トレイは信じている。

 が、運命はそう簡単にはいい方向に転ぶものでは無い。


 時には残酷に、己がしてしまった過ちの償いを課してくる。


 ノック音が室内に響いた。正面の扉かららしい。


「入ってよいぞ」


 扉が開かれる。そこには、一人の青年がいた。

 彼はトレイが雇っている兵士の中でも、特に強い部類に入ってくる人物だ。


「すみません、伯爵様。私はもう限界です」

「おい待て! その様子だと、まさか――」


 青年は、すっと息を吸い込んでから、


「もうコリゴリです。それでは」

「ま、待ってくれ! なんならもっと金を出す。だから残ってくれ!」


 トレイはみっともなく懇願する。

 それを憐れむような目で青年は見た。


 もちろん、首は決して縦に振られることは無い。


「お世話になりました」

「あ、ああ……」


 去っていく背中を呆然と眺めることしかできなかった。

 トレイはただ、今後どうするべきか思案するのみであった。

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