第5話 最終試験

「これより、最終試験を開始する。すでに君たちにはトーナメント表を配っているから、指定されている会場に向かえ!」


 渡されたトーナメント表に目を落とす。

 俺はどうやら第四グループにいるらしい。


 そして、最初の対戦相手は……赤髪の男か。

 とりあえず潰すか。


 まあ安心した。ユリやサシャとは同じグループではないらしい。

 というか……よく見てみればロットとかいう名前もあるじゃないか。


 しかも俺と同じグループ。

 ただの偶然で同名の人物だと信じたい。


 俺の指定された場所は、最初に集められたドーム状の建物内だった。

 紙には闘技場と書かれているから、ここは生徒同士が授業の一環で戦闘を行う場所なのだろう。


 ……うわ、ロットがいる。

 とりあえず、あいつは二回戦目らしいから最初は当たらないが、勝ってしまえば次で戦うことになるな。


 まあいい。潰すか。


「ガルドさん、リドルくん。準備したまえ!」


 ついに俺にも『さん』がつけられるようになったか。

 教師の間で、噂は広まっているのだろう。


 そして、こいつはリドルと言うらしい。記憶する必要はないだろうがな。


 待機室からドームの中央に移動する。


「よう! クズのお前に貴族の力ってやつを見せつけてやるよ!」

「もういいか?」


 無視をして、試験官に視線を送る。


「それでは。始め!」


「よしゃ――」

「〈水流発破ウォーター・ブラスト〉」


 とりあえず、下級魔法で戦闘不能状態にしておいた。


「どうだリドル。これがお前の言う『力』だ」

「…………」


 気絶しているな。


「勝者、ガルドさん!」


 えーと、俺はあと二回勝てばいいんだな。

 いや、いっそのこと、特待生枠を狙うか。


 トップに立てば、色々と融通が利くだろうからな。


 さて、しばらくは眠っておくか。

 危険だからと言う理由で、待機室から出られないらしいしな。


 …………。


 俺は目を覚まし、再度闘技場に入ったわけなのだが。


「お前、こんな場所に来ていたのか! グハハ! お前には不釣り合いだぞ、使用人失格がぁ!」


 最悪だ。無事、ロットは勝ってしまったらしい。

 くそ。待機室から観戦できたのなら、このような態度を取られずに済んだのだろうが。


 世の中、そう上手くいかないものだ。

 だが、潰すだけなので問題はない。


 それとだ。もう敬語は使わなくていいよな。

 別に今は、彼に仕えているわけでもないし。


「俺の勝手だろ。さっさと始めるぞ」

「はぁ? お前、平民のクセに生意気だぞ?」

「知らん。俺はもう、お前に指図される筋合いはない」


 そんなやりとりをしているのを見かねたのか、試験官が尋ねてくる。


「開始しても構わないか?」

「ああ、問題ない」


 俺とロットは向かいあい、お互い睨み合う状態になっている。

 彼は確か、基本的に火の魔法を得意としていたな。


 とりあえず水で対抗すればどうにかなるはずだ

 

「開始ッ!」


「〈豪火球ファイガ・ボール〉」


 途端に火球の応用である、中級魔法を打ち込んできた。

 一発で潰す気でいたのだろう。


 だが――


「な、なに!?」


 俺はそれを掴み、握りつぶした。

 別に中級魔法くらいなら、素の状態で受け止めてもダメージはたいしてないが。


 一応圧をかけておく感じだ。


「その程度か?」

「く、くそ!」


 悔しそうに叫んだあとも、ロットは繰り返し〈豪火球〉を打ち込んでくる。

 まったく、いくら打ち込んできても意味がないと言うのに。


 学ばないやつだな。


 ……いいことを思いついた。

 面白いから同じ魔法を使って潰してやろう。


 属性効果の高い水魔法でねじ伏せるのもいいが、そっちの方が断然愉快だ。


「〈豪火球ファイガ・ボール〉」

「なっ!?」


 自身が放った〈豪火球〉より、遥かに威力が高くて驚いているのだろう。

 それもそうだ。断然、経験と魔力量が違う。


 爆音とともに放たれたそれは、見事に命中しロットは吹き飛ばされた。

 ギリギリのところで、防壁魔法を展開したらしいが、それでも効果はなかったらしい。


 壁に激突し、彼は戦闘不能状態に陥る。


「く、くそ……! どうしてお前がこんな力を……!」


 俺はロットに近づき、諭してやる。


「あまり、人を嘗めない方がいい」

「ぐ……」


 そう言うと、ロットの目から涙が溢れた。

 悔しそうに項垂れて、地面を殴っている。


「ガルドさんの勝利!」


 よし、次の試合で勝てばトップ十六以内に入れる。

 そして、無事次の試合も勝利することができた。


 これで俺の入学は確定したわけだが。

 待機室で次の試合を待っていると、一人の老人が声をかけてきた。


 長い白髭を生やし、魔法使いの衣服を身に纏っている。


「お主はこれで終わりじゃ」


 ん? つまり戦わなくても、一番の戦力だと認定されたわけか?


「平民に特待生になられては困る。ここは世界最高峰の学園なのだ。お主は最下生として学園に通え」


 え、ここって世界最高峰なのか?

 ちょっと人気な普通の学園だと思っていたのだが……。


 ともかく。


「はい? 意味が分からないのですが?」


 老人は、さも当然のように言う。


「わし、学園長命令だ。従わなければ学園の入学は認めん」


 む。それは困るな。

 ……腑に落ちないが、致し方ない。


「分かりました。とりあえず、ここって寮生活が基本なんですよね。部屋に案内していただけませんか?」

「平民にそんな手間をかけとうない。最下生用の建物が学園の敷地内にある、生徒寮の隣の倉庫。そこがお主の部屋じゃ」


 ……倉庫と言ったか?

 おいおい、何百人の中から選ばれた精鋭の最下生の部屋が倉庫だと?


 しかし、野宿よりはマシか。

 内装に関しては、改築魔法でいくらでもなる。


「分かりました」


 そう言って、俺は闘技場を後にした。

 これから俺は、レミリオン学園の最下生として暮らしていくことになるらしい。

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