PPの月へ夜逃げ

有希

いざ月へ

 夜の街中をジープが風を切って走る。

 冬場だが爽快感から実に心地いいのだが、俺はため息は吐いてしまう。


「はぁ、どうしてこんな事になったかな……」


 すると運転席に座る相棒のピクルスが呆れた顔をした。


「おいおい、ペッパー、またその話かよ。今日だけで10回めだぜ?」

「だってさぁ、こんな言わずにいられないぜ?散々働かせた挙句自分らの都合が悪くなったならポイだ。ほんと、はぁーだ」

「……と言いつつその点に関してお前、全然気にしてないだろう?」

「おうとも!」


 そう、その通り。俺は会社をクビにされた事など微塵も気にしていない!

 というかむしろ、ありがとう!これで俺は自由だ!と嬉しくすらある。


「でもそれでもため息が出るのは……あれのせいだよな」

「そう、あれのせいなんだよ……」


 信号待ちしていると俺達は道路脇に止めてある大型トラックの荷台に視線を向ける。

 するとそこにはずんぐりむっくりの愛らしい軽自動車くらいの大きさの人型のロボット5台が積まれていた。


 その見た目のキュートさから普通の人間はあれをただの人が乗るだけのロボットと思っているだろうが実のところあれはーー。


「汎用人型兵器ポラリス……特殊金属アースを用いて作られた世界初の有人操縦のロボット。地上でしか運用できないものも速度50キロで走行し単純なパワーはパンチ一発で装甲車をひっくり返す程ある。しかも戦況に応じて戦車砲やミニガン、果てにはレールガンを装備出来るなんとも子供のロマンを詰め込んだようなとんでも兵器」

「解説どうもピクルス君」

「ご静聴どうも」


 俺がため息を吐くのはポラリスのせい……というよりポラリスによってもたらされた結果によるところが大きい。


 ポラリスは兵器だ。

 しかもピクルスの説明通り超が付くほどもの凄い。


 そんな物が何処ぞの国の兵器として戦場に投入されれば他の国は危機感を感じてさらに強力な兵器を求めた挙句最終的にポラリスに行き着く。


 その結果何処の国の戦争でも戦車や戦闘機よりもポラリスを主として使い戦争は激化の一歩を辿っている。まったくうんざりする話だ。そのせいで今走っているこのアメリカの街中にも戦闘のあとが見え隠れしている。


「まったく、人は何処まで愚かなんだ」


 そう言うとピクルスはハンドルを握りながら口に咥えたタバコに火をつけて目を細める。


「それは言えてるが、もっと言っちまうと……」

「あぁ、そうとも……こんな事になると容易に予想できた筈なのに出来ずポラリスを作った俺達は地球人類でもっと愚か者さ」

「最初はこんな筈じゃなかったのにな……」

「……」


 ピクルスの言う通り最初はこんな筈じゃなかった。


 兵器を作る気なんてこれっぽっちもなかった。俺とピクルスがクビになった会社に居たころ様々な分野で役に立つ作業用ロボットを地球で新たに発見されたプラスチックのように軽く鉄より硬い鉱石、アースで作っただけだった。


 しかしそれは気がつけば作業用ロボットとして世に出る前に何処ぞの国に多額の金で買収された会社が兵器として採用し、前述で語った通り世界に争いの火を広げ俺達は悪魔を作ったという訳の分からない罪で戦争犯罪者に仕立て上げられ会社をクビにされた。


「ふぅー、俺もあの時は今ほど落ち着いて物事を考えられなかったな。会社お抱えの科学者から犯罪者だもんな」

「俺はわりと最初から『よっしゃあ!やっとクビになったぜ!』だったけどな?」

「それは特殊過ぎるものの考えだ。ペッパー」


 ドライブをしながらそんな話しているとピクルスはタバコの煙をふかしながら呆れた様子で言う。


「それで、今こうして目的地に車を走らせているわけだが……準備は出来てると思っていいのか?」

「ん?当たり前だろう?そうじゃなかったら収容所の門限ブッチしてお前と夜の街中をドライブなんてしてねぇよ」

「まぁ、それはそうだな……あぁ、それとだけどなペッパー」

「なんだよ?」

「……団体のお迎えが来たようだ」


 ピクルスのその言葉に俺は倒していた座席を戻して後ろを見る。


 すると後ろには6台程の車がもの凄いスピードで俺達の車に迫って来ている。

 しかもご丁寧に全台スモークガラスで人の姿が見えないときた。


「うっげぇ、ピクルスあれってお迎えはお迎えでも……」

「あぁ、間違いなく穏便なお迎えじゃないだろうな」


 すると後ろの車の窓から数人の男が身を乗り出す。そしてその手には当然銃が握られておりーー。


「ピクルス!」

「わーてるよ!!」


 追手は投降を呼びかけることも無く引き金を引きその瞬間ピクルスをハンドルをきって銃弾を避ける。


「お見事!」

「アホか!まだまだ来るぞ!」


 ピクルスの言葉通り銃撃は止まず続けて撃ってくる。

 しかしそれを荒々しいドライビングテクニックで避けてみせるピクルス。まったく惚れ惚れする腕前だ。


「なに余裕そうな顔して座ってんだペッパー!このままじゃあそのうちタイヤに当たるからとっとと迎撃してくれ!」


 切羽詰まった様子のピクルスにそう言われたので俺は渋々ダッシュボードから拳銃を一丁取り出す。


「そこまで言われちゃあ仕方ない。なら見てろよゲーセンで身に付けたカウボーイ並みの腕前を」


 前に向き直り道路脇に止めてある鉄骨の積まれたトラックを見て俺はそれに銃を向け撃つ。


「ちょっ、ペッパー!お前なんで前に止まってるトラックに撃ってるんだ!?追手は後ろーー」


 ピクルスの声をかき消すように続けてトラックに5発ほど発砲すると俺は銃をおろす。


「ペッパー!お前なに銃おろしてんだ!?まだ追手はーー」

「追手の車は防弾仕様だ。拳銃程度じゃあタイヤやエンジン狙っても止まらない。なら別の方法をとって止めればいい……例えば近くに止まってる無人のトラックの荷台に積んである物を落として道を塞ぐとかな」

 

 そう言った後俺達の車はトラックの横を通過するとトラックの荷台に積んである鉄骨が崩れて道路に流れ出し道を塞ぐ。

 追って来ていた車の何台かは咄嗟のことで回避できず派手にクラッシュし走行不能となった。


「鉄骨が車に刺さらないようにしてやったのは情けだ。親玉に泣きついて家に帰りな」


 決まった!


「よし!ピクルス、今のうちにセントラルパークに向かうぞ!」

「了解、と言いたいところなんだが……」

「お?」


 ピクルスは人差し指で空をさした。


「どうもそう上手くいきそうにないみたいだ」

「……うぇー、あんなもんまで出して来るとか必死過ぎだろ」


 空には3台のミサイルランチャーを搭載した戦闘ヘリが飛んでいた。


「ペッパー、ミサイルヘリって拳銃で落とせるか?」

「アホ言え!無理に決まってんだろうが!」

「だよな……」


 はてさてどうしたものか。

 なんとか出来ない事はないがそれをやってしまえばヘリのパイロットを死なせてしまう可能性があるがそれ以外あのヘリをどうにかする手はありそうにないし……。


 どうするか悩んでいると頭上を飛ぶヘリが俺達に呼びかける。


『ペッパー博士!ピクルス博士!車を止めて投降してください!そうすれば命までは奪いません!』


 そんな涙が出そうになる紳士的な降伏勧告に対して俺達は……。


「「は?」」


 不快感から同じタイミングで声を出す。


 いまさら何を言ってるんだあいつらは?

 最初の追手は何も言わず撃ってきたくせして今になって投降しろ?ふざけているにも程がある。


 命のボーダーラインがばがばの戦争屋どもめ。


「ピクルスいいか」

「あぁ、問題ない。どうせ止まるつまりなんて欠片もないんだからな」


 ピクルスの言葉に迷いはない。

 俺とおんなじ気持ちだ。

 

 ならやる事は一つだ。


「ごめんだね!誰がお前らみたいな連中に捕まってやるか!俺達はもう誰にも利用されないし殺されてやる気もない!だから此処から出て行くのさ!」

『出て行く?なら一体何処に行こうと言うのですか?』

「人や国、世界に縛られない所」

『そんなものある筈ないでしょう?』

「あるさ、この星の外に」

『ーー!?まさか貴方達が今から行こうとしている所は!?』

「そうさ、なんのルールもない未開の星、地球を天高くから照らす月だ!」

 

 そう、俺達は行くのだ。

 自由を求めてあの美しく輝く月へ。


 しかしそれを阻もうとする輩がいる。

 最初は気を使ったがあんな自分勝手な事を言う奴等に配慮する気持ちはもうない。


 俺は後部座席からバズーカ砲を取るとヘリに向けて構える。


「争いを広げる馬鹿野郎どもが、せめて祈るがいいさ。この後自分達が無事で命がある事を……そしてこの星の先に未来がある事を」


 ターゲットがロックオンされ俺はヘリに向かってバズーカ砲を発射する。


 弾頭はヘリの数と同じく3発。

 あと1メートルで完全な直撃のように見えたが弾頭はヘリの手前で黒い煙を上げて爆散する。


「ピクルス!フルスロットだ!面倒くさいのが出て来る前にセントラルパークに向かうんだ!」

「おうともよ!振り落とされないようにしっかり掴まってろ!」


 ピクルスはアクセルを全開にしてヘリから逃げる。

 そして最初はバズーカ砲の手前爆発で動揺して様子だったが直ぐに俺達を追い始める。


「ペッパー!後どれくらいで終わる!」

「5分だ!」

「オーライだ!その間当たりそうなミサイルの迎撃は任せるぞ!」

「合点承知!」


 おろしていた銃を構える。

 弾はまだ余裕はある。いつでも来い!


 ヘリは俺達に向けて機関銃を発射する。

 それに対して俺は機関銃による攻撃が来る事を伝えるとピクルスはハンドルをきって左右に避ける加速減速を使い分け見事に躱す。


 はっ、機関銃如きに当たってたまるかっていうんだ!


 するヘリは機関銃では埒があかい事に気づき両脇に装備されたミサイルを発射した。


「ミサイル来たぞ!爆風に備えろ!」

「おう!」


 ミサイルは全部で18発、1発でもも撃ち漏らせばその瞬間俺達は終わりだ。

 しかしそんな事はありはしない!


 銃を構えながら息を吸って吐く。


 狙うは先頭を行く弾頭3発のみ。

 他には目をくれるな。

タイミングを逃すな。


「ーーそこだ!」


 素早い動きで引き金を引く。

 そして狙っていた先頭の3発を撃ち抜き爆発する。するとその爆風と破片により後ろのミサイルは誘爆した。


 それに動揺したヘリ達は続けてミサイルを発射しようとするがミサイルが発射される事はない。


 何故ならたった今5分経ったからだ。


「俺が撃ったバズーカ砲の弾は特殊でな。あれは相手は壊す目的じゃなくばら撒く為の弾なのさ、俺の優秀な手足をな!」


 次の瞬間空を飛ぶヘリの装甲やネジ、武器弾薬が突然砂みたいにに剥がれ落ちていく。


 その様子をサイドミラーで見ていたピクルスはタバコを咥えながら語る。


「バズーカ砲の弾に入っていたのは小型作業用ロボ、デブリ。ペッパーの脳に仕込まれた特殊デバイスから送られた命令に従い対象をアナライズしスクラップ&ビルドを速やかに実行する言葉通りペッパーの手足そのものだ。たかだかヘリをバラす程度5分もあれば十分さ」


 語りが終わると同時にフレームとプロペラだけになったヘリは地上に落ちていった。

 その時にチラリとパイロットが脱出する姿が見えたので無事だろう。悪運の強い事だ。


 とまぁ、それはそうとだ。


「これで追手は潰したな」

「あぁ、それにセントラルパークまで後少しだ。これなら難なく月へ行けそうだ」

「……ピクルス、その台詞ものすっごくフラグ臭いんだけど」

「ん?考え過ぎだろう?」

「だといいんだがな……」


〜〜〜〜〜


 それから数分、何事もなくサントラパーク内に侵入した俺達。


「あっれぇ?びっくりするくらいなんにもなかったな?」

「だから言っただろう?考え過ぎだって」


 ピクルスはそう言うがどうにも上手くいきすぎている気がしてならない。


 先程あれだけ妨害があったのにヘリを落としてからは何にもない。

 こちらを警戒しているからか?

 それともヘリとの会話で俺達が月へ行くと言ったからヒューストンで待ち伏せでもしているのだろうか?


「……なんか臭いな」

「ペッパー?」

「なんか嫌な予感がするな。ピクルス、貯水池まで急いでくれ」

「ん?あぁ、分かった」


 車を走らせ無事貯水池に辿り着く。

 すると今の季節のせいもあって貯水池は完全に氷で覆われている。


「此処か?」

「あぁ、此処に月へ行くためのロケットを隠してある。こっそりと外出の度にデブリをばら撒いて水の中で作ってたんだ。資材はまぁ、各所から拝借してだけどな」

「ネット環境さえあればどんな距離からでも遠隔でデブリを動かす事は容易いからな。誰も気づかないわけだ」


 褒められて正直に嬉しいところだが今は急がないといけない。

 車を降りて氷の上を走ってそう遠くない距離を水の中にいるデブリ達の反応を頼りに走る。


 あと、後少しだ。

 後もう少し走ればロケットの元まで辿り着く。


 そう思っていた瞬間だった。

 公園周辺に配置していたデブリ達が俺へ危険を知らせる信号と敵の情報を送ってきた。


「っ、悪い予感が当たったか!ピクルス走れ!もうすぐ面倒なのが5機ほど来るぞ!」

「おう!」


 危機感に駆られて分厚い氷の上を必死に走り後もう少しで目的のポイントに到着する。


 しかし俺達より早くそれは自分達の存在を主張するように俺達のすぐ後方、氷の上に落ちてきた。


 それを見て俺達は忌々しい物を見るように睨みつける。


「よりにもよって、こいつを追手に使うとかいい性格してやがる」

「その気持ち、よくわかるぜピクルス……しかし、どうしたもんかね」


 俺達の視線を受けひび割れた氷の上に降ってきた者、ポラリスは駆動音を響かせ俺達を見ていた。


 まったく冗談きついったらない。

 こんな中年のおっさん2人を殺すために現世界最強の兵器ポラリスを投入してくるなんて。


「人気者は辛いたらないな」

「その冗談笑えねぇぞ、たく……ペッパー、なんか逆転の策はないのか?」

「……ある。けど、時間稼ぎにしかならない」


 この場には先行してきたらしい1機しか来ていないがまだ4機も控えているとなると本当に時間稼ぎくらいしか出来ない。


 しかし此処に至ってはもうやるしかない。


 そう覚悟を決めた瞬間俺達の後ろの氷が爆発し円形の穴ができた。

 呆気に取られるピクルスの手を引いて俺はその穴に飛び込む。


 死ぬほど冷たい水の中を必死に我慢して泳いでいると一番底で小さな光が俺達を誘導する。その誘導された先には壁がありそこに手を触れると壁がスライドし俺達を中へ吸い込む。


「はぁ、はぁ、はぁ、こ、此処は?」

「ロケットの、中だ」

「此処が……」


 驚いた様子で周囲を見渡すピクルス。

 しかし今はゆっくり見物ともいかない。


「ピクルスこれからロケットの起動に入ってくれいつ此処がバレて攻撃されるか分からない」

「それは構わないが、お前はどうするつもりだ?」

「時間稼ぎをするために切り札を起動させる」

「切り札?」

「そう、とっておきのな」


〜〜〜〜〜


 それから数分後。


 氷にあいた穴の周りをうろうろとするポラリス5機。その内の1機が試しに穴に爆弾を放り込もうとするその瞬間水の中に光る物が見え動きを止め中を覗き込んでいると次の瞬間ーー。


 覗き込んでいたポラリスの頭部は吹き飛び力なく水の中へと落ちていく。


「まったく、敵が消えたよく分からない穴を無防備に覗くなんて命知らずな事をするものだ」

「「「「!?」」」」


 その声のする後ろを残ったポラリス4機は見た。


 そしてそこに立っていたのは前腕部が巨大化し所々仕様の違う白いポラリスだった。


「さて、あんまり余裕もないし……行くぞ!」


 動揺したポラリス4機に白いポラリスは勇猛果敢に突撃する。


 その様子をデブリの目を通してロケットのモニターで見ていた俺は唇を噛み締める。


「ポラリス無重力空間作業仕様、その運用方法は普通のポラリスでは行けない水中や宇宙空間での作業が目的……くそ!」


 コンソールを叩き血が滲むほど拳を握りしめる。


「馬鹿野郎、一緒に月に行くんじゃないのかペッパー……」


 ポラリス無重力空間仕様は重力のある所で運用する事が視野に入っていない。

 だから地上でフル稼働させればパイロットは無事ではすまない。


 ペッパーはあくまで開発者でありパイロットではないから水中戦を主にして攻撃のタイミングだけ地上に出るなんて芸当は出来ない。


 だからわざと自分の身を捨て地上に姿を見せた。


 勝つのを捨てて俺のために少しでも時間を稼ぐために……。


〜〜〜〜〜


 ポラリス4機の遠近両方の攻撃を両腕で防ぎながらどうにかこうにか間合いを詰めようとするのだが、上手くいかない。


 ぐっ、移動用のスラスターを使った時のコクピットに掛かる負担が想像以上だ。それにもう左手の感覚がないところを見ると逝ったか。


 まぁ、それでも止まらないけどな!


 スラスターレバーを全開に噴かす。


「ぐっ!?っ、ははは……おらおらどうした戦争屋共!そんだけやってもインテリ1人仕留められないなんて、居眠りでもしてんのか!?」


 そう言ってやると気にでも触ったのか攻撃の圧を強くする敵機。

 まったく、ちぢれ毛より気の短い連中でほっとする。


 ロケットからはある程度引き離せたし、後はがんがん攻めるだけだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 銃弾の雨の中をスラスター全開で突っ切ってポラリスの1機に体当たりを喰らわせる。


 あと、3機!


 分厚い氷の地面を削りながら吹っ飛んでいったのは確認してからデカイ腕を振り上げて敵機に振り下ろす。


 しかし間一髪のところで銃を犠牲にしてガードされてしまう。


「ちっ!不意を突いたつもりだったが腐っても本職の人ってかーーぐぁ!?」


 ガードされた事に気を取られていると背後のスラスターを撃たれて爆発した。

 これでもう高速移動は出来ない。


「っ、上等だ!どうせこれ以上の高速移動はこっちが保たないんだ、こっからはおんなじ速度で戦ってやる……行くぞー!!」


 氷の地面を踏みしめて敵に向かって行く。

 しかし操縦技術の腕は遺憾としがたく俺の攻撃は全て防がれ一方的な戦いへとなった。


 戦闘が始まって30分……。


 俺の動かす白ポラリスは片腕を失い両足を完全に破壊され3機のポラリスに銃口を向けられながら氷の上に倒れていた。


『どちらの博士かは知りませんが貴方の負け、今更ですか降伏をお勧めします。さもなくば引き金を引かせてもらいます』


 どのポラリスからの声かは知らないが笑える事を言ってくれる。


「はは、随分と親切だな。このポラリスの性能を見て上司から説得しろとでも言われたか?」


 返答はなかった。

 しかし顔の代わりに3機のポラリスはその手に持つ銃を俺のポラリスの体に密着させる。


「まったく冗談の分からない連中だ……」


 ピクルス……勝ったぞ。


 次の瞬間俺の白いポラリスはいくつもの火花と共にバラバラにされた。


『ターゲットの1人は処理完了。続けてもう1人のターゲットの捜索を再開、後に見つけ次第処理せよ』

『『了解』』


 そう言ってその場を後にしようとした時だった。


 その場から離れた所で氷がひび割れ水の中から小型のロケットが姿を現す。

 そしてゆっくり、ゆっくりと空へ登って行こうとする。


 その事に慌てた3機はロケットに銃を向け発砲しようとするが弾が出ない。

 マガジンを切り替えようと一切に行動する3機だったがそれはあまりにも不用心な行為だった。


『ロケットの発進を確認。これより10秒後にこの機は自爆します。死にたくなければ直ちに避難せよ。繰り返す。避難せよ』

『『『!?』』』


 3機は慌ててマガジンを換える手を止めて残骸と成り果てたポラリスを見るなり次の瞬間一斉に踵を返しその場から走り出す。


 少しでも遠くに、爆発範囲から逃れるために。


 ポラリスの自爆とは動力源である星の涙を意図的に暴走させる事により半径10キロを灰塵にする最終兵器。例えポラリスといえど耐えられはしないのだ。


 だというのに誰一人居なくなった氷の世界からロケットは自爆など気にしてないのか遅れてゆっくり飛び立っていった。


 因みにとっくに10秒は経っているのに一向に爆発は起こらない。はてさてなんでだろうか。


〜〜〜〜〜


 時は少しだけ戻りロケット出現前。


 白ポラリスがバラバラになったのをモニターで見てピクルスは涙を流していた。


「っ、っ、ペッパー……」


 目の前で自分を守るために共に月へ行こうと約束した友が死んだのだ。それは泣く。


 まぁ、それはそうとだ。

 今は急いでやる事がある。


「ピクルス!もうエンジンに火はついてるだろう!飛ばせ!今すぐ!なう!」

「ーーへ?ペッパー?おま、なんで?」

「説明は後だ!早くロケットを飛ばすんだよ!」

「あ、ああ」


 何がなんだか分からない様子だが手早く操作するとロケットは浮上し始める。


「敵とは距離があるとはいえ大丈夫なのか?攻撃なんて受けたらひとたまりもないんだぞ?」

「問題ない。あいつらは直ぐに俺が仕込んだいた嘘の録音に尻尾巻いて逃げるからな」

「?」


 それから直ぐにロケットは浮上する。

 敵のポラリスはこちらに銃を向けるが俺との戦闘で弾切れ。そして先程言った嘘の録音、自爆に見事に踊らせ俺達を無視して逃げていった。

 

 これで邪魔は完全に無くなりロケットは月へと向かって飛び立った。

 めでたしめでたし。


 とはいかずピクルスは俺に詰め寄っていた。


「どうなってるのか説明してもらうぞ。お前、ポラリスに乗って敵を足止めしてたんじゃないのか?なんで此処に居るんだ?」

「あ、あはは、おっかない顔してにじり寄るなよ。怖いなぁ」

「茶化すな。そして早く答えろ」

「じ、実はな、あのポラリスは複数のデブリを使って動かしてたんだ。10機は右手担当でもう10機は左手担当みたいな感じで」

「はぁー!?お前、そんな事出来たんだったらなんで説明しないんだよ!てか、別の部屋でやらず此処でやればよかっただろうが!」

「く、ぐるじぃ、くびきまっでるから!」


 首を絞められるくらい怒られた後遅れて俺達は共に地球を脱出し新たな新天地に向かえる事を喜んだ。


 他人から見たら様々な問題があるだろうがそれは事前に解決済みだ。月の裏側にはデブリでこっそりと居住基地を作り酸素生成装置に水や食料もありネットも準備してあるからなんの問題もない。

 

 人が全然居なくて寂しいとは幸い俺達は思わない。なにしろ俺達は人間より特殊な金属やメカが好きという生粋の変わり者だ。


 これから地球がどうなるのか分からないが俺達はもう知らない。

 停滞するのも滅びるのも戦い続けるのも好きにしたらいい。


「俺達は何があろうと地球には帰らない」

「あの月面で俺達は第二の人生を生きる」


 さよなら地球。

 どうか人類が俺達の想像より愚かでない事を祈っている。


 こうして2人の悪魔と呼ばれた天才は地球からその姿を永遠に消したのだった。

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PPの月へ夜逃げ 有希 @yuukizzz386

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