リリアを救いたい者達

 ヴァロリアの一行が来て数日、毎晩リリアを自室に呼ぶエルナンド。


「ねえ どうしてあの人達の顔見ないの?話さないの?」


(また、『私には終わったこと。エルさえいればいいの』と言わなきゃお仕置き……?でも、こんなの……馬鹿みたい。セリフを交わす安っぽい恋劇場……)


 リリアはしばらく考えたのちに言葉をこぼした。


「……顔を見たい……話したい。本当は笑い合いたいわ。」

 その返事に顔色を変え機嫌を損ねたエルナンドは机の上のものを弾き飛ばした。


「あの中に味方が居るとでも思うの?リリア、君を捨てた人たちだよ。君の味方は僕だけ、ねえ そうだよね?」


(捨てたのは私よ……味方を敵だと思った馬鹿は私)

 返事をせずに窓の外に目をやるリリア。


 怒らせると分かっていても反発したくなるのである。


 リリアを掴みベッドに放り投げる。

 そして首を締めながら語る空虚な黒い瞳は威圧する。


「言ってよ。『エルさえいればいい』って。ねえ 言ってよ」


「う……」


 手を離し、リリアを掴み床を引きずるエルナンド。

 癇癪を起こしたのか物を投げつける。


「やめてよ……エル。そんなんじゃ愛せない……」


 叫ばず静かに落とされたリリアの声にエルナンドは叫んだ。


「僕は 誰からも必要とされないんだ!みんな僕なんて居なくなればいいって!あ゛ーーー!」

 壁を殴るエルナンド。


 その声と物音に執事と、リリアを探しエルナンドを訪ねて来たロザリーヌとダミアンが飛び入ってきた。


「リリア!」

 リリアに駆け寄りロザリーヌが抱きしめる。

「…………」


 何も言わないリリアの腕を確認し、荒れた部屋を見て「帰ろう、リリア」と囁いた。



 そこへクルクルのスパイラル頭を振乱しやって来たビオラ王女。


 侍女のマチルダにリリアを連れて行くよう言い付け、エルナンドの頭をコツリとこつき、抱きしめながら、横目にロザリーヌとダミアンに行けと言う。部屋の外で立つもう一人の弟にも去るよう顎で合図した。


 愛人を作った王に愛想を尽かし別の場所で暮らす王妃に代わり、ビオラは、エルナンドにとって母親代わりのようであった。




 ヴァロリアの面々は、紅茶を飲みながら会議を開く。

「あれではリリアが殺されちゃう フィリップ様!なんとかして」とロザリーヌが声を荒げる。


「兄上だって、極刑だ!って叫んでたじゃない?」

「それとこういうのは違うでしょっアンリー様」

 ロザリーヌは興奮状態である。


「ビオラに言って、婚約破棄してもらうくらいしか……」とブツクサ考えながら話すフィリップ。


「兄上 婚約破棄得意だからな」


「あの王太子殿下何があったのでしょう」とダミアンも異常なエルナンドに不気味さを感じるのであった。


「き きっと寂しいのでしょう。愛情表現が下手で、独占欲と憎悪だけが先走りし、その感情を自制できない。おそらく、幼少期に愛情に飢えて育ち、異常に異性に執着する。自己に対して否定的な為他社とのコミュニケーションに乏しい。」


「ど どうしたの??キャシー」


「キャシーは最近本に夢中なんですよ。ね?教会学校のカウンセラー目指して…… ね?」とメリアが口を滑らせキャシーは真っ赤な顔になる。


「なんだ、キャシー。王宮のメイド辞めるのか」とフィリップが直接つられて、相性で呼び話しかける。


「あ いえ。兼業させて頂ければ嬉しいです。が、一年以内にはロザリーヌ様とダミアン騎士は宮殿から出られますし、その頃にと……」


「なに?私がダミアンに敗れ去るのを断定しているのか?キャシー」

「あ……」


 フィリップとキャシー以外はみな笑った。



「さあ、どうするか」

「リリア そのうち暗殺しちゃうんじゃない」

「縁起でもないこと言うな。アンリーは ったく」




 その晩 ビオラに怒られ、暴力は振るわないと約束しリリアを呼んだエルナンド。


 リリアをぎゅっと抱きしめて囁く。


「ごめんね。リリア もうあんな事しないよ」


(どうせまたするわ……いつもそう。やり過ぎたら謝る。でもまた……)


「リリアが僕にあんな事言うからだよ。……悲しかったんだ」


「まさか、ヴァロリアに帰ろうとか考えてるの?リリア」


「……いえ」

「ほんとに?もし、帰るなら覚悟だよ」

「…………」

「僕はバミリオンの王太子だよ。わかるよね?僕の一言で軍でもなんだって動かせる。今は小さな軍でも、将来は国ごと。小さな軍で充分だよ。あんな奴ら消すのなんて」


 実際は、ビオラ王女の一言でなら軍は動くかもしれない。エルナンドの一言では、恐らく王か、ビオラに報告されるだけである。その位はリリアにも分かりきっているだろう。

 ただ、エルナンドは虚勢を張っているだけだと。


「リリア、何か言ってよ」


「エル 愛してる」


「リリア 僕もだよ」


 愛情がこもっているようには全く聞こえないそんな言葉でも、満足気なエルナンドであった。


 

 その頃レオナルドは、一人街へ出て飲んでいた。

 賑やかな酒場の片隅で静かに一人酒を数杯ひっかけ、

「はーーーあ くそったれ」とテーブルを拳でドンっと叩いた。

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