ヴァロリアの一行が到着

 そしてついに、ヴァロリアの一行が到着する。


「ハーイ!!ようこそバミリオンへ!」

 いつもより化粧をさらに重ねたビオラ王女は手を広げて迎えた。


「ビオラ王女!!」

 一番に飛び出てきたロザリーヌは屈託のない笑顔でビオラと抱擁する。


 フィリップ王太子も笑顔で立っている。


 ダミアン騎士とメリア騎士は一歩後ろに、キャシーがアンリーの手を引きゆっくりと馬車から降り立つ。


「あら、キュートなアンリー王子どうしたの?」

「ああビオラ王女 元気だった?馬車酔いしちゃった」

「あははは。さっ中でレモネードでも飲みましょ」


 宮殿の食事の間に案内された一行。ヴァロリアの白い宮殿とは違いエキゾチックな雰囲気の内装、赤い鳥のオブジェの周りには観葉植物と壺が並ぶ。


「他の方々は?」

 フィリップはビオラ以外が皆メイドしかいない事に疑問を示す。


「ああ、ちょっと自由な人達だから。すぐ来るわよ。父は今居ないから、明日以降に時間をとるわ。良い?」

「ああ もちろん」


 フィリップもアンリーも国交や商談の為来訪したのだが、やはり気になるのはリリアの姿であった。


 尽きない話に笑い声が耐えないテラス。

 そこへレオナルドがやって来た。


「初めまして〜レオナルドです。えっとビオラの弟。でも、母親は違う。腹違いの弟です。よろしく」


「腹違い?へーオープンだね〜」

 とアンリーがレモネードを飲み干して言う。


「あんた達、同じようなテンションね……」とビオラは横目に突っ込む。


「わあ、噂のロザリーヌ元王女。やっぱりな。リリアが負けるはずだ。内側から美しさが滲み出てる」


「ね?お人形みたいでしょ」


 リリアという名に静かになるヴァロリアの面々。


「で、君がダミアン!ハンサムだな。うん。ハンサムだわ」

「ちょっとレオ、うるさいな」とビオラが突っ込んだ。するとダミアンが珍しく口を開く。


「レオナルド様が王太子では無いのですか?」

「残念ながら、王位継承権はないよ。エルナンドが居るからね。」


「あ その方が婚約者……」


「ああ。ひとつ聞いてもいいかな。フィリップ殿下、もしさリリアが帰りたいって言ったら帰らしてあげる?ヴァロリアへ」


 レオナルドの突拍子もない質問に皆が一斉にフィリップに注目する。

 眉間にシワを寄せたフィリップは、静かに語った。


「私が追放し、ヴァロリアの地を再び踏めば死刑だと通告した。よって……」

「かたっ。まあ本人に会ってみて。反省はしてるみたいですよ。」

 とレオナルドもテラスで腰掛ける。



 そこへ姿を表したエルナンドとリリア。

「こんにちは。ヴァロリアの皆さん 僕が王太子のエルナンドです」

 不自然に手を繋いだ二人、エルナンドの隣で死んだ目をしたリリアに空気が凍てついたのは仕方がない。


「初めまして。ヴァロリアのフィリップです。この度はご招待頂きありがとうございます」


 アンリーが一通り皆を紹介した。

 が、エルナンドの反応はとても薄いものであった。


 誰とも目を合わさないリリアに、ロザリーヌが歩み寄るその傍らにはキャシーが付き添うように居る。


「リリア、お久しぶり。リリア」

「……ロザリーヌ」

(謝らなくちゃ……でもどうやって謝れば……魔女騒ぎだってフィリップ様の矢だって噂を流したら勝手にどんどん噂がひとりでに……でも全部、もとはと言えば私のせい)


 俯き葛藤している様子のリリアの手を取りロザリーヌはただ微笑んだ。


 しかし、その不自然に覆われた腕に目をやるロザリーヌはキャシーと目を合わせる。

「リリア、これは……?」

 気づいたリリアはさっと手を引っ込めた。




 ぎこちないまま迎えた晩餐。


 あまり弾まない会話。ワインに手が伸びる回数だけが増えていく。



「リリア、こうして、ここに来たってことは私はあなたを責めてないって言うことで、その……今まで色々あったけど、私は……何度でもあなたと向き合って話したいと思った」


 ロザリーヌが言葉を選びすぎた為に、何を言いたいのか理解するのが難しく、不器用な話ではあるが、リリアはじっと耳を傾けた。


「ロザリーヌ、私はあなたに消えてほしくてあんなことした人間よ。私はもう償えない……。謝るなんて事では済まされないのは分かってる……」


「リリア、謝って」

「…………?」


 その一言にみんな手に持ったワインを止めた。

 しかし、エルナンドだけはぐいっと気にせずに飲み干す。


「話して、理解しあおうとしなかった事を謝って」

「…………」

「誰にも頼らなかった事を謝って!!」

「…………」


「ロザリー、飲み過ぎじゃないか」とフィリップが声をかける。たしかに、飲み過ぎであった。


 席をたとうとしたフィリップを止めダミアンがロザリーヌを連れ退席する。


 キャシーもそれに続き、ロザリーヌは用意された部屋へと向かった。


「あああ 私変なこと言ったかなぁ」

「いえ。大丈夫ですよ。きっと。リリア様の目が少し光った気がしました。いい意味で」

「そう?ありがとうキャシー 少し眠るわね……」



 ロザリーヌが脱落したのを機に旅の疲れから早めに各自部屋へ戻った。


 キャシーとメリアは同室。その隣はロザリーヌ。

 向かい側にダミアンそして、フィリップ、アンリーはそれぞれ個室であった。


 ダミアンはロザリーヌが部屋を施錠したか気になり眠ったか気になるも部屋へ行くわけにもいかず、眠れずにいた。



 しばらくし、皆が寝静まった頃カチャリと扉が開き、閉じ、また開き、閉じる音がする。


「夜遅くごめんなさいっ。やっぱりなんだか怖いから、キャシー?メリ?一緒に寝ていいかしら」


 暗い中ベッドへ入り込んだロザリーヌ。

 笑いを堪えながら月夜に白く光る髪を撫でる手。

 すぐ目の前にある体は逞しい。メリアでも逞しいかもしれないが。


「え?!」

「ロザリー、キャシーじゃないよ メリでもない」

「え?!」


 それはダミアンであった。


「危ないなあ。フィリップ様か、アンリー様じゃなくてよかった……」

 それは切実であろう。

 しかし、夜這いをした形となったロザリーヌは飛び起きベッドに座る。


「あ ごめんなさい。戻る 部屋に 自分の」


 手を掴むダミアンは

「独りで眠るの怖いんだって?」と悪戯に言う。

「いえ、大丈夫っ」

「じゃ、おまじない」


 ロザリーヌをぎゅっと抱きしめて、口づけをした。


「さ、眠れますか ロザリーヌお嬢様」

「ははは」


 ロザリーヌを僅か数歩の部屋まで送り施錠するよう言い戻ったのだった。


 その頃リリアは、おまじないとは正反対のお仕置きを受けていた。



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