溺愛とは・・・?

 マシュー団長とダミアンは、今すぐフィリップ王太子には報告出来ないという結論に至る。精神穏やかではないフィリップに言えばどうなるかと話し合い、結果アンリー第二王子にだけ報告したのであった。


「ああ……分かってはいたけどさ」


 さすがのアンリーもいつもの軽快さを失う。

 刺客を送り毒殺未遂、これまでの誘拐未遂などを考えると極刑の可能性も捨て切りれないのだ。

 また、王都に野放しにすれば捨て身で暗殺を企む可能性は大いにある。

 完全に理性を失ったリリアを、まずは拘束することとなった。




 その頃フィリップはロザリーヌを呼び自室でメイドに紅茶を淹れさせる。

 その背後には、リリアのメイドをしていたポルテが立たされている。

 毒味係だ。ロザリーヌや自分が口にするものはまず、ポルテに毒味をさせる。


「さ、出たまえ」


 ポルテを追い出し、ロザリーヌだけを自室に残す。今も記憶喪失だと信じ切っているのだった。

 ロザリーヌもアンリーから伝えられるまでは黙っておく約束である。


 憂いを帯びたブルーの瞳は、まるで触れれば砕け散ってしまいそうな花に触れるようにロザリーヌを見つめる。


「ロザリー 大丈夫か」

「はい。あ、ありがとうございます。保護していただいて」

「何を申す。君は私の大切な女性。きっと記憶があれば私と一緒になりたいと願っただろうに。ああどうして、あの激しい愛情を忘れてしまったんだ……ロザリー」


(激しい愛情……あ、妹としてべったりくっついてたロザリーヌ)

 フィリップは、オリジナルのロザリーヌの言動を美化し自分を溺愛するロザリーヌであったはずと思い込んでいるようだ。


「ああ」

 もう返す言葉が見つからないのである。

 しかし容赦なくフィリップは語る。


「何度使いを送っても来てくれなかったな。だが今こうしてここに居るのも運命だ。ロザリー、お前を殺めようとした者は即刻死刑にする」


「…………」


 コンコンコン


「フィリップ様、王が、王様が危篤でございます」


「なに……」

 部屋を飛び出しフィリップは王の間へと急いだ。


 アンリーも後からやって来て、フィリップの部屋に残されたロザリーヌを連れ王の間へと急ぐ。


「アンリー様、私は……」

「一度は父となった方だろ。行こう」

「はい」


 王の手をそっと布団に戻した医師が振り返る。

「脈は正常です」

「…………」

 どうやら心肺機能は正常だが意識を完全に失った昏睡状態に陥っているようだ。


 この状態が長引けば恐らく王太子が王位継承する日が近いであろう。



 ◇◇◇



 マシュー団長らはリリアのスチュアート侯爵家を訪ねたが、縁談の為、西の国バミリオンまで出向いているという。


 このまま逃亡される可能性もある。


 マシュー団長は、騎士団の少数をバミリオンまで派遣する事にした。

「一旦戻ってバミリオン宛の書を作る。」

「はい」


 そして、その後アンリーを訪ねたのであった。

「アンリー様、やはりフィリップ様に言うべきでしょうか……」


「仕方ない。今晩話すよ。それにしてもロザリーヌの記憶どうしようかな……。」





 その頃ロザリーヌは、自室を再び使うことが許され、メリア騎士に頼みキャシーを呼んでいた。


「キャシー、聞きたいことがあるの。きっとすごくおかしな質問だけど、答えていただきたいの」


「おかしな 質問ですか」

「ええ」

「はい。なんなりと ロザリーヌ様」


「私が、意地悪な王女と言われてた頃、特にフィリップ様に対してどんな言動をしてたかしら」


 きょとんとするキャシー。まさか本当に記憶喪失なのでは?と心配しているようであるが、いつも通り真面目なキャシーは言われたとおり質問に答える。


「そうですね。ロレーヌ様とこの宮殿に来られたのが十二歳の頃でしたから、よくアンリー様と走り回って、いたずらをしてはフィリップ様に怒られていました。」


「その頃から気はお強い王女様でしたが、私も当時は十四の子供みたいなもの、メイドはあくまでお世話係ですから。詳しくは存じ上げませんが、ロザリーヌ様はよくフィリップ様に『この弱虫王子 硝子のハートね』と叫ばれていたような……」


「硝子のハート…… 」


「リリア様と婚約されてからは、リリア様に厳しくフィリップ様には優しくといいますか、大好きといつも付いておられましたよ」


 聞いていて、むず痒くなるロザリーヌであった。


「ごめんなさいとありがとうは言わない王女様でしたね」とキャシーは最後に苦笑いで付け加えた。




 その晩


 アンリーはフィリップにロザリーヌに刺客を送ったのはリリアであること、とリリアは西の国バミリオンへ縁談を装い逃亡した可能性がある事を話そうとフィリップの部屋へ向かうのだった。



 ロザリーヌは、ダミアンを探し騎士団の宿舎前でうろうろ行ったり来たりを繰り返す。

 その様子をしばらく窓から笑みをこぼしながら見守っていたダミアンは外へ出てきた。


「ロザリー」

「ダミアンっ」

「私をお探しで?」といたずらな笑みを浮かべる。


「散歩です」

「何度も行ったり来たり?あの角から何度も?」

「見てたのですか?」

 と頬を赤らめるロザリーヌを見てダミアンは頬が緩む。


「犯人は分かりましたか」

「リリア様です。ま、分かっていたことですが。」


「……リリアはどうなりますか?」

「まだフィリップ様の耳には入ってませんが、恐らくは極刑かと」

「……せめて遠くへ追放とか、命は取り上げないようには出来ないのでしょうか……」


「ロザリー!あなたの命を奪おうとしたのですよ!……俺は許せない。」


「私がフィリップ様の望むようにここに居ればリリアの刑は軽くなりますか……」


「それでいいのですか?ここに戻りたくないって言ったじゃないか……。

 もう少し、ロザリー、わがままに、欲をもつべきです」


「欲……私にも欲はあります。

 私はダミアン、あなたといたい……あ その あなたは騎士として私を守ろうと婚約までして。だから……それ以上は求めちゃ駄目だと分かってます。……でももしそれが―――」


 とんちんかんなことを話すロザリーヌの口はダミアンの口づけで閉ざされた。


 そっと唇を離したダミアンが切ない目をむける。


「騎士とか王女だとか関係ない」

「……ダミアン」

「俺はただ 君を愛した男 それだけです」

「…………」

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