四つの贈り物

「お出かけでしたかあ?ロザリー」

「あ……お兄様」

「なんだかすっかり楽しそうだね。いいなあ 俺も混ぜてほしいなあ」

とアンリーはいたずらに、からかうように言う。

混ぜてほしいなら待ってましたと言わんばかりにロザリーヌの目に力が宿った。


「あっでは。お兄様は野菜の仕入れや商人、流通など分かりますか?」

「ん?なに……どうしたの急に?」

とアンリーはキャシーとメリア騎士に疑問の顔を向ける。


そこから怒涛のロザリーヌの持論が繰り広げられ、アンリーは白目を向きそうになりながらも何とか聞いている。


「で、私がしゃしゃり出るべきでないなら、是非お兄様に貴族の方々に打診してほしいのです。荷車で運ぶ仕事を商売とするのは民に機会を与え、商人は運賃を払って……」


「はあ、なるほどね」

「動いてもらえますか!お兄様時間ありそうですしっ」


「失礼だな。ロザリー、最近兄上がやたらとかまっているみたいだけど。アンリーお兄様にも、ほらおいで」

「え?」


またしても自分に抱きつけと催促するアンリーを前にロザリーヌは固まる。

(なんなの この王子兄弟は……ハグフェチかなんか?この世界はこれが普通?)


困ったロザリーヌは見守るメリア騎士の顔を見ると、うん!やれっといわんばかりに頷く。キャシーは皆がロザリーヌに親しくするのが嬉しいようで、同じく笑顔で何度も頷く。

最後に視線をダミアン騎士に送るとプイと知らぬ顔をして「お先に失礼いたします」と部屋を出た。


「あ、お兄様それからゲリアンの森を開拓する際はスカラ族の方々に賃金を払って働いてもらえませんか?」

「そんなことの前に立ち退き代を払えと騒ぐよ」


と話をすり替えハグから逃げたのだった。




◇◇◇


数日後


「ロザリーヌ様 失礼しますっ」

キャシーが楽しそうにやって来た。珍しく編み込みを二つにし大草原とサンドイッチが似合いそうなそばかすの乙女である。


「どうしたの?なに?キャシー」

「シモン様が去られる前に、舞踏会を開きますって。ロザリーヌ様……是非シモン様と踊られては?あ、失礼しました。私がこのような事……」


「いえ……。どうしようかしら」


ロザリーヌは襲撃事件や王都の視察、世直しのアイデアに夢中でドレスを準備していない。派手なドレスはメリア騎士の妹や令嬢達にあげてしまったのだった。

王女が着るようなドレスは無いのである。


コンコンコン


「はいっ」

部屋の入口で他のメイド達も来て箱を抱えては落とし、バタバタするキャシー。


「キャシー、何してるの?」

「ああ、あのロザリーヌ様にお届け物が……」


そこには四つの大きな箱が積まれていた。

キャシーに言われ箱を開くロザリーヌ。柔らかな紙の包装をゆっくりと立ち上がりながら外し取り出したのはドレスであった。


真っ赤なドレスは装飾が控えめなシルク調で滑らかなシンプルなシルエット。

淡いピンクのドレスはふわふわな何層にもなるフリルがプリンセスらしく愛らしい。

白いドレスはまるでウェディングドレスのように沢山の刺繍レースが施され上品である。

緑のドレスはアンティーク風の刺繍が裾にあり所々を摘み動きを出したシルエット。


「とても綺麗……これはどなたから?」


「それが、皆匿名でのプレゼントなのです。おそらく皆様ご自分だけがプレゼントしたと思い込んでらっしゃるのか……当日楽しみにされているのかと……」


なんとも大迷惑なプレゼントである。どれを選んでも他の方々が落ち込むのだ。


「はあ……」


「この際、一番好きな色をお選びになっては?」


「好きな色……または時間差で着替える?」

披露宴でのお色直しでもあるまいし。これはまたひと波乱を巻き起こしそうであった。



その後ロザリーヌはシモン王子から庭の散歩に誘われていた。

ゆっくりと歩き、手入れされた庭を眺める。


「あ、そ そうだ。あの毒物は、あの騎士が調査してくれていますよね」

「あ、そうだと思います。」

「ロザリーヌ王女、く くれぐれも口にするものには気をつけて。」

「ありがとうございます。あの、交渉は上手く行きました?」

「あ、はい。なんとか……近々ゲリアンの森に取り掛かるでしょう。アンリー王子から聞きました。あなたは大変熱心だと。ぼ、僕も精一杯出来ることをします。あの……あ あなたの志と同じです」


シモンはまたじっとロザリーヌから目が離せずにいる。

が、ずっと自身の服の端っこを力いっぱい摘み落ち着かない様子であった。


「はい。宜しくお願いします」


(理想の旦那様ってこういうタイプなのかしら……。優しくて奥ゆかしくて、物腰が柔らかい、なんだか澄んだ心を持つ人。さらに強い……え、すごいじゃない。でも、どうしてこんなに不安げなのかな……)


得意げよりは不安げな方がおすすめか否か、この辺りの王子の中には普通のタイプが居ないようである。


「シモン様。舞踏会楽しみですね」

「あ、あ は はい。」


シモンは自分が贈ったドレスを着るロザリーヌを想像し頬が緩む。眉毛はハの字となり首を少し傾げ顎は少し引かれ、もうそれは凛々しさなど無縁な姿であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る