第39話 疲労困憊

 ケーシャの言っていた通り静かに歩いていれば襲ってくるものはいなかった。デカい熊みたいなものが歩いているのを見かけたが興味がなさそうに歩き去って行った。人間って美味しくないんだろうか。


 草地もあれば砂地もある道のりだった。何がないかといえば道がない。いや、人が通ったであろう跡はあるのだが俺が考えるような舗装されたような整えられた道がなかった。

 それなのにぽつぽつと住居の成れの果てがあるのが気にかかる。聞いていいものなのか分からず聞けないでいた。

 森のような林のような緑がポツポツと点在している。ああいうところに魔獣ないし魔物が住んでいるのだろう。

 寝床というかねぐらというか。

 住居の成れの果てに何かが潜んでいるような気もする。

 襲われない違和感を感じながらただひたすらに前に足を出した。


 せめて自転車が欲しい。だがこんな道ではマウンテンバイクも役に立たない。そもそも俺にそんな技術がないということもあるが。


 最初はケーシャとポツポツと話してもいたのだが俺の体力がないために無言での進行となっている。いつもどうしていたのだろう。会話しながらなのか? 考えることはできるが声を出すことができない。楽しく旅をしていたのなら申し訳ない気もしている。



「今日はここで休もうか」


 半分笑ったような顔でケーシャが声をかけてくる。声を出すのも億劫で、俺はうなずくだけだ。

 もう取り繕うこともできない。必死に歩き通した俺はもう止まったら眠るだけなのだ。


 そうして寝倒れた俺が朝日を感じて目覚めるといつの間にか寝袋に包まれていて隣でケーシャが起きていたり寝ていたりしている。

 今日は寝ているのでこの辺りは安全なのだろう。ぼーっとしているうちに何も食べていないお腹がぐうと抗議してくる。お腹だけは空くのだな。

 リュックから適当に食べ物を取り出して咀嚼する。水はもっぱら魔法の杖から出して飲んでいる。蓋をひねる必要も何かに注ぐ必要もないので便利だ。


「おはよう。何食べてるんだ?」

「おはよ……パン……?」


 咀嚼していて手に持っていたのを見ればメロンパンだ。何故メロンパン? あれもこれもと入れたは入れたが何だか覚えのないものが出てくる気がしている。しかしもう疲れ切った頭には考えることができる領域は残されていない。


「見たことないパンだな」

「いるか?」

「いや……そうじゃなくて。ちょっと前から気になってたんだがエータは保存のきく食料しか入れてないのか?」

「? メロンパンはすぐべちゃべちゃになるけど?」

「……それべちゃべちゃには見えないよな」


 言われてメロンパンを見る。一口。カリカリとしたクッキー部分が美味いな。


「そうだな? どうかしたか?」

「出発してから日が経っているのにな、と思って」

「うん?」

「そのリュック特別製か?」

「どうだろう。俺にとっては物がたくさん入る時点で特別製だけど」

「あーそうか。はっきり言おう。そこに入れてる食べ物日が経つか?」

「……果物なら熟すとか腐るとか?」

「そう」


 ぼんやりしている頭で思い出してみる。そういえばもう食べてしまったけどバナナが柔らかくなりにくかったな。ここ数日食べ続けているリュックから出したパンは柔らかく芳ばしい。何日か前のの朝にケーシャにもらったパンはボソボソとしだしてスープに付けて食べたなぁ。次からは携帯食になるってはなしてたな……。ん……つまり?


「言われてみればっていうレベルだけど」

「後で試してみる必要があるか」

「?」


 ため息をつくケーシャが何を悩んでいるのか分からない。


「ごめんな?」

「あーあー町でしっかり休んでから考えような」


 わしわしと頭をもみくちゃにされるがされるがままである。きちんと寝ているし筋肉痛もあるんだかないんだか分からないし以前に比べたらはるかに健康的ではあるが、今一番の望みは何も気にせず寝れるだけ寝ることだ。

 日が沈んだら寝て日が昇ったら限界まで体を動かす。こんな今までしようと思ったこともない生活は思考を溶かす……。

 そうだ。もう町についてから全部考える。


「早くいこう」

「よしよし。まだ立たなくていいぞ。俺がまだ食べてないからなー」

「あ、そうだな」


 あたまがはたらかない。



 そんなこんなで。

 目の前に町が見えた!! まちだーー!

 腕を腕に上げて喜びたいけどへろへろなのでそんな事もできないぜちくしょう!


「いやー……思ったより時間がかかったな……」


 程よい長さの木の枝を杖代わりにしていないと立っていられない俺の隣で体力の有り余っているケーシャ。体を伸ばしているがそれは動いてなさすぎて、のストレッチ行為なのか? 途中襲ってきたモノたちはケーシャには手応えのないものだったらしくかるーくいなしていた。おかげさまで危険を感じなくて済んだが。


「それは本当に申し訳なかったな! 申し訳ないついでにちょっと寝たいんだけど……」

「そうだな。まずは休んでくれ。どっかにグロリアが宿を取ってるだろうから」

「グロリアさんにも悪かったなぁ」

「大丈夫。グロリア気にしてないと思うし」

「そんなの本人に聞かないと分からないだろ」

「そう答えると思うけど、まずは全身綺麗にしようか」

「わかる……」


 グロリアさんと別れてしまったことであの便利魔法の恩恵が消えたのだ。ケーシャは使えないと言うし、俺は論外だ。水でどうにかしていたのだ。出てきた風呂は使うのすらめんどくさくて出番なし。今から使うかといった気分だ。このままベッドには入りたくない。洗濯もしたい。

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