優しい王様と残酷な大臣

 ある国で毎年のように餓死者が出るので、民を憐れんだ王はこう宣言した。

「我が国の民が飢え死ぬなんて、私は哀しい。これからは餓死者が一人も出ないように、私が王として対策する。もし来年以降我が国で餓死者が出たら、神に私を生贄に捧げるがいい」

 王と大臣の働きの甲斐あって、次の年からその国で餓死者は全く居なくなった。


 餓死者がゼロ人になって七年目、異常気象により飛蝗ばったが大量に発生し、数ヶ月空を黒く覆い尽くした。王と大臣の対応虚しく大飢饉が発生し、餓死者が大勢出た。。

 死体を数えるより生きている人間を数える方が、明らかに早い有様だった。

 餓死者が出始めて半年後、大飢饉はなんとか収まった。しばらくして大臣が王に向って申し述べるには

「王様、七年前の仰せを覚えていらっしゃいますね。そろそろお覚悟を決めてください」

 王は狼狽して言い返した。

「あれは、言葉の綾というものだ。私が居なくなればこの国はどうなる?」

 大臣は淡々と述べた。

「ご安心ください。王子に新たに即位して頂きます。それよりも、あの時のお言葉、王としてしっかり果たしてもらいますぞ」

 こうして王は大臣に殺されてしまいましたとさ。


 ゼロを目標に掲げてはならないとこの話は解き明かしている。

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