儀式

───人間とケモノ、意思の疎通は本来ならば難しいものでした。

けれど、この世界には魔法があります。

必要以上の力は持ち合わせることが出来ないことわりがあり、この小さな村では生活に役立つ魔法しかありません。

ですから、ケモノも生きていくためにの魔法を宿していました。

人間は口から声を発して言葉を紡ぎますが、彼らは脳に同時に伝えて声の代わりとします。

本来本能で生きるケモノの知恵の魔法です。

自然と小さな魔法のみ許されているため、食料は自活するのです。

ケモノには雌は生まれません。

人間の生存のために彼らは繁殖期の終わったケモノを差し出します。

その代わり人間は、未婚の女性をとして差し出すのです。

により、に変えて───。


「お互いが共存契約をやめることは破滅を意味します。バランスが崩れれば崩壊するしかないのですよ」

「理屈ではわかっているんだ。だが、人間とケモノは違うイキモノだから───」

「そんなリクツはただのヘリクツだ。オトナもコドモもない。ジダとゴダは同じだ。ニタは言葉を並べてリカイするのが苦手だ。だから───ニタが行こう。ニタを王が呼んでいる。それにはきっと何か意味があると思う」


変わらない硝子のような瞳でケモノを見据えます。


「だ、ダメだ! ニタは俺の嫁にならねばならないから行かせない! 」


ニタはゆっくりゴダに振り向きます。


「ニタは……オマエをよく知らない。それにヘリクツばかり。なのに、を見る目で見ている。一緒にいても楽しくないだろう、面白くないだろう。ニタはオマエの嫁にはなりたくない」


ゴダはギリッと歯を食いしばります。


「……オマエの親はになったんだよな。なら、オマエはケモノの娘だ!

そんなやつこちらから願い下げだ! 狩られる日を震えて待っていろ! 」

「ゴ、ゴダ! 」


顔を真っ赤にして村に向かって走っていきます。慌ててジダがこちらを気にしながらゴダを追い掛けて行きました。


『……王が欲する理由がわかった気がする。ニタはな存在なんだな』


ニタは表情を持っていません。

考えることを知りません。

ありのままに生き、ありのままを言葉にする、諸刃の剣。


『……元村長夫人。先程は何故、俺をと呼んだんだ? 』

「発起人が誰であれ、ゴダのあの勢いでは貴方を殺していた可能性があります。あの子は……ダダが、息子が大好きでしたから」

「おばあの嘘はツッコミしにくいのう」

「しようとしていたら首を絞めて息の根を止めてしまいますよ、おじい」


満面の笑みのおばあにおじいは青ざめながら膝をカクカクさせています。

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