悪夢

変だ、体が熱い。


「あれ、もう効いて来ちゃったんだ?今日はちょっと違う薬にしたんだよ」


星川は僕を観察するように見つめながらにっこり笑う。


「…なんの、はな、し?」


「ごめんね、本当はいつもみたいにゆっくり話していい雰囲気になってからしたかったんだけど…えぇと、お父さんの彼女さん?が帰ってくるまでにそんなに時間ないからもう始めちゃおうと思ってさ」


時間が、ない…?

あの人はいつもこういう時はだいたい夜中に帰ってくるから時間はたくさんあるはずだ。


そんな事を思っていると星川は僕の制服を脱がし始めた。


「…!なにするんだよっ」


「せっくす」


…は?


「…ふざけてるとしたら全然面白くない、」


「ふざけてるように見える?」


「っ!…だいたい男同士でそんなこと出来るわけ…」


「あぁ、月くんの記憶はそこからなんだね?」


「どうせ忘れちゃうんだし…ま、いっか」


「大丈夫だよ。月くんは初めてだと思っているかもしれないけど君の体は僕をしっかり覚えてるから」


…なにを言っているんだ?


「いいから、黙って感じて」

そういって星川から愛される。


…もう限界だった。


星川は満足そうに僕を見つめると

「次は僕の番だよ」

そう言った。


…その後、僕はもう何も考えられなくなっていた。

こんなのは初めてのはずなのにこの感覚を体は覚えているかのように星川から触れられるたび、反応しているかのようだった。

後はただ、ひたすら僕を愛する星川の優しく囁くような声が聞こえてくるだけ。


「ねぇ、月くん」

その声にはっと意識が戻る。


「さっきの冗談って言ったやつ。たしかに僕はそうだったけど、たぶんあの人は本気だよ。僕としたいって顔してたから」


「本当は月くん以外に触れたくない。でも僕と月くんがずっと一緒にいるためには今はあの人の事を利用しないといけないんだ。

…だから今日の夜、あの人と寝るかも。」


「…っ!」

胸がズキンと痛む。


「ねぇ、月くん。僕とあの人がこういうことしたら嫌?」


「さっきだって本当は妬いてくれてたんでしょ?このまま月くんか正直にならなかったらこんな風にあの人に触れちゃうよ?いいの?」


…僕は何も答える事が出来ない。



「…ねぇ、はやく答えてよっ?」


星川の苛立った声と容赦ない衝撃が僕を襲った。

その後意識を失う事も許してくれないほど激しい行為が続く。


…何時間続いたんだろう。


終わったのは星川が数を数え初めて10回目の時だった。


その間、嫌だと言っても星川は止めてはくれなかった。


「…月くん、ほんとに僕が誰を好きになってこういう事してもいいって思ってる?」


力尽きてしまった僕を優しく抱きしめながら切なそうな声で言う。



「…い、やだ」


「星川が…あの人とこんな事するなんて…考えたく、ない」


枯れた声で星川に伝える。

「…つ、きくん…」


「はぁっ、嬉しい…」

そう言って星川は僕に優しく求めるようなキスをした。


「今はね、僕の事好きだからとかそんなんじゃなくてもいい、ただ月くんからのほんの少しの嫉妬だけでも…ただ他の人とは嫌だって思ってくれるだけで僕嬉しいよ…」


「大丈夫、最初からあの人に触れる気なんてなかったよ。どうしても月くんにヤキモチ妬いてもらいたくて意地悪しちゃった…ほんとごめん」


「だから安心して眠って?」


そう優しく頭を撫でられ僕は眠りにつく。


「…ふふっ。そう、嫌なんだね?」


その時星川が不敵な笑みを零した気がした。









…ん、うるさい。なんだ?

一階のリビングの方から声がする。

星川は…居ないようだ。

もう帰ったのか?



足音を立てないように一階を降りる。



そこには誰かに跨ってる奈津さんがいた。



「さいこぉっ!こんなの、はじめてぇっ、」


…いやだ。


「っ…。いつぶりかしらこんなの…」 


…嘘だと言ってくれ


…こんな事実、受け止めたくない


…僕は悪夢を見てるんだ


「さいこぉ…意外と激しいのね、翠くん♡」



…そうだよな?星川。











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