第40話 結果報告

「と、こんな感じで今日一日、ルアナ様と一緒に街中を見て回っていました」


「へぇ、ルアナ様が護衛としてなぁ」


 何それ。羨まし‥‥‥じゃない。どうしてそんなことになった? まあ影に他の護衛がいたんだろうけど、これってあれか? 領主の娘まで動員しなくちゃいけないような状況なんだろうか?


 この辺、多分政治的な配慮とか駆け引き的な何かが働いてるんだろうけど、さっぱりとわからない。かろうじて俺に分からうのはライラとルアナ様の女子二人がちょっと仲良くなったことくらいだ。


 やっぱりちょっと羨ましい。


「で、黒騎士様の方はどうだったんですか?」


「俺か? 俺の方は……あれだ。一応結果的には当初の予想通りだったんだけど、中身は全くの別物になっていたというか……」


 こてん、と不思議そうに首を傾げるライラが可愛らしい。


「まあ、何と言うか……こっちの襲撃がバレてて向こうが準備万端って感じで待ち構えてて、なんとか正面から突っ込んで打ち破った。だけど……結局は三人に足止め喰らってそれ以外にはまんまと逃げられたってとこ」


 説明を聞いているライラの顔が段々と困惑している。


「それは……なんと申しましょうか。さすがは黒騎士様と仰るべきか、それともどうしてそんなことにとお慰めするべきか……」


「うん、どうしてこうなった? ってのは俺も思ってた」


 うんうんと頷くと、ライラは何かに気が付いたようにハッと顔を上げて。


「でも、あれですね。昨日黒騎士様とぼくが話していた内容がガッチャンコして合わさったみたいなお話ですよね!」


 あ~、言われてみればそうかも。敵陣に乗り込んで真正面から打ち倒すってのはライラが言ってたことで、二、三人が囮になって他が逃げるってのは俺が言ってたことだ。


「まさか昨日の会話がフラグだったとは……」


「フラグ?」


 ライラがまた首をコテンとしてこちらを見てくる


「あ、いや、なんだ、こう……物事の前兆というかお約束的な感じだ」


「はぁ……?」


 余計に困惑してしまったのか、今度は首が逆側に倒れた。


「まあ、その話は置いといて……情報収集は上手くいったのか?」


「はい! そちらはばっちりと」


 ライラは胸の前でパチっと手を合わせた。


「とりあえず、食料品に関してはガルフォディア王国の方が少し安かったですけど、高騰しているってほどじゃありませんでした。代わりに、羊毛や皮革なんかはこっちの方が安かったです。市場で話を聞いていましたけどこの街の方々が値段について不満を漏らしたり、市場で喧嘩が起きたりなんかはしてませんでした。ただ……」


「ただ?」


「どうやら、この領と北方の領で何かしらのトラブルがあったらしくて、北方との交易にかなりの不都合が生じているみたいなんです」


「ほう?」


「ただ、これについてはあまり情報が出回ってないみたいで……さすがにご領主さまの娘であるルアナ様の前であまり大っぴらに聞いて回るのもどうかと思って詳細はわかりませんでした」


「いや、そこまでわかればいい。大したもんだ」


 ポンと両手を膝に押し当ててからゆっくりと立ち上がった。


「とりあえず、今日はもう遅いし、そろそろ休むとしようか」


 そうライラの方を向いて言うと、ライラはこちらに頭のてっぺんを向けていて、思わず手が出た。軽くポンと頭に手を乗せた瞬間、ふわっとした手触りがやけに心地いい。


 そのまま撫でようかとしたときに、俺は自分がしていることに気が付いて慌てて手を引っ込めた。


 ちらっとこちらを上目遣いに覗き込んでくるライラの目はどこか不満げだ。


 ……また勝手に頭を撫でてしまったせいだろうか?


「そうですね! 今日のところは部屋に戻らせてもらいます!」


 怒っているのか、どこか語気を強めにライラは椅子から飛び降りて隣の部屋に繋がるドアに手を掛けて。


「おやすみなさい!!」


 とばたんと大きな音をさせながら扉を閉めた。


「やっぱ、女子の頭を撫でるのってハードル高いんだなぁ」


 でもしょうがないじゃん。あんだけ撫でやすいようにされてたらついつい手が出ちゃうって……ん? もしかして、これセクハラ親父の言い訳か? 俺ってもしかしたら前世では相当ウザイ親父キャラだったりするんだろうか……


 ちょっぴり悩みながら俺はベッドの中に潜り込んだ。

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黒騎士は名誉回復のため遍歴の旅に出た〜ハニトラに引っかかったバカ王子とその取り巻きのせいでヒドい目にあったけど周りの理解があるおかげでもっとメンドクサイ方向に… 不破 雷堂 @fuwafuwaraidou

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